映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年06月18日

「ストレイト・ストーリー」デヴィッド・リンチ

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先日、「リトル・ミス・サンシャイン」を観てよく出来てはいるが何か自分が観たかったものとは違う気がするのにうまく文章にできなくてもどかしかったものだ。
その時、まだデヴィッド・リンチの「ストレイト・ストーリー」を観ていないことを酷く後悔した。まだ観ていないのにこの映画には観たい何かがあるのではないかという気がして。ならば早く観ろよと気がせいたがやっと今日鑑賞に到った。

何も無理に「リトル・ミス・サンシャイン」と比べる必要はない。これはこれ、あれはあれで観ていいと思った方を或いは両方を好きになればよいし、両方感性が違うという人もいるだろう。
だが本作を観てやはりよかった、と思い結局うまくは言えないもののこの中には何かがあったと感じた。

デヴィッド・リンチらしからぬ、という人もいるだろう。でもそこはさすが鬼才リンチ。決して普通ではない。(実話を元にしてるとはいえ)
大体アイオワからウィスコンシンへ500キロの道のりを齢73歳にして時速8キロのトラクターで走り抜ける。という考え方自体が常識を外れているわけで確かにリンチらしい逸脱ぶりではないか。しかも途中で人情溢れる人が車で送っていこう、と言ってくれるのに最後までやり遂げたいんじゃ、と言う頑固爺なのである。

比べないでいいとは言ったものの主人公アルヴィン・ストレイト爺様の暮らしぶりは「サンシャイン」の負け犬家族どころではないようだ。あまり裕福ではなさそうでオンボロのトラクターがあるだけ。アルヴィンは突然倒れてうまく歩けない体になってしまった。
娘(シシー・スペイセク)と二人暮らしだが、その娘は他人に子供3人を預けている時、子供たちが火事に遭ってしまい、役所から育児能力を咎められ、子供たちを引き離されてしまったという状況にある。

そんなアルヴィンは娘と大好きな雷雨を見ている時(これも変わってるし、でもあるよね)もう10年も交流のない兄・ライルが倒れた、という電話を受けた。
アルヴィンと兄・ライルは何かの諍いで喧嘩別れしてしまったのだ。
小さい時は仲がよくいつも一緒に夏の夜の庭で星を見上げながら眠ったのに。
自分が倒れ、兄も倒れたと聞き、アルヴィンは再会する決意をする。だがバスもなく、目が悪くて車を運転することもできない。自分にあるのはオンボロトラクターだけ。アルヴィンは自分でキャリーカーを作って取り付け500キロの道のりを走り出した。
だが少し行ったところでトラクターがオシャカ。ここで負けるようでは頑固爺様ではない。アルヴィンは馴染みのトラクター店主から安く中古のやや新型車を買い取り、再び走り出したのだ。

何しろ普通のアメリカ映画(リンチの映画でもよくある)ハイウェイをぶっ飛ばさない。
時速8キロ。センターラインが物凄くゆっくり流れていく、じれったいよおおお。
アメリカの広大な牧場の脇をゆっくりとゆっくりと進んでいく。

そんな超スローペースの旅のなかでアルヴィンは色々な人々と出会う。妊娠したが家族の嫌われ者だから誰にも話せないというちょっとすねた少女。その少女にアルヴィンは自分の娘をとても愛してる、と言う話をするのがとてもいい。
アルヴィンのトラクターの横を凄いスピードで駆け抜けていく自転車レースの若者達の群れ。
トラクターが故障したのを見てアルヴィンを庭に泊め車で送ってやろうと言う男性。アルヴィンと同年輩でかつて戦争で悲しい思いを抱いたことを話し合ったり。
「何度も車で鹿をはねてしまうのよ。何故なの」と怒鳴りながら物凄いスピードで走っていく女。あきれたがアルヴィンはちゃっかり鹿の肉を食べて立派な角をトラクターに取り付けパワーアップ。
修理代を高く吹っかける双子の修理工にもびしっと割り引かせてなかなかアルヴィン爺様しっかりしてて頼もしい(人がよすぎて金を巻き上げられる話なんかはいらいらするもん)

そうやってとにかくアルヴィンは目的地までやって来た。ずっと禁酒していたアルヴィンはそこで久し振りにビールを飲む。
あと少しで兄に会える。
すぐ側まで来てアルヴィンは暫しトラクターを止める。通りがかった大型トラクターに導かれ兄の家へたどり着く。
それは小さな粗末な家。アメリカ映画によく出てくるような綺麗なこざっぱりした家じゃない。
なんだか壊れかけて誰もいないようにも思える。「ライル」と何度も呼ぶ。
その時家の中から「アルヴィン」と言う声が返ってきた。まだ姿を見てないのに。
出て来たのは歩行器につかまったライル。杖をついたアルヴィンと向かいあう。頑固そうな顔だ。
「あれで俺のところまできたのか」「そうだよ」
その後の二人の会話はなかった。
でも夜空には星が子供の時と同じように輝いており、二人が見上げて語り合ったことは確かなのである。

