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2007年09月17日

『ホテル・ルワンダ』テリー・ジョージ

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歴史の中で繰り返される差別・戦争・虐殺。多くの罪なき人々の血が流れ悲鳴が聞こえる。人々は幸せを求めるものなのに何故争いは繰り返されるのか。

ルワンダはかつてヨーロッパ人の植民地となっておりその時少数派であったツチ族が肌色の薄さと背の高さと鼻の幅の狭さをベルギー人から認められ多数派であったフツ族を支配することになったという。
その後、国は独立したが内戦状態となりフツ族とツチ族は対立していくがフツ族の大統領が暗殺と思われる飛行機事故によりフツ族によるツチ族への大虐殺が起きたのだ。

何かのきっかけで暴動が起き抑制の効かない巨大な力になっていく。その前で一般の市民は何の抵抗もできず死んで行くしかない。

ベルギー人が経営する高級ホテル「ミル・コリン」の支配人であり家族思いのポールを主人公にしてこの怖ろしい大虐殺の物語が描かれていく。
品格のある仕事に誇りを持ち様々な西洋人とも交流のあるポールはいざという時は彼らを利用することを考えていたが、その時になって頼ることができるのは誰もいないと思い知らされてしまう。
とはいえ、それでもポールを助けてくれる幾人かの西洋人がいたのは彼の人柄によるものだろう。彼の誠実さだけが救いだったように思う。
そんなポールでも事態がまだ飲み込めていない当初には我が家に逃げ込んできた隣人達を疎ましく思っている。
ポール自身はフツ族なのだ。だが彼の妻はツチ族であり、隣人にもツチ族が多かった。
フツ族とはいえツチ族に肩入れするものも殺されていく状況の中で家族を守りツチ族である隣人をなんとかして助けようとしていくポール。
優雅だったホテルに逃げ場のないツチ族を受け入れて襲ってくるフツ族かた懸命に守っていく。

これは実話なので実際にポールのその家族の方はおられるわけだが、この物語の主人公に温厚な一市民であり、夫(自分)がフツ族、妻がツチ族である彼を選んだのは的確な選択だったのではないだろうか。
常に冷静であることを自分に課している優秀なホテル支配人ポールが張り詰めた緊張の中、ネクタイを結ぼうと何度も試みるができずシャツを引きちぎって泣き出すシーンがある。ドアの外に駆けつけた従業員にその姿を見せまいと入れさせなかったポールが悲しかった。惨たらしい虐殺行為と周囲の人種の軋轢、仕事を遂行せねばならない圧力に耐えかねて心が張り裂けてしまったのだ。

ポールは家族だけを守れるならそれでいい、というごく普通の人間だったはずだ。それが凄まじい殺戮と可哀想な子供たちを見ているうちにどうしても助けねばならない状況に置かれていってしまう。
ついには家族と離れホテルに残った人々を守ろうとさえしてしまう。
その結果彼は予期しない窮地に立たされてしまうのだ。
そのことで彼は改めて家族を守ろうと決心したのだろう。
このような怖ろしく悲しい体験で救われるのは妻タチアナ二人の姪っ子と再会できたことだ。そのために危険を省みずその子供たちを捜した赤十字の白人女性には畏敬の念を持つ。自分なら怖くて絶対できない。

他にも助けたいという気持ちはあってもどうしようもなく帰国しなければならなかった外国人のうなだれた様子、なんとかポール達を脱出させようとする国連のオリバー大佐の奮闘振りが心に残る。
関わった人々は皆彼らを救いたかったのだ。

大虐殺の様子をテレビ放送すればすぐに助けに来てくれる、と楽観的なポールにカメラマン・ダグリッシュは「テレビを観ている世界の人々は怖いねと言ってディナーを取るだけだ」と答える。確かにその通りなのである。

この大虐殺はほんの十数年前に起きたことなのに自分は全く知らなかった。
テレビを観ても何も思わなかったのに違いない。
恥ずかしい。

監督・脚本・製作を手がけたテリー・ジョージが北アイルランド人だということも驚きだ。
このような複雑で予備知識もない事件をここまで判りやすく人間性豊かに描けるというのは素晴らしいことだ。また虐殺の異常さ、残酷さも非常に怖ろしくしかし目をそらすことなく映し出されていたと思う。
主人公を始めとする登場人物も魅力的でありまた怖ろしくもあり、物語を明確に浮かび上がらせていた。
ポールを演じたドン・チードルはその心の移り変わりと戦う意志を強く感じさせた。
マッチョなイメージのニック・ノルティがここでその特性をうまく表していた。

本作が日本で公開されるために多くの働きかけがあった。こうして自分もDVDではあるが観ることができて本当によかった。

2度目に観ると冒頭の荷物の箱が壊れナタがこぼれ落ちる場面はぞっとする。ここから殺戮が用意されているのだ。

平和であることは生活するために最も重要なことなのに難しい。自分の周囲も含めて世界中の人々が差別なく平和であって欲しいと願う。

監督:テリー・ジョージ 出演:ドン・チードル ソフィー・オコネド ニック・ノルティ ホアキン・フェニックス デズモンド・デュベ
2004年 イギリス/イタリア/南アフリカ

こんな比較もないものだが、本作を観ていて昨日観た塚本晋也監督の『HAZE』に酷く似ていると思った(以下ネタバレあり)


いきなりわけのわからない状況に投げ込まれ進めば進むほど怖ろしい立場になっていく。いきなり殴られ傷つけられる。どうあがいても行く手が見えず、鉄管を噛むような思いをせなばならない。
愛しい人を守りたいと思ってもままならず、迫り来る恐怖から逃げ惑うだけ。
そこを逃げ延びるにはばらばらになった死体を乗り越えていかねばならない。そして死んでしまうような激しい苦痛を跳ね返さねばならない。
たどり着いたそこには爽やかな青い空があった。
まるでこの映画を別の視点で作り変えたかのようにさえ思える。

ポールの結末は青空だったろうか。他のルワンダの人々は。全ての人にあの青空が待っているといいのだけど。


posted by フェイユイ at 22:14| Comment(0) | TrackBack(0) | アフリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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