映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年01月12日

『キッズ・リターン』北野武

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Kids Return

この映画を初めて観た時、こんなに甘く切ない青春映画というものがあるんだと思ったのを覚えている。
普通に言えば落ちこぼれ、としか呼ばれないような二人の若者のどうしようもなく空しい青春時代がこんなにもかけがえのない美しいものに思えるとは。

学校に行っても授業も受けず度の過ぎた悪ふざけばかりをして教師から嫌われているマサルとシンジ。同い年だが兄貴分のマサルはちょっと威勢がよくて弱い奴を見ればカツアゲをするような悪党でシンジはそんなマサルの腰ぎんちゃくのようにくっついてまわるだけの存在だった。
マサルとシンジには他に友達もいないし、ガールフレンドや片思いの少女なども出てこない。他からは嫌われ者というか孤立した二人きりみたいな感じである。兄弟のような恋人同士みたいないつもくっついて離れない、何をするのも一緒という少年期の男の子たちによくある感じなのだ。
だがある日自分の強さに自信を持っていたマサルがボクシングをやっている男に叩きのめされてしまう。それまで必死になった事のないマサルはその男に勝つためにボクシングを始める。シンジもそれに倣うのだが、なんということかそれまでおとなしかったシンジのほうにボクサーとしての才能が秘められていたのだ。シンジにも勝てないマサルはすぐボクシングをやめてしまう。そしてヤクザの道に入ってしまうのだ。
いつも一緒だったマサルが離れていく時のシンジの眼差しが悲しい。シンジを演じた安藤政信はこれで映画界に入ったそうだが、切なく見つめる目を持った青年である。マサル役の金子賢との組み合わせが絶妙によくてヤクザとボクサーになって分かれていく二人に胸が痛くなったものだ。
「お前が世界チャンピオン、俺がヤクザの親分になったらまた会おうぜ」
だが幸か不幸か夢はかなわなかった。
シンジは減量に失敗して試合で負け、マサルは兄貴分の怒りを買って組を出る。
再会した二人は高校時代のように自転車で二人乗りをしながら校庭をぐるぐる回る。
「俺達もう終わっちゃったのかな」「バカヤロ。まだ始まっちゃいねえよ」
本当に胸に沁みてくるいい言葉だ。

大変な思いをして青春をかけた二人はどちらもそれをかなえられなかったけど(ある意味それでよかったのだが)二人ともまだ全然若くてそんな台詞をいうまでもなくまだ始まっちゃいないのだ。
この台詞はもっと年取ってからでも使いたい。
自分がシンジのように問いかけた時、そう答えてくれる誰かがいることを信じたい。
互いを思いながらも離れることになった二人が再会してこんな風に言い合える。他のどんな映画より羨ましくて眩しく思った作品なのだった。

北野武監督について語る資格はまったくないのだが、この一作だけはどうしようなく好きである。
金子賢のチンピラ風でどうしようもない感じと安藤政信のおとなしくてマサルを慕っている雰囲気が可愛らしくいじらしいのだ。
二人に焦点を絞ってあるのだが、同じ高校生で一途に憧れの女性を思い続ける少年や漫才コンビで地道に人気を得ていく二人組みの話も巧みに織り交ぜてある。
マサルとシンジの関係はまるで恋しあっているようにも思えるほどで、少年期のそういった関係は甘く眩しい一時期のものなのかもしれない。私はそうした感じが好きでこの映画にインスパイアされて作られたというケン・ローチ『SWEET SIXTEEN』や昔観たアラン・パーカー『バーディ』なんかもたまらなく好きである。松本大洋『鉄コン筋クリート』なんかにもそんなものを感じる。
また友情が恋愛になってしまった陳正道『花蓮の夏(盛夏光年)』も同じように思えてしまうのだ。
どれも大人になる事で関係が終わってしまうのではなく、まだこれからずっと俺達は続くんだよ、と作品が語る時、何度でも幸せを感じてしまうのは一体どうしたものだろう。
こんな喜びはもう何度でも味わいたいものである。

監督:北野武 出演:金子賢、安藤政信、森本レオ、石橋凌、山谷初男、寺島進、モロ師岡、宮藤官九郎
1996年日本

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ラベル:友情 青春
posted by フェイユイ at 22:10| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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