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2007年11月17日

『ラストデイズ』ガス・ヴァン・サント

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これもまたどうにも好きになってしまう映画だった。
テーマもイメージも作り方も『ジェリー』を思わせる。

最後にサント監督が「カート・コバーンの最後の数日間に想を得た架空の物語だ」と書いているが、無論ファンでそういう映画だと聞いて観たならば様々な感慨を持つのであろう。
だが私は申し訳ないがカート・コバーンも彼のバンドである「ニルヴァーナ」も知らなかったので純粋に映画作品として観ていた。なので感想もそういう者の意見である。先日観た「ブライアン・ジョーンズ」と同じような立場だ。

『ラストデイズ』というタイトルから最後の数日を描いた作品だということはすでに判るわけだが、冒頭主人公ブレイクが服を脱いで冷たそうな川の中に入る場面からもう彼がこの世からいなくなってしまうことを予感させる。
川は死の国へと渡るためのものだし、水の中へ入ることは身を清めることになる。『僕を葬る』でも『イノセント・ラブ』でも死の前には水の風景が入ってくるものだが、本作では冒頭からもう彼は水の中に入ってしまう。
どこからか響いてくる鐘の音も聖歌隊の歌声のような声も彼の死を暗示させる。
彼は薬をやっていて病院に入れられたのを抜け出してきているようなのだが、もう言葉も巧く話せず存在自体いないようなものだ。体はまだこの世にあるがもう精神は遠い世界へ行きかけている。
彼の名前も象徴的だ。ブレイクといえばウィリアム・ブレイクを思い出してしまうが、多くのアーティストに多大な影響を与えた詩人であり画家であるブレイクの名をこの主人公につけているのではないだろうか。というのはサント監督は他の出演者には役名をそのままルーカス=ルークという風に被せているのに彼だけは違う名前にしている。何らかの意味があったには違いない。
『天国と地獄』『無垢のうた』『病める薔薇』『迷子になった女の子』『神曲』『最後の審判』などといったブレイクの作品から連想されるテーマが本作の中に様々に表現されているような気がする。
ビートの詩人アレン・ギンズバーグがウィリアム・バロウズの本棚で彼の名を知ったというのもサントの作品と関係がありそうだ。カート自身もバロウズに傾倒していたらしいし。
余談だが、ケン・ローチ監督『麦の穂を揺らす風 』で、主人公が入れられた牢獄の壁に「愛の園」(詩集『無垢と経験のうた』の「経験の歌」のなかの短詩)の一節が刻まれていたらしい。
またブレイクを題材にしたSF『ブレイクの歴程』では彼の異次元と異空間の探索が描かれているというのも本作を連想させる。

まったくサント監督の作品というのは名前や映像から色々な想像を喚起させてくれてあきない。
時間はゆっくりと流れ、カメラはあまり近づかず、激しく動き出す事はあまりないのだが観ている間、どきどきとしてしまう。

『ジェリー』はまだ死ぬ前の世界のようで乾ききって暑く水もなく荒れ果て酷く苦しかったのだが、ここでの世界は彼のバンドの名・ニルヴァーナの如く緑滴る美しい自然の中である。
美しい風景の中を朦朧として彷徨うブレイクはもうあまり辛そうにも見えない。ただ現実の人間と話す時だけは引き戻されるようで苦しそうに逃げてしまう。彼はもう向こうの世界へ行ってしまっているのだ。
『ジェリー』と同じように焚き火にあたるシーンもあって面白かった。焚き火にあたる、というのも何か意味があるのだろうか。

ブレイクはまだ肉体がこの世に留まっているためにかれは自分自身の体を切り離さなければならない。
小さな小屋の中で横たわった彼の体から裸になったブレイクが天上へと昇る姿が見える。梯子をよじ登っていってるようで不思議な光景だ。

劇中、ブレイク役のマイケル・ピットが歌をうたう。ギターの音色が悲しく胸を刺す。彼自身が作った歌らしい。だが非常にこの映画に合ったしかも凄く心に響く歌である。
歌詞がとても面白くて笑いたくなってしまったがこれは年をとったからであろう。
実が熟して腐るのが人生に似ている、というのが悲しくおかしいのだ。その後矛盾した比喩が続き人生のわけのわからなさを物語っている。死から誕生までの長く孤独な旅、というのも泣かせる(笑わせる)
馬鹿にしてるわけではなく人生というのは涙と笑いの両面が常にあると感じられるのだ。

かくして若い詩人は死へと旅立ってしまった。彼の死に対しては諸説があるようだが(この辺もブライアン・ジョーンズのような)本作ではそこには立ち入っていない。
生と死の境を彷徨う歌い人の姿が映されているだけだ。

ブレイクを演じたマイケル・ピット。金色の長い前髪が美しい。いかにもサント監督が好きそうな金髪美少年である。
加えて音楽の才能もあり彼のギターと歌は凄く素敵であった。
彼の顔は私としてはあまり好みではないのだが(口が小さいのがどうも。私は凄く大きな口が好きなのだ、ギャスパー・ウリエルの裂けてるみたいな口とか)からだの線とか佇まいとか前髪は綺麗で見惚れた。殆どアップはなくて遠目が多いので大変美しい人だと思えた。冒頭の濡れた尻も素敵であった。
とがいえ、彼を観てたらまた『ヘドウィグ』を観たくなってきた。近々観よう。(宝物DVDなのだ)

監督:ガス・ヴァン・サント 出演:マイケル・ピット ルーカス・ハース アーシア・アルジェント ハーモニー・コリン キム・ゴードン
2005年アメリカ


posted by フェイユイ at 23:41| Comment(6) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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posted by フェイユイ at 12:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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