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2007年06月08日

「愛の悪魔 フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」ジョン・メイバリー

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さて困った。
というのは大変面白く観たのだが、ストーリーは他にないものであろうけど映像がまるでデヴィッド・リンチなのである。
リンチといえばそのおぞましくさえ感じる醜悪な映像を鮮烈な印象で作り上げる鬼才だが、その造形はフランシス・ベイコンの絵画からの影響が強く現れているといわれる。
なので本作はフランシス・ベイコンの物語であるし、リンチ映画と似通っていても不思議はないかもしれない。その映像はベイコンの絵画をそのまま映像化したようなものであるから。
ただ困ったことに私はベイコンの絵画は少ししか知らないので、この映画が純粋にベイコンの絵画から生み出されたものであるか、比較して論じる事はできない。
しかし私はリンチ映画は大好きな上、最近まとめて観ていたので強く記憶に残っているのである。
例えば変形した顔、独特のスローモーション、暗闇の中で煙草の火が見えている場面、襞の多い赤いカーテン、赤い部屋などがほぼ同じイメージで表現されている。そして背景にリンチ得意のあの闇から響いてくるようなコオオオという音や奇怪な音、はっきりしない時系列。死体への奇妙な愛着などは本作がリンチから影響を受けたのかベイコンとしてのイメージなのか判断しかねてしまう。特に「ロストハイウェイ」のイメージが強い。だがこの映画は「ロストハイウェイ」の翌年に作られているようでそんなに近くていいのかという疑問もある。
リンチ好きとしてはここまで似てるならリンチに作って欲しかったくらいだが、問題はこの映画のテーマはベイコンの伝記ということではなくベイコンの一時期を共にした愛人・ジョージ・ダイアーとの愛と死の記録なのであって、リンチにはホモ・セクシュアルなイメージがないので(あるのかな?)本作をそのまま作ってはくれないだろう。
この映画をいいと思ったのは実にその点であってよくある映画ではベイコンの人生をもっと描いていくものだが、ジョージ・ダイアーという一人の男との生活の部分だけを切り取って描いたという所こそがこの映画の美味い特性なのだ。

ベイコンを演出しているというのはいくつかあってエイゼンシュタインの「戦艦ポチョムキン」を鑑賞しているところと絵を描く時その映画のスティール写真で有名な口を大きく開けた目から血を流す「叫ぶ女」を側に貼っているところなど。ベイコンを演じたデレク・ジャコビが本人と驚くほど似ている上に素晴らしい演じ方をしていること(これをつい「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマンとつい比べてしまう。といっても演出法もあるが、ジャコビ=ベイコンは辛辣だが、女性的であるだけで性的欲求がどこへ向いてるのかさっぱり判らなかったあちらと違いゲイの雰囲気がはっきりと示されていた(特に強烈な行為があるわけではないが(ん、あるのか))

ダニエル・クレイグが演じたベイコンの10年近くの恋人であるジョージ・ダイアーは記録が残されているわけではないので多分に創作であったようだ。
なんとなく、ジャン・ジュネ風恋人というイメージで登場し、あっという間にベイコン氏とベッドを共にしてしまうがあっという間に飽きられているみたいである。なのにその後別れそうで別れきれないまま10年近くがたつのだが、映画的にはそんな時間がたったようには思えない(ように描いている)
完全なヒモ状態でベイコン氏について行動するだけの男。美しい肉体と顔立ちだけを売り物にしている男なのである。
ベイコンがあまりにも冷たいので(なんだかここだけ読むと不味そうな文章だな)観る者はジョージに同情してしまうだろうがとにかく何もない男なのだ。よくある小悪魔的な美男でもない。むしろベイコン氏に一途な愛情を持っていてけなげでさえある。
なんとなく映画で観たディアギレフに対してのニジンスキーのように思えたがどうだろう(ただしダイアーにはニジンスキーのような才能は欠如している、どころか何もない男として描かれている)
画家の寵愛を受ける男としての役柄でダニエルの演じ方も極めて挑発的に色っぽい。咥え煙草で服を脱ぐシーンは見惚れた。

映像的にはデヴィッド・リンチ的過ぎて少々とまどうが映画の主題であるベイコンとダイアーの道行きには心惹かれるものがあった。

監督:ジョン・メイバリー 音楽:坂本龍一 出演:デレク・ジャコビ ダニエル・クレイグ ティルダ・スウィントン アン ラムトン カール・ジョンソン ダニエル・クレイグ アン・ラントン エイドリアン・スカーポロー
1998年イギリス

フランシス・ベイコンの絵というと小説「ゲルマニウムの夜」の表紙が強烈な印象だった。
ベイコンのテーマである大きく口を開けた何の生き物かわからない怖ろしい何かである。どこに立ってるのかもよく判らない非常に動揺させるその絵を小説と同じように何度も眺めた。背景のオレンジ色も不安にさせる。気持ち悪いと思うほどその絵を見ずにはいられなかった。
ベイコンが宗教に対し強い反発心を持っていたことを知ればよりこの表紙に意味を感じることができる。


posted by フェイユイ at 22:39| Comment(0) | TrackBack(0) | ダニエル・クレイグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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