アルヴィンは戦争の後遺症で酒びたりになり、なんとか立ち直ったというような人生を送ってきている。
アメリカ映画でよくある金持ちでも成功者でも芸術家でも何でもない。兄ライルもそう変わらない生活だったのだ。
体も思うように動かせなくなってしまった老人たち。
頑固で最後まで意地を張り通してやってきたアルヴィンがライルと再会できて本当によかった。

監督:デヴィッド・リンチ 出演:リチャード・ファーンズワース シシー・スペイセク ハリー・ディーン・スタントン エヴァレット マッギル ジェーン・ハイツ ジェームズ・キャダ ウィリー・ハーカー
1999年アメリカ




ラベル:家族
posted by フェイユイ at 23:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「46億年の恋」三池崇史

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安藤政信の視線がぐさりと突き刺さってしまいどうしようもない。
松田龍平は外見的に苦手だって言ってるのに「御法度」「青い春」これと観てみんな面白かったし時々いい顔にも見えてきた。特にこれはよく見えたが、ということは時がたつにつれ段々よく見えてきてるわけでこの分だともう少しで好きになるのかもしれない。安藤政信は「キッズ・リターン」からいい顔だなあと思っていたがますます綺麗になってきたようで特に本作では刺青に包まれた体も有吉を見つめる眼差しも熱い魂に揺さぶられるように美しく感じた。

この奇妙な刑務所はなんなんだろう。放射線状に寝台が配置されている丸い雑居房。囚人服はなぜだかびりびりに破れた黄色い巻頭衣である。時折線で書かれただけの独居房など出てくることからしてもすぐ隣に宇宙ロケット打ち上げ基地があり反対側にはピラミッドがあることもこれらの設定が登場人物である青年たちの思いを表現する為の仕掛けであることがわかる。

有吉と香月は誰からもできていると思われているのに二人はなかなか近づくようで近づけない。
香月が誰か男とやっていた、という噂があって有吉に似ていた、というけどそれが結局誰だったのか。

偶然二人は同じ時、同じ刑務所に入所する。何もしないぼんやりした有吉と違い、香月は剃刀のような男でちょっとしたきっかけで相手を傷つけてしまう。怖ろしいほど強く忽ち刑務所で誰も歯向かえない存在になってしまう。
その香月はなぜか有吉が他の囚人から虐待されていたりするとかばって相手を殴りつけたりするのだ。
香月の強さも現実のものではないように思える。
有吉は口には出さないが香月の強さに憧れる。だが香月はこんな風になってはいけない、と有吉をはねつける。
香月の有吉を見る目には深い悲しみが宿っているようで観ているだけで切なくなる。こんな視線を持っていた人だったんだと胸が苦しくなった。

宇宙ロケットは未来を表し、ピラミッドは過去を示している。香月は未来に行くと言ったのに、死を選んでしまった。
有吉は香月を殺した犯人に嫉妬している。なぜ死にたいなら自分に手をかけさせてくれなかったのか。
有吉を守ろうと思っている香月が有吉の不利になるような事をさせるわけはない。だが他の男の手で死んでいった香月を有吉は激しく恨んだはずだ。だからこそ自分が殺したかのように手をかけ自供した。そうでありたかったと思うが為に。

香月は自分は宇宙ロケットの方へ行くから有吉はピラミッド(天国)へ行けと言う。
だが有吉が3重の虹を見つけたことで泣き出してしまう。有吉が香月の頭を抱き寄せたことで香月は「やめろ」と怒鳴り彼を突き放してしまう。
なぜ香月は有吉を突き放したのか。有吉が言う様にあの時虹が出なかったらどうなっていたんだろう。



46億年というのは地球の年齢であった。

この映画を観ていて今まで自分が見てきた色々な物が巡ってきた。最近読み返していたジャン・ジュネの「薔薇の奇跡」(この中で受身の男をアンコと呼んでいる。今でも使うのだろうか。古い言い方のような気がする)
「カランジル」の生活風景。「ケレル」みたいな舞台のようなイメージ。そしてガス・ヴァン・サントの「ジェリー」なぜか二人の関係が似ているように思えた。
「銀河鉄道の夜」まで思い出した。「僕も君と一緒に行ってはいけないかな」というところ。

映画がミステリー仕立てになっていて、字幕で質問が表示され登場人物が答えるなど面白い仕掛けがある。
壁の穴を覗いたらロケットが見えるなんてちょっと考えられない。
登場人物の台詞が繰り返されるたびに少しずつ違う意味が感じられるのもうまい。
こういう風に場面がカットされつなぎ合わされていくのは凄く好きな手法なんである。
物語を辿っていく二人の刑事、遠藤憲一、石橋蓮司が絶妙でうれしい。刑務所所長の石橋凌と亡霊も怖くておぞましくよかった。
刑務所、っていうことなのに囚人達は皆若いというのも不思議。
香月は誰を抱いていたんだろう。

監督:三池崇史 出演:松田龍平、安藤政信、窪塚俊介 渋川清彦 金森穣 遠藤憲一 石橋凌 石橋蓮司
2006年日本
posted by フェイユイ at 00:02| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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