

AZUR et ASMAR
何と言っても絵の美しさにうっとりと眺めいる作品なので文章での説明というのは何の役にも立たない気がする。観ようかどうしようかと迷っておられるのなら何も考えずまず観てもらいたい。
物語は人種・宗教の違いから起こる差別や価値観の違いを戒めることがテーマとなっているため、やや説教じみて感じてしまうのかもしれないが、観ている間は登場人物たちの魅力、背景のえもいわれぬ美しさ、幻想的でありくっきりとした色彩にただ圧倒され魅了されているばかりである。
無論きちっとしたテーマがあることで判りやすく納得のいくエンディングになっていることで落ち着いた筋書きとなっている。
同監督の『キリクと魔女』を観ていたのであの可愛いキリクのような少年が二人出てくるのかと思いきや、目を見張るような美しい白人とアラブ人の少年たちだったので驚いてしまった。そろってそれぞれの人種の特徴を出した美しさでなんともいえないエロティシズムさえ感じてしまうのだ。
イスラム圏を舞台にした、というのが目当てで観たのだが『キリク』の時と違いフランス人のアズールのほうが主体となっていたのもおや、となってしまったのだがこれは無論白人がイスラム圏に入った時に言葉も通じず青い目というだけで差別を受ける、ということでそうしたことがどんなに辛いことなのかをフランス人に体験させようという試みなのだろう。フランス語には字幕がはいるがアラビア語にはそれがなく観ているものも言葉の判らない異国での苦悩を味わうことになる。
フランスの地で裕福な領主の息子アズールとその乳母の息子アスマールは乳兄弟としてともに生活するがある日厳格で差別的な精神を持つアズールの父親にその暮らしを引き裂かれてしまう。
アズールは勉学の為、街へ連れて行かれ、アスマール母子は酷いことに何も与えられず追い出されてしまう。
やがて成長して若者となったアズールは乳母がいつも聞かせてくれていた「妖精ジン」の姫を救うために遠い乳母の国へと旅立つ。
そこでアズールは青い目というだけでアラブの人々に疎んじられる。同じフランス人クラプーと出会いアズールは「妖精ジン」を探し続ける。そしてある日、懐かしい乳母の声を聞いたのだ。
アズールとアスマールは幼い時から互いに慕いながらもいつもケンカばかり。再会した後も心はすれ違う。だが別の敵が現れたことで仲良くなる、などといった筋書きもいかにも人種・宗教間の問題をあらわしている。
脇役として一番活躍のクラプーはすでに年がいってしまったが若い頃は同じように妖精ジンを探していた。
いつも母国とアラブの町を比較しては文句を言っているが実はこの国が大好きという屈折した性格の持ち主。悪口の繰り返しが妙におかしい。
キリクを彷彿とさせるような行動的で頭のいいアラビアの姫君シャムスサバがとても可愛い。
私はこの姫がアズールと結ばれるのでは?とも思っていたのだがそうではなかったのだね。国の未来を背負って立つ姫。アズールの前に現れた時は確かに小さかったのでびっくりした。誰もきっとすらりとした美女が登場すると思ったよね。
乳母。ハンサムな二人の息子を持つ羨ましい存在。冷酷なフランス人に追い出された時は可哀想だった。てっきり金持ちと結婚したのだと思っていたら自分で働いて富を得たという凄い女性。
イスラムの女性達が殆ど顔を出して外出しているのはちょっと不思議な気もするが街の雰囲気、建物の様式、すべてが絢爛たる美しさである。
アニメなのだが素晴らしい絵本を見ている様な気持ちになる。
アズールとアスマールの兄弟愛にも心打たれる。
アズールとシャムスサバ姫が樹の上で町を眺める場面はシルエットだけなのだが心に残るデザインである。
アズールとアスマールは青と褐色の意味らしい。
監督:ミッシェル・オスロ 音楽: ガブリエル・ヤレド
2006年 / フランス

