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2007年07月20日

「グッバイ、レーニン!」ヴォルフガング・ベッカー

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どうしてアレックスはここまで母親の事を気遣うのか、なんて母親思いの青年だろう、と涙ぐんでしまう映画である。人によってはマザコンだとかお涙頂戴だとか思われてしまいそうだ。
勿論その通りなのだがこの映画にはもう一つの意味が隠されているように思える。
それはこの母親こそが消滅してしまう東ドイツなのであってアレックスはそこに住む故郷を愛する人々の代表としての姿なのではないのだろうか。

東西に分かれていたドイツが再び一つになったというニュースは遠い国のこととはいえ非常な驚きであったのは記憶に残っている。ましてそこに住む人々にとっての生活の変化というのは果たしてどんなものであったのか。この映画では社会主義国家から全く一夜にして資本主義の世界に変わっていくことを驚きと笑いを交えながら描いていく。
アレックスの母親は東西ドイツの壁が壊された時こん睡状態にあり、歴史の動きを知らなかった。
目を覚ました母親に突然現実をばらしてしまうと病気の母はショックで死んでしまうかもしれない。アレックスは次第に、というよりあっという間に失われていく社会主義国家であった東ドイツを復元しようと奔走する。姉や恋人に反対され、それが空しい行動だと気づきながらもアレックスは東ドイツを捨て去ることができないのだ。

アレックスが西側に憧れていてたまらないほどの青年だったらこういう行動にはならなかっただろう。自分が祖国を愛していたからこそ母親に変わってしまった世界を見せたくなかったに違いない。祖国と言っても場所は同じなのだが。
あっという間に西側の文化や商品を受け入れてしまう周囲の人間に反抗しているかのようにも見える。
社会主義国家から資本主義国家へ。無論、資本主義の社会で生まれ育った自分にはいいことのように思えてしまう。多くの資本主義国の人間はそう思うだろう。
だが、思想や社会のあり方とはまた別に生まれ育った町への郷愁というのはきっと皆の心に潜んでいるはずなのだ。

例えうざったい王権制度に悩まされた国民でも自由になって暫くはなくなってしまった封建社会がよかったと思ってしまう、という話は歴史的によくある。
かつて住んでいた町が変わり、人々の意識も変わってしまうと人間は寂しくなってしまうようだ。

アレックスの母親(東ドイツ)はいきなり真実を知れば(西側の経済・文化を受け入れれば)心臓発作を起こすと(国が崩壊する)と医者に言われアレックス(東ドイツを愛する人々)はそんな母親を守ろうと必死になる。
だが歴史は全てを動かし飲み込んでいくものなのだ。
母親は父親を追って西側に行きたかったけど怖くて行けなかった、という事実を話し(これも意味深)発作を起こして死ぬ。
ダブルミーニングは徹底している。
母親はアレックスの恋人ララによって真実を知るが、息子の懸命の母への愛を感じ優しい眼差しを向ける。
母(東ドイツ)を愛していた人は泣いてしまいそうだ。「もういいのよ。解っている。あなたが私を愛していたことは」
世界は変わっていくのだ。そこに住む人々はかつての国を嫌っていたのではない。そこに生きていたのだから。

アレックスは最後にもう一度夢をと母親に嘘の世界を見せる。それは資本主義国の若者が自ら求めて社会主義国へ移り住むという理想郷だ。物質だけが全てではないという考えのもとに。
互いの国は自由に行き来が出来、社会主義を賛同する者は東ドイツに住んでいいという社会になったという嘘のニュース番組を制作して見せたのだ。

アレックスの恋人がロシア人であったり、嘘のニュース番組の製作をしてくれる技術者が西ドイツの青年だったり、意味深い設定が全部にふられている。無論進歩的な姉の恋人が西ドイツの男性なのは当然である。

こうして一見親孝行の青年の物語に全て意味が隠されているのは面白い事である。
とまあ、多分どこでも書かれていることだろうが(笑)自分なりに考えて書いてみた。
郷愁を追い求め、祖国(生まれ育った場所、というべきか)への愛を示したいと走り回った者の話であった。
そして母の骨は旧東ドイツの空に散った。彼らはいつも思い出すことは出来るのだ。

久し振りに外へ出た母親の前に大きなレーニン像がヘリコプターで運ばれてきてその大きな手を差し伸べる場面は印象的である。
これも非常に象徴的である。取り壊されたレーニン像、郷愁を意味する母親へ手を差し伸べるが二人が結ばれることはない。

先程書いたトニー・レオンが返還される前の香港への郷愁を語った話が思い出される。
状況は逆である。そのまま真逆、ではないが。
が、イギリス植民地から本国へ戻る、というめでたい(?)状況においてもやはりそこに住む人々の心には郷愁は宿るものなのだろう。

監督:ヴォルフガング・ベッカー 出演:ダニエル・ブリュール カトリーン・サーズ チュルパン・ハマートヴァ マリア・シモン フローリアン・ルーカス
2003年ドイツ

このレビュー、もっと簡単に書くつもりだったのに、トニー・レオンの香港への気持ちを聞いてやっぱりそうなんだと急に長くなってしまった。


posted by フェイユイ at 22:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トニー・レオン「傷だらけの男たち」舞台挨拶

トニー・レオン、新潟県中越沖地震の被災者に励ましのメッセージ

トニーは災害が起きると義援金を送ったりしてとても徳の高い人だと感心します。新潟の地震被災についても心配りをするなど気にしてないとなかなかできないことだと思いますねー。

「傷だらけの男たち」(「キスだらけの男たち」って打ってしまった^^;)の秘話おもしろい。驚きです。

そして原題「傷城」(傷ついた街)の話。なんだかしんみりしてしまいますね。なぜトニーのインタビューを載せたかというとこれから書こうとしている「グッバイ、レーニン!」とこの話が関連していたからなんですよ。自分の住んでいた町が故郷がなくなってしまう、あるんだけど自分が住んでいた町とは違う、というのは体験した人でないと本当の気持ちはわからないんでしょうね。
トニーってやっぱり素敵です。

こちらも→映画『傷だらけの男たち』トニー・レオン舞台あいさつ
posted by フェイユイ at 20:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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