


Apt Pupil
原作がスティーヴン・キングなので興味は持っていたのだが、元ナチス将校という題材をアメリカ映画でやると陳腐なものになってしまいそうという思い込みで観ないままになっていた。
しかも最近監督のブライアン・シンガーの評判作『ユージュアル・サスペクツ』が思いのほか、つまらなかったのでますます観る気がなくなっていたのだが、大晦日の夜という記念すべき時(?)に何故か観る羽目になってしまった。
だがこれがまた予想外に面白かった。
この話ほど嫌悪感のある話もないだろう、というくらい嫌な話である。
裕福な家庭の健康で成績もよく運動神経も抜群で女の子にもモテるハンサムな少年がナチスに興味を持っていた。そして近所に住む老人が元ナチス将校で多くのユダヤ人を虐殺した過去を持つことを調べあげ、彼に近づき「正体をばらされたくなかったら僕の言うことを聞け」と脅すのだ。それはユダヤ人虐殺の一部始終を話して聞かせることだった。
実際にナチス将校だった彼の話は学校の授業では到底聞くことのできないスリリングなものだった。
老人の物語は少年の夢の中にまで入り込み、やがて彼の生活を脅かしていく。
ガールフレンドとの交際にも興味をなくし、学校の成績は落ち込み、親友の信頼も友情も彼にとっては意味のないものになってしまったのだ。
それまでの少年の態度ほどむかつくものはない。当事者であるわけでも肉親が関係するわけでもないのに「お前の残虐行為に比べたら僕がすることなど大したことではない」という奇妙な正義感を振りかざす。
少年の考えや行為というのがアメリカ人そのものの表現のように思われる。
そして立場のない元ナチス将校は少年の言いなりになる哀れな存在のように思われるが結局、少年はナチス将校の敵ではないのだ。
その描き方が今までよく見てきた非道なナチスだから、ということではなく幼稚な思考しか持たない少年が経験を積んだ老人相手に先手を読まれてしまうチェスか将棋の如くであり、次第に老人は少年を手玉に取ることに快感を覚えていく。
そして老人は彼の言葉通り「最初は憎かったが次第に少年と会うことに喜びを覚え、ついにはいつしか彼の自分への興味がなくなることに不安を持つようになり、少年がいつまでも自分から離れられないようにと計画をたてた」のだ。
それは少年について書いた手記を貸金庫に預けたという嘘から始まる。少年が浮浪者を殺害する羽目に落としいれ、最後には老人自身が死んでしまっても少年が自分を害する者に対して脅迫することに快感すら覚えるように変化させたのも元ナチス将校であるドゥサンダーの仕業なのではないだろうか。何不自由ない優等生である少年の心が歪んでいく様子は不気味だが、もともと彼自身が興味を持っていたことなのである。
ドゥサンダーもうまく生き延びたつもりが偶然隣に自分に恨みを持つユダヤ人がいたことで逃れきれなくなってしまう。
二つの人生を辛辣に描いている。少年はいつまでもドゥサンダーに関わったことから逃れられないのだ。
ドゥサンダーの願いどおりになるわけだ。
スティーヴン・キングのいう超人気作家はホラーの大物だが、どの物語にもどこかしらゲイ的な雰囲気を持っているのが魅力である。その辺が彼のファンの間ではどう評価されているのか、まったく知らないのだが私がキングの小説に惹かれる理由の一つである。
本作も同性愛的な心理が題材になっているわけではないのだが、どことなく主人公たちの関係にそうした感情が作用しているのではないかと思わせてしまう。
少年役のブラッド・レンフロの透き通った瞳が美しい。少年のちょっとした悪戯心がとんでもなく人生を狂わせていく。そんな罠にかかってしまうまだ幼い獣のようで痛々しい。
近所に元ナチス将校が住んでいたら、というとんでもないが皆が興味を持つ想像からよくこんな怖ろしい結末を導いてしまうものだ。
監督:ブライアン・シンガー 出演:ブラッド・レンフロ イアン・マッケラン
1997年アメリカ