
実のところこの映画がもの凄く好きになってしまって逆に上手く話せない気がする。
久し振りに気になる映画を見つけた感じだ。
シークエンスごとに時間が逆進行するという手法も面白い。というか最初に、最後に流れるはずのクレジットが流れ出ししかも外国語とは言え裏返しの文字だ。しかも次第に曲がって斜めになっていく。
しょっぱなから凝った演出をする映画だなと思って観てたら、カメラが振り回されてでもいるかのように画面が揺れて揺れて薄暗く時折光が点滅し低い音が絶えず流れ不安な音楽も聞こえる、といった具合だ。
なんだか先日の「サイレントヒル」をもっと大人にした感じなのだが同じフランス人の監督だし恐怖と言うイメージが似ている部分もあるのかもしれない。
そして狭い部屋に裸の中年男ともう一人の男がなにやら物憂く話し合っている。
またもカメラは揺れていて不安で落ち着かない。太った男は「時はすべてを破壊する。・・・俺は娘と寝て刑務所に入れられた・・・」というような事を話す。このセリフは監督の前作品と繋がっているらしいが、それを知らない自分はますます不安な状態におかれてしまう。
彼らの部屋の下には「レクタム(直腸)」と言う名前のゲイクラブがあって騒ぎが持ち上がっている。
男が担架で運び出されている。酷い怪我をしているようだ。その片割れという男も警察に引っ張られていく。
何もわからない。
また激しく画面が揺れ赤い光で満たされている。神経を逆なでするような音が絶え間なく流れる。
不安定な画面のせいではっきりと観る事が難しいがゲイクラブの中と思しき男達の絡み合う場面が続く。
先程、運び出されていたはずの男が「テニア」という男を探して狭いがいつまでも続く店内を乱暴に歩き続ける。
この辺でおかしいと感じ時間が逆に流れているのかと勘ぐる。
しかし何の説明もされず繰り返し男がテニアの居場所を聞く。その事もまた酷くいらいらさせられる感じだ。
どうやらマルキュスと呼ばれるその男は復讐のためにテニアを探しているのだ。もう一人の男はピエールという友人らしくマルキュスの復讐を止めようとしている。
不安な音が続く。
マルキュスはある男と言い争いになり腕の関節をはずされる。それを見た友人ピエールがその男の頭に消火器をぶつける。男が倒れ、ピエールは何度も何度も消火器で顔に叩きつける。歯が折れ顔はぐちゃぐちゃにつぶれる。
何が起きたのかなぜ「復讐」がされたのか(しかも実は顔を潰された男は復讐の相手ではないのだ)なぜこのような惨い行動を見せられてしまうのか。
逆に流れる時間はこの後、その答えを教え始める。
マルキュスとピエールは復讐の相手を探している。マルキュスは酷く興奮している。
また時間がさかのぼりピエールは警察から質問されている。マルキュスは茫然としている。
ある男が近寄り「警察に任せても無駄だ。復讐をしろ」と問いかける。
マルキュスとピエールがパーティについて話しながら歩いている。「レイプだ」という声。
血だらけになった顔の女が運ばれていく。「アレックス」とマルキュスが泣き叫ぶ。女は彼の恋人だったのだ。
美しい女の後姿が扉を開け外へ出て行く。
女は薄い肌の露出が多いワンピースを身にまとっている。
道路の向こう側へ行く為に地下道へと進む。
そこで女=アレックスはゲイの男に絡まれ強姦されてしまうのだ。
低い位置に置かれたカメラがゲイ男とアレックスのレイプシーンを途切れることなく映し出している。犯された後アレックスは男に顔面を蹴られ殴られ血だらけになる。その間ずっと男はアレックスを罵り続けている。
惨たらしい場面だ。しかもカメラは定位置に置かれ惨く冷静に一部始終を見届けようとしているかのようだ。
美しいアレックスの顔が血まみれになる。
次々と怖ろしい状況を見せられしかもまだ何が起きたのかよくわからないのだ。
強姦された女性はモニカ・ベルッチが演じているのだが、ひどく美しい。レイプされた後後ずさる時の肩甲骨が印象的だ。
このシーンは男性のほうが嫌悪感を覚えるらしい。モニカ・ベルッチ演じる女性の方に感情移入してしまうらしいのだ。なぜか強姦男には肩入れしないという。私は女性だが特にどちらかに感情移入はせずに観た。しいて言えば現場を見て逃げた人影か(助けてやれよ)
この後、映像も語り方も変わりアレックスとピエールとマルキュスがごく普通にいる若者でしかしアレックスはかつてピエールと付き合っており、今はマルキュスと恋人同士であるという関係なのだと知る(フランス人ってほんとに女一人に男二人と言う関係が昔から好きなのだ。一体どれくらいこの組み合わせの物語を読んだり観たりしたことか)
二人の男は二人ともアレックスを愛しているのだが、二人も親友なのだ。
3人は愛とセックスについて笑いながら話し合っている。アレックスの言葉がその後に起きる怖ろしいレイプを連想させて皮肉な笑いを起こさせる。
そして映画の最後に映し出されることになる物語の最初の部分は美しいアレックスとマルキュスの優しい愛を交わすシーンである。
愛し合う男女の戯れるような場面はセックスをしているわけではないのだがエロティックであり優しさに溢れている。こんなに美しい男女の愛し合う場面はあまり観た事がないような気がする。
無論、この甘い恋人同士の場面がこの後に引き起こされる惨劇をより怖ろしく感じさせるのだ。
マルキュスは子供が欲しいと言い、アレックスは一人になった時妊娠検査をして喜ぶのだ。
そしてまたさかのぼりアレックスは将来の子供を思わせる「2001年宇宙の旅」のポスターの下にいる。
そして陽だまりの中で本を読んでいる。
この本も彼女に起きる事件を予感させる事になる。
眩しい白い光、点滅する光。「時はすべてを破壊する」という言葉。
これは「時はすべてを飲み込む」という言葉とどちらにしようかと迷ったらしい。なるほど。破壊するの方がこの映画的で合ってるけど、飲み込むの方がわかりやすい。
時は幸せな時間を破壊してしまうけど、不幸な時間も飲み込んでしまう。この言葉はすべてということだからどちらもいえるのだ。
人を飲み込んでいる怪物が時間を表しているという絵画があったよね。
監督:ギャスパー・ノエ 出演:モニカ・ベルッチ/アレックス、ヴァンサン・カッセル/マルキュス、アルベール・デュポンテル/ピエール
フィリップ・ナオン/元肉屋、ジョー・プレスティア/テニア
2002年フランス
追記:この映画はこの正視出来ないレイプシーンと暴力シーンに話題があるんだろうけどその犯人となる男がゲイであるということが「作者のホモ嫌悪」を感じさせ、そのことの方が気になった。
私は単に怪しげな雰囲気作りとより女性に侮蔑感を感じさせるための(余計まずいか?)の設定だと思っただけだけど(異性愛こそが自分にとって大切、というようなことを監督が語っていたし)
ゲイが犯人である、という設定の犯罪モノはかなりある。犯人の異常性を増すためにそういう設定にされちゃったりする。私も安易に感じて嫌になる時もあるのだけどね。
この映画に関してはその設定もゲイクラブや街娼の雰囲気でその設定も生かされたかな、と思ったのでした(これも人の受け取り方次第だよね、ま、何でもそうだけど)
追追記:モニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセルはご夫婦だったのね。なるほど、それであの「愛」のシーンなのだ。色っぽいし、和んでたし。
ヴァンサン・カッセルは「オーシャンズ12」に出てたのね。見直さなきゃ。