映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年05月23日

「クライング・ゲーム」ニール・ジョーダン

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内容についてばらさないよう監督自身、非常に気を使った作品ということで時間がたっているとはいえ、あまり大っぴらに言うべきではないのか。と言ってもどうしても触れてしまうだろうから特に今回、未見の方はご注意ください。

物語は前半、IRAの一員として活動しているファーガスと捕虜にした黒人の兵士との会話で形作られる。
ファーガスが所属するIRA一団は英国軍に捕らえられた仲間を釈放させる為の手段として黒人兵士のジョディ(フォレスト・ウィテカー)を拉致したのだ。
だがジョディはファーガスが親切にせずにはいられない性質なのだと見抜き自分が殺されたなら、ロンドンにいる恋人に愛していた、と伝えて欲しいと頼むのだった。
語り合ううちジョディに不思議な友情を感じ始めたファーガスは自らジョディの処刑を志願する。

監督自身あり得ない、と語っていたガラス張りの温室での捕虜との会話。蔦がびっしりと絡みついている温室はなにか幻想的で印象的であった。
ニール・ジョーダン監督作品をまだそんなに観てはいないのだが、非常にロマンチックで古風な趣味の方だと思えるのだが、この温室はちょっと素敵なのである。

後半映画の核となる謎が解き明かされるがこの前半のジョディとの会話にその布石が幾つも打たれていて面白い。
それはジョディとその恋人の秘密であり、またファーガスの人生を予感させるものでもある。

ジョディの処刑を志願したファーガスは彼を逃がすかのような仕草を示すのだが、ジョディは事故死してしまう。
ジョディの遺言を果そうとするファーガスの心にはジョディを死なせたのは自分だという負い目があるに違いない(捕虜にしたのは自分たちなのだし)
ロンドンで美容師として働くディルを探しだしたファーガスだが、すぐにジョディの言葉を伝えることはできない。
そしてファーガスは美しいディルに惹かれていく。何度かの逢瀬を重ね(この辺の丁寧な描き方、少しずつ近づいていくのだ)ファーガスはディルの部屋で本当の彼女の姿を見る。
ディルは男性だったのだ。

ジェイ・デヴィッドソン演じるディルが美しくて可愛らしい。同じくジョーダン監督が作った「プルートで朝食を」のキトゥンが現代的な女性(?)としたらディルは非常に古風な愛らしい女性なのだ。彼女の裸を見て仰天してしまうファーガスも非常にウブな男であり、二人の関係そのものが古風な愛に満ちている。
ラストもこれからどうなるのか判らない、という力強く歩き出すキトゥンのそれに比べ、愛する人の元へ通い続けるディルというなんともけなげな女性のディルなのであった。

ディルを演じる男性を探すのは至難の業であったというだけあってジェイ・デヴィッドソンの可愛らしいこと。実は自分の好み的には化粧を取って髪を切られた彼が愛らしくてたまらなかった。といってもジェイ本人にとっては髪は女の命、ということでかつらを使ったらしいのだが(その話も可愛いじゃないか)無論化粧して長い髪をふわふわさせたディルはまさに男が一目惚れしてしまう愛らしさに溢れていた。彼女がパブで歌う「クライング・ゲーム」という歌がそのままタイトルになっている。
それにしてもIRAのストレートの白人男性と女装した黒人男性とは不思議な組み合わせではある。
そしてファーガスはジョディが言い当てたようにどうしても相手を見捨ててしまえない性質なのだった。
悲しいはずの刑務所での面会がこんなにもほのぼのとした美しい場面であるとは。
このラストは監督の思惑通りなのだが、実は出資者の意向でとんでもないハリウッド風ハッピーエンドになるはずだったらしい。だがその出資者が望んだラストが試写で不評だった為、結局ジョーダン監督の本来のラストとなった。いやあ、観る目がある人が観ててくれてよかったよかった。こんなにいいラストはちょっとないでしょう。

IRAを悪く描いているということでジョーダン監督、随分睨まれたようです。特に女性運動家のジュードは冷酷な性格に描かれています。が、フィルム・ノアールを意識したという後半の彼女のスーツ姿の強面ぶりは優しく女性的なディルとの対比が面白いのですが。
また頻繁に出てくるパブでファーガスが最初にギネスを頼む場面、やっと見つけた仕事であろう工事現場でイギリス人に差別的にパット(アイルランドの守護聖人、聖パトリックを皮肉った)と呼ばれたり、イギリス人はクリケットだが、アイルランド人はハーリングを好む(この前知った!)などイギリス・アイルランドならではの描写も興味深い。
「クライング・ゲーム」をボーイ・ジョージが歌っているというのも意味ありげであった。あの場面でおかしい、と思うべきなのだな。
こんな最後に書くのはどうかだが、主人公ファーガスを演じたスティーヴン・レイのくたびれ加減が心地よい。


監督:ニール・ジョーダン 出演:スティーヴン・レイ、ジェイ・デヴィッドソン、フォレスト・ウィテカー、ミランダ・リチャードソン、エイドリアン・ダンバー
1992年イギリス

コメンタリーでジョーダン監督が自分の作品はケン・ローチのような社会派ではなくメロドラマなのだと言っていた。
登場人物は理屈通りではなく矛盾しているのだとも。
私は両監督作品をそれほど観てないので大したことは言えないが、自分的にはニール・ジョーダンへはかなり理屈っぽい感想を書いていてケン・ローチに感情的な感想を吐き出している。
私が観たケン・ローチ作品が後期のものだからかもしれないが、なんだか逆に感じていたのかな、と一人面白がていた。
自分は批評家でなく作り手だから製作当時には気づかず後になってそういう意識があったのか、と気づくことがあるのだ、という話もまた面白かった。無意識に作ることがいい作品を産むらしい。



posted by フェイユイ at 23:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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