

かつて何度となく観返したこの映画を久し振りに観るのなら寒い冬にしよう、と思っていた。
夏の場面もあるのだが何と言っても印象的なのは旧正月前に再会した藍宇に捍東がマフラーを巻いてあげる場面である。
その場面でその温かさを感じたかったのである。旧正月前ならもっとよかったが待ちきれず少し早めになってしまった。
『藍宇』この作品には色んな思いが詰まっていて一口にあっさりと感想を述べることはできそうにもない。
こうして藍宇と捍東の部屋を観ていると過ぎ去った日のことを懐かしく思いだしてしまうのだ。
この映画の粗筋だけを追えばもしかしたら陳腐だと思われるのかもしれない。
それでも傲慢で身勝手な捍東を心から慕い続ける藍宇の純真な気持ちにはやはり惹かれてしまう。
そしてもう一つの魅力は昔話ではなく、文革の頃でもないかなり身近な中国の都市の情景が映し出されていることである。
そして文革後の中国都市の大きな変化が恋物語の背景に描かれていく。この情景が物語と絡んでいく様がこの作品の妙味でもある。
北京人で裕福な為にやや自堕落な捍東と田舎(東北)出身で懸命に働き勉強する藍宇の姿が対照的に描かれている。
高度成長で街中に高層建築が建てられ始める、その仕事に藍宇自身が関わっている。
捍東の浮気で仲違いした間に天安門事件が起こる(1989年6月4日)その夜藍宇を案じた捍東は銃声が響き学生達が走り回る街中を彼の姿を探し求める。
出会った時抱きしめあう二人、藍宇の泣き声が印象的である。
よりを戻した二人は郊外に建つ洋風の家に住む事になる。捍東の金持ちぶりが判る。他にも捍東がいかにも田舎じみた格好の藍宇に洋服を買い与えると「まるで日本人みたいだ」と言ってみたり、捍東がメルセデスに乗っているので「珍しい車だ」と別の青年に言われたり、二人で日本料理店(食べていたのは中華料理だったが)で落ち合ったり捍東の弟衛東が坂本龍一を聞いていたり、藍宇が借りているアパートが日本人がいた場所を安く借りれたなどその頃の中国の都会の様子が伝わってきて面白いのだ。反面、捍東の家の中国的な旧正月の雰囲気、全体にやはりまだ古めかしさが感じられるところなどが見て取れる。そういった古さと新しさが入り混じった街に興味が惹かれてならない。
自己中心な捍東は身勝手に藍宇を求め捨てる。常に金でかたをつけようとする。藍宇は一途に捍東を思い続けている「病気なんだ。こんなに好きになってしまうなんて」
捍東の我儘で何度も別れと再会を繰り返したどり着いたのは藍宇の小さなアパートの狭いベッドの上。
窓の粗末なカーテンの隙間から入り込む光の中で抱き合う二人にずっとこのままでいて欲しいと思ったのも束の間、残酷な運命の知らせが捍東に届く。
車に乗った捍東が藍宇が働いていた建設現場を訪れる。二人がいた北京の街には次々と高層ビルが建ち、街は大きく変わろうとしている。
藍宇の思い出が消えていくかのように捍東の胸の悲しみが突き刺さっている。
捍東が疾走する車から見える建設中のハイウェイ。そこに藍宇がよく歌っていた黄品源の歌が甘く切なく聞こえてくる。街並みは二人の思い出のように過ぎ去っていくのだ。
思い出の中で藍宇を抱きしめる捍東。
この物語は観る人によって涙を誘い或いは何の意味もないのかもしれない。
過ちを繰り返し、取り返しのつかないことになってしまった秘められた恋物語。
傲慢で馬鹿な男と一途過ぎて馬鹿な男の話である。
でも私には狭いアパートで抱きしめあいながら眠っていた二人の安堵にも似たその姿に目を奪われないではいられないのだ。
監督:關錦鵬 編集/美術/衣装:張叔平 出演:胡軍、劉Y、蘇瑾、李華彤
2001年香港
捍東を演じた胡軍、藍宇のリウ・イエのどちらも素晴らしく見惚れてしまう。
二人とも大柄で男性的な顔立ち、体格である。
この映画に惹かれた理由の一つは香港のスタンリー・クワンが映画監督とはいえ、舞台が中国北京であり(かなりのゲリラ撮影であったらしい)主演者たちも現地生まれ育ちであるということだ。
同性愛が題材である為撮影は困難を極めただろうが出演者の素晴らしい演技もあってぞくぞくするような出来栄えになっている。
胡軍、リウ・イエの二人はゲイではないと思うのだが、この作品の中では深く愛し合っているようにさえ感じる。
最後のベッドの中のキスシーンで受けになっている藍宇が捍東がキスをするより早く自分の顔を近づけて彼の唇に触れるのが感動的ですらある。
私はこの映画を台湾版DVDで鑑賞したのだが、それには『ビハインド・ザ・スクリーン』『メイキング・ブルー』なるものが付録されている。
そこでこの映画を撮るスタッフ、主演の二人の姿が映し出されているのだが、本編に負けないほどの出来栄えになっている。
本編に出てこない映像もありその中には切ってしまうのが惜しいほど仲睦まじい二人の様子が撮られている。
号泣する藍宇をなだめる捍東、風呂場で藍宇にシャンプーをしてあげる捍東、公園で肩を寄せてベンチに座り歌を歌う二人。
監督が見守る目の前で愛の言葉を囁く捍東と藍宇はまるで監督の存在に気づいてないかのようにさえ見えて二人だけの世界に入り込んでしまっていると思えてしまう(そんな二人をじっと見つめる監督の眼差しも熱く心酔しきっているようだ)
撮影の合間の二人も仲がよさそうでくすぐったいほどだ。はっとするほどいい表情の映像もあってこのまま一つの作品にできないかと思うくらいである。
実際二人は撮影が終わった後も余韻が残り普通の状態でなくなっていたためにスタッフが「会わないでしばらく離れていた方がいい」と忠告しなければいけないほどに影響を受けてしまっていたらしい。互いに妻と恋人の女性がいる為に心配なほどだったというのだ。
そこまでのめりこんでしまう演技というのは、と思わずにはいられなかった。
ところで私のブログ名『藍空』を何と読んでいただいているだろうか。ま、ここで問うたら自ずと知られてしまうが「あいくう」とか「あいそら」とかまちまちのような気がする。
実はこのブログ名、前にも書いたがこの『藍宇〜ランユ(Lan Yu)〜』からいただいているのだ。ということで読み方は「ランコン(Lan Kong)」なのであった。
『藍宇〜ランユ〜』という字と響きが好きでそのままつけたかったのだがファンも多いし誤解を生じてしまうので「宇宙より下で空にするか」と『藍空』になったのである。なのでこの映画には特別な感情を持たざるを得ないのだ。
読み方に関してはどれでも別にかまわないです(笑)私も変換する時は大概「あいくう」でやってるし(ランコンじゃ変換しない)
そして今回見つけてしまったのが黄品源とジェイ・チョウがデュエット(?)している『ニーゼンモショダウォナングォ』
この歌をまさかジェイが歌っているのを観れるなんて!!!鼻血が出るかと思った。