映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年11月19日

『Helpless』青山真治

Helpless.jpg

一体どうしたんだろう。同じ所をぐるぐる回っているようだ。
本当にこの映画が何なのか、監督のこともまったく知らず観たのだが、主人公ケンジがニルヴァーナの「泳ぐベイビー」のTシャツを着ているし、浅野忠信と光石研がヤクザで共演。ストーリーはまた淡々としたロードムービーで死が目の前にある。

なんだか巡り会わせがそういう時期なのだろうか。わざと選んでいるとしか思えないが適当に気になったタイトルを選んでいるだけなのだが。

それはそれとして、これもまた非常に気になる作品であった。わずか80分あまりの長さだが、それ以上に長い必要はまったくない。
ここでは昨日と逆で(というわけではないが)光石研が悩みながら彷徨うヤクザになっている。『インビジブルウェーブ』より10年前の浅野・光石共演作品である。

出所したばかりのヤスオ(光石)は組がなくなり親父さんも死んだと聞いても信じることが出来ない。自分を使い捨てたヤクザの親父と兄貴分を許すことができず苛立っている。しかも彼は片腕を失ってしまったのだ。
高校生のケンジはそんなヤスオの頭の弱い妹を預かりバイクを走らせる。
仲間同士では優しく話しかけている彼らだが一旦切れると抑えが利かなくなってしまう。そのギャップが激しくて戸惑ってしまうほどだ。浅野はここでもおっとりとした性格のようでいて癇に障ると怖ろしいほどの暴力をふるってしまう。ヤスオもまた同じで穏やかのようでいて瞬間に爆発してしまうのだ。
それは警察や友人や店員たちのちょっとした一言が引き金になっている。別人のように拳を振りかざし銃を発砲し命を奪う。(その友人や店員もいきなり暴力を振るってくる)
それでいて妹の命を奪おうとすることにはまた激しく怒るのだ。そこには彼らだけの法則が働いている。優しさと暴力と。

舞台が北九州であり言葉も方言が使われている。私自身福岡県在住なのである程度の雰囲気が伝わるのだが、同じように都市といわれながら明るく華やかな福岡市と違い北九州は独特のほの暗い雰囲気を持っている。かつて栄えた街が次第に寂れていく悲しさがある街だ。言葉も荒っぽい。映画の舞台としては福岡市よりずっと興味が持てる雰囲気がある。イギリス映画の古びた地方都市のような重苦しいイメージだ。
浅野もそれらしくかなり荒々しい言葉を使っているが九州弁としては当たり前、といった感じなのだ。

街そのもののように暗く沈んでいるのに彼らの奥には隠された火がちらちらと燃えている。
その火はいつ噴出すのか判らない。
頭の弱い妹ユリだけは終始変わらずウサギの心配をしている。
それまで好意を持っていたヤスオが妹を撃とうとした時ケンジはその身勝手さを罵る。
だがヤスオから預かった鞄の中身が「Help me」と書かれた彼の腕だったのを見る。
ケンジはウサギを探すユリを守るように歩き続ける。ヤスオだろうか、袖を翻して車が走り去っていく。

皆、意地をはっているが心の中では「助けて」と呼んでいる。しかし店員も虐められっこの友人も自殺する父親も親父さんを殺したいと叫ぶヤスオも助けられる事はないのだ。
そしてケンジ自身も。

ただケンジがユリを助けたいと思いバイクを走らせる場面は心が疼く。助けて欲しい、と求めるのではなく助けてあげたいと願う、というひたむきな意志のあるこの作品であった。

というわけで『ラストデイズ』『インビジブルウェーブ』と似通いつつもそのテーマはかなり違うものである。
他の二つと比較にならないほど暴力的でありながら最も希望に満ちている、というのも不思議なことである。

監督:青山真治 出演:浅野忠信 光石研 辻香織里 斉藤陽一郎 永澤俊矢 伊佐山ひろ子 諏訪太朗
1996年日本

私はバイクを走らせる場面がある映画に酷く弱い。しかもギターの音色が被さってきたら。
ケンジとユリの関係の描き方も好きであった。
男女が出てくるからと言ってすべて恋愛に結び付けなくてもいいのだである。


ラベル:死  暴力
posted by フェイユイ at 22:50| Comment(4) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。