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2008年08月21日

『Dolls ドールズ 』北野武

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今まで北野武映画を少しだけ観てあまり好きになれない気がしていた。作品としては『キッズ・リターン』だけしか好きになれないのでは、と思い込んでいたのだが。
この映画には参ってしまった。『キッズ・リターン』との共通点は武監督が出ていないのとある二人の人間の強いつながりを描いていることかな。
そしてこの作品に描かれた愛は異常な愛というようにも見えるが本当は普通の当たり前の愛なんではないかとも思ってしまうのだった。

静かな作品で物語が淡々と進んでいくのだが、思いがけない展開になっていくので次どうなるのかと固唾を呑んで観続けていった。進行が早いのでこういう映画につきものの退屈さというのがなくはらはらどきどきしてしまった。しかもすでに最初から胸に落ちてくるようなものがあってタケちゃんの策略に負けて泣いたりするのはどうもな、と思いつつも涙が溢れあがってくるのを抑えられないのだ。

一体こういう愛はなんと呼ぶんだろう。この映画で3つの男女の愛が描かれていくのだが、一見「純愛」と呼ぶようでいてそういうものではない。3つの愛は別々だがどれもある形での約束があり、それを破られた時、女が「我」を張ってしまうのだ。
最も判り易いのはそのまま主旋律である佐和子と松本の話なんだろけど、結婚の約束をした松本が別の女性と結婚するために自分と別れたという理由で気が狂ってしまう。冷静な人間から「本当に彼を愛するなら迷惑をかけるようなことはしないのではないか」などと言われそうな行動なのである。まあ狂ってしまうのは行動ではないのかもしれないが彼への当て付けにそうなったように見えてもしまう。しかも彼のほうもそんな彼女の姿を見ておたおたと動揺し、愛する両親の苦悩も考えず自らも狂ってしまう。世の中の秩序だとか基本だとかを逸脱している困った二人なのだ。
佐和子と松本は気がふれたままお互いを赤い捩れたひものようなもので結び合いあちこちをさまよい歩く。
互いの幸せを目的にして計画的に愛を発展させ家庭を築きあげるのが本当の愛なら彼らの愛は愛じゃないのだろう。それなのに何もかも失ってしまいいくあてもない二人のそれは愛だけではないのかと思ってしまうのだ。
佐和子が狂った時、それだけが彼との愛を閉じ込めていける唯一つの行動だったのだろう。

ヤクザの親分と恋仲だった女性の姿もまた意地を張り通した、としか思えない。誰からも笑われてしまうような馬鹿な意地だ。でもそうすることでしか生きていけないのならどうすることもできないではないか。

アイドルとその追っかけの場合は男の方のくだらない意地か。顔に酷い怪我をしてしまったアイドルのその姿を見ないために目を切り裂いてしまうなどとまた大馬鹿としかいえないが彼にとってはそういうことでしか愛を表現できなかったわけで。
恋人でもない自分の勝手な思い込みの女の為に大切なものを失ってしまうこの男に反感や嫌悪感を持つ人がいても仕方ないのかもしれない。

ここに描かれたのはどれも皆が望むような理知的で包容力のある建設的な愛じゃない。
どうしようもなく馬鹿でくだらない自分勝手で計画性もない愛だ。そんな愛は愛じゃないというならそれはそれで仕方ないだろう。
彼らは別にこれが愛だと言っているわけじゃないのだし。
人が人を愛する時、それが誰の為だとか何の為だとかすべて計算して愛するわけでもない。
人から笑われ蔑まれているかもしれない。坂道を転げ落ちて木の枝にぶら下がってしまうのかもしれない。
でも捻じれたひもで結ばれて二人がとぼとぼとあてもなく歩き続けているさまはなんだかどこにでもいる普通の夫婦の姿でもあるように思えるのだ。
ここに描かれたのは特別な異常な愛ではなくみんなこういう独りよがりの愛を持ち、人からは「あーすればいいのにねえ」と言われるような生活を送ってるのではないだろうか。
みんながそうだと言うのがいけないのなら、佐和子と松本の姿がまるで自分と我が相棒の姿のように思えて私はならないのだった。
つながり乞食、それが夫婦の姿なんだよね。

監督:北野武 出演:菅野美穂 西島秀俊 三橋達也 松原智恵子 大杉漣 深田恭子
2002年日本

ちょうど昨日ヤクザがでてくる映画は嫌だ、と書いたばかりでちょうどいいが、この映画で扱われているヤクザ、アイドル、政略(?)結婚などどれも嫌いなものばかりなのにここでの使い方はそういう「嫌い」など吹き飛んでしまう。
今まで北野武監督とは(『キッズリターン』以外)合わないと思いこんでいたけど、この作品の出来栄えには、何も言えない。
素晴らしい演出力を持った映画だと思う。

あ、すみません。大森さん(笑)
松本の友達役で笑顔が可愛かったです^^;
冒頭から出ていたし、昨日の映画と違って映像がクリアだったのではっきり判ってよかった。
それでもってナオさん目的でこの映画を観れたのは本当に収穫だった。ナオさんが出てなかったら観なかったしね。
一気に武ファンになってしまった。いい映画だ。


posted by フェイユイ at 23:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 大森南朋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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