映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年08月24日

『ハッシュ!』橋口亮輔

ハッシュ!.jpg

とても話題になったゲイの映画なので私なんぞはとっくの昔に観ていて当然だったのだが、「普通っぽいスタイルで女性が絡んできて赤ん坊を作る」という話だとどこかで読んでどうも「悪っぽい」話が好きな私はその時点で観る気が失せたのだった。
それがここに来て観ようと思ったのは同監督の最新作『ぐるりのこと。』に新井浩文さんが出演してるので突如興味を持ったこととこの前讀賣新聞に監督の記事が載っていたので「何かの縁」を感じて観ることに決めたのだった(長い前置きだなあ)

さてさて感想は。
さすが話題になったゲイの物語、ということで現代のごく普通の日本におけるゲイの若者らしい雰囲気を持った作品で惹きつけられた。
問題は愛し合っている彼らの間に入り込んできて「赤ちゃんが産みたい」と言い出す女性のキャラクターなんだろうなあ。
今まで色んなゲイの物語にこういう女性が一人絡んで来てゲイ2人に微妙な位置の女1人、というのを数多く観てきたものだ。
結局二人の男がゲイなのならもう一人くっついてる女性というのはどうも浮かばれない存在である上、ある意味邪魔だったりもする。
しかしここではゲイ男二人があまりに普通っぽい状況であるためか、何となく二人の間に「このままずっと続くんだろうか」みたいな空気があってそこに登場した性格破綻な女性の出産依頼によって却って彼らの繋がりが強まっていくのが見えてくる。
観る人によってはこの女性の異常性に反感を持ってしまいそうだがこういう女性だからゲイふたりのどちらも彼女に好意を持ちそうにもない安心感がある、と思うのはおかしいんだろうか。あまり同情もせずにすむしね。(いい女性だったら「こういう関係で可哀想」ってなるが彼女ならなんだかこういう関係になれただけでもラッキーじゃない?って思えるし)まあ、そういう女性を登場させること自体に反感を持ってしまったらしょうがないけどね。

ゲイの男達が女性とともに擬似家族を作る話と言えばマイケル・カニンガムの『この世の果ての家』と映画『イノセント・ラブ』を観て感銘を受けたが作られたのが本作の方が先でもあり、日本人だから当たり前かもしれないがもっとリアルに普通らしい感じがする、ということではこの作品のほうがもっと魅力的かもしれない。だからと言って『この世の果ての家』『イノセント・ラブ』にもまた別の魅力があるとは思うのだが。
そういえば今思ったけど小説『この世の果ての家』のラストシーンは水辺のシーンだった。
本作ではラストの一つ前のシーンになるが主人公の兄の死ということも重なって恋人達が(『この世』では3人の男になるが)水辺で心を通わせるという場面が入ってくるのも不思議な共通点である。
そして映画のラストシーンは『イノセント・ラブ』では外から家の中に入っていく二人のゲイの恋人達を観ている、という構図になっていた。
本作では引越ししてきた女性の部屋でゲイ二人と女性が温かい食事を囲み、女性が二人それぞれの子供を作るのと宣言する明るい最後で締めくくられる。このラストは立ちあがって拍手したくなるようなホントに素晴らしいものだった。

ゲイ二人。そろっていい男で観ててもうれしい。ゲイであることにきっぱりとして可愛い直也くんもよかったがいつまでもうじうじと悩み続ける勝裕を演じた田辺誠一さんがとてもステキだった。ほんと、朝子羨ましいぞ。

監督:橋口亮輔  出演:田辺誠一 高橋和也 片岡礼子 秋野暢子 冨士真奈美 光石研 斉藤洋介 深浦加奈子 つぐみ 沢木哲 岩松了 寺田農
2001年日本


ラベル:同性愛 出産 家族
posted by フェイユイ at 23:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ノーカントリー』ジョエル・コーエン イーサン・コーエン

ノーカントリー.jpg
No Country For Old Men

これは貧しい暮らしをしているルウェインが正体不明の不気味な異常性格殺人者シガーに執拗に追い詰められていく話、と言う事になるのだろうがよくあるように巻き込まれ型とか何の咎もないのに、というのではない、というとこが問題なのかもしれない。
どうしてもハンサムで一般的白人のルウェインに共鳴して観てしまうものだろうが元はといえば他人の金を何の関係もないのに盗んでしまったルウェインに原因があるのだ。どういう利害関係かはわからないが一応追っ手であるシガーはその金の持ち主(と思われる者の使い)なのだから返金するのが当然なわけで大金を盗んだルウェインがその咎を責められるのは間違いではないのだ。その持ち主が本当にそいつか判らんというのであれば警察に届けるのが筋というもので泥棒であるルウェインに同情する必要はないのだ。
しかもそのことで妻やその母親に危険が迫るのは承知でいるのだから義母がルウェインをけなすのは正解なのである。

一体なんでルウェインに同情しながら観てしまうのか。前に書いたが彼がハンサムなアメリカ白人だから。異様な風貌のスパニッシュやルウェインからピストルを奪われ水も与えられず見捨てられてしまうメキシコ人には同情しないのである。
ルウェインがメキシコまで逃げていくのでメキシコ人は巻き添えを食っていい迷惑なのだ。これだからアメリカ人は身勝手だと嫌われてしまっても知らんふりなのだ。
シガーは悪いがルウェインは良いのか。殺人者より泥棒は罪が軽いからというわけか。助けられる人間を見捨てはしたが。

シガーって一体何なのか。どうしてここまで心がないのか。腕から骨が飛び出してもまた病院にも行かず自分で治すのか。病院にいくこともできないのだろうか。
泥棒夫妻に同情してもシガーには同情する者はいない。
しかもルウェインは「シガーという名前だ」と言われているのに「シュガー」とわざと言い間違えたりする。こういうの一番むかつくけどシガー自身が悪者だから誰も可哀想には思わない。

保安官がこの一連の殺人劇に一度も絡むことがないことが彼ら国を守るべき者たちの力がもう及ばないことを表現しているのだろう。
最後に引退した保安官が今の彼より若くして死んだ父親の夢を語るところで終わる。
父親が先に行って雪山で火を焚いて彼を待っているのを知っている、と元保安官ベルは語る。その情景は死後の世界で彼を待つ父親の姿を思わせる。

などと書いて来たが、それでもこの追跡劇の面白さは確かに秀逸であったと思う。
映画を楽しみたかったので原作は読まずにいた。マッカーシーの『すべての美しい馬』もアメリカとメキシコを彷徨う悲しみに満ちた作品だった。映画化された作品は随分違う印象であった。
この映画は、というと未読なのでなんともいえないがかなり原作に忠実だということらしいのだが、それでも『すべての美しい馬』を考えるとそうなのかな、とも思えてくる。その辺は読んでみるしかないので是非読んでみたいと思っている。

監督:ジョエル・コーエン イーサン・コーエン  出演:トミー・リー・ジョーンズ ハビエル・バルデム ジョシュ・ブローリン ウディ・ハレルソン ケリー・マクドナルド ギャレット・ディラハント テス・ハーパー
2007年アメリカ
ラベル:犯罪
posted by フェイユイ at 00:53| Comment(3) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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