映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年12月23日

『ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかた』エイドリアン・シェリー

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WAITRESS

こういうタイプの映画を殆ど観ないので非常に新鮮な気持ちで観ていった。
こういう映画を観てると特に「こうなると思ってた」とか「思ったのとまったく違う結末だった」とかいう感想が多い気がするが私としては「こうなると思うのが普通だろうけど、違う方向へ行くと思ったらいかにもという場所に落ち着いた」というところだろうか。

なんだかややこしくて歯切れの悪い感想だけどそう思ったのである。
というのはいかにもアメリカに多そうなバイオレンス夫にはっきり別れを言い渡せない女性が彼女を理解してくれる(と思える)すてきな男性に出会って彼女自身は妊娠していて亭主はそれをあまり快く思っていない、となればアメリカ女性の理想としてはダメ亭主とはきっぱり別れて新しい道を歩む、というのが定番であるだろうがそれでは当たり前なので少し違った結末があるのかな、と思ったのである。
そこで浮かんだのは日本のマンガ(映画にもなったが私は原作のマンガしか知らないのでマンガの方で考えて欲しい)『自虐の詩』の夫婦である。
あの作品も誰が観ても最低と思えるバイオレンスダメ亭主と働く側から夫に金を奪われるのに別れ切れない女性の話が描かれている。
しかしこの二つの作品の決定的な違いは本作ではジェナが夫を憎みきっているのに、『自虐の詩』の幸江はそんな夫を愛しぬいている。
ほんとに設定が凄く似ていてジェナも幸江も食堂で働いている(さすがにアメリカのがちょっとおしゃれな感じのパイの店であり、幸江さんのほうは純日本的な大衆食堂の出前持ちであるというのが涙もの)ダンナは筋肉質の結構いい男で結婚前は優しかったのだが結婚後豹変したというのも一緒。ただし酷さは日本版ダメ亭主のほうが上で、アールは一応働いてていい家に住んでいるがイサオはまったく働かず賭け事三昧でぼろアパートになんとか住んでいるという具合。
なのに!幸江さんはイサオを愛している。そして妊娠した後の幸江さんはもう悟りきった域に入っていき、バイオレンス夫と相変わらず暮らしながらも赤ちゃんの生まれるのを幸せに感じている。
一方のジェナは赤ん坊が生まれたとたん、強い女性になってダメ夫に決別し自分の道を歩み出す。

そう。つまり私は『自虐の詩』の幸江のようにジェナもアールにいい所を見出して不倫をやめ、つつましいながらも家庭を作っていくのかな、と思ってしまったのだった。
日本人でした、私。
これはアメリカ。そういう物語では共感を生まないのだろうな。
どちらがいいということではない。
いや、自分自身のことだったら私もジェナの道を歩きたい。
バイオレンス夫に作ったご飯のテーブルをひっくり返されながら生きていくなんて幸江さんのような人生は送りたくない。
だからこそ、幸江さんの物語を読んだ時、涙が溢れた。
でもジェナの物語でも涙はこぼれたのだ。赤ちゃんを見た瞬間ジェナの迷いが一気にふっきれてさよならを夫に告げた。
幸江さんもジェナも同じように強い母親であるのだ。
バイオレンス夫と暮らす道を決めても、バイオレンス夫と別れて暮らす道を決めても。
どちらにしても自分で決めたこと、なのだ。
だからこの映画が答えだとは思わない。
あのバイオレンス夫を見ていたら「この人はそんなに悪いひとじゃなくて、うまく思いを伝えきれないだけなのかな」と思ってしまった。上手く操縦していけばそんなに酷くないかもしれない。
無論そうじゃなくてホントに悪い夫だっている。でもこの映画のダンナはなんだか気が弱そうでジェナに甘えているだけみたいに見えた。でもジェナ自身が嫌いという感情しかないのだからどうしようもない。
ダメ夫を許してしまうのが日本的できっぱり別れを言い渡すのがアメリカ的。
いや、「許そうと思いたい」のが日本人の理想で「きっちり許さんという」のがアメリカ人の理想として二つの物語があるのかもしれない。

なにはともあれ不倫相手と落ち着く、というような道でなくてよかった。あの彼氏がジェナを本当に幸せにできたんだろうか。
なんとなくあの人も「結婚したら豹変」のタイプにも見える。どっちにしてもマッチョ系が好きなんだよね、ジェナって。威張ったタイプが。少なくともドーンが選んだような男は好きにならないみたいで。

ジェナも幸江も時々母のことを思い出す、というのも同じでどうしてこう内容が似てるのか。まさかエイドリアン・シェリーさん『自虐の詩』を読んだのか。
いやまあこういう物語はどこの国でもあるものなのだろう。
『自虐の詩』の方は男性が書いた、というのが凄い、と思っているのだが。男性だから書けたのかなあ。

『自虐の詩』の幸江さんの悟りの境地はアメリカでは受けいれられるのか、どうか、聞いてみたい気もするのだ。

甘党じゃないのでたくさんのパイに心酔しなかったのが残念だ。でも見るのは好き。凄く綺麗で。
赤ちゃんを産む場面はやっぱり感動的だし、赤ちゃんの可愛さを見れば「この子を守る為ならどんなことでもする!!」って気持ちになってしまう。

色んな道がある。これもまた一つの道。幸せだと思っていればそれが幸せ。
と思った映画だった。

監督:脚本:エイドリアン・シェリー 出演:ケリー・ラッセル ネイサン・フィリオン ジェレミー・シスト エイドリアン・シェリー シェリル・ハインズ
2007年アメリカ


ラベル:人生 女性
posted by フェイユイ at 22:59| Comment(3) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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