
これもまた怖ろしく中途半端な出来栄えでいっそのこと物凄くつまらないんだったら観ないですむんだけど惹かれるところもあるだけに腹が立つ作品だった。
着想自体は面白いしストーリーも悪くないんだけど脚本が酷すぎるのか。とにかくまず台詞が耐え難い。鳥肌ものの陳腐な台詞だけで構成されていくのである。共感覚だったらこの台詞もパフュームか極上のアイスクリームのように感じられるのかもね。
同じ話を別の脚本家と監督でやれば凄く面白くなりそうな題材なのにどうしてここまでつまらなくできるのかが不思議。台詞、演出がしょうもないTVドラマのようで何故もっとこの不思議な世界を突っ込んで表現してくれないのか。つまりはまあ表現者が「共感覚」なるもののイメージがつかみきれていないということなのだろう。
目の前にある物体、事柄、出来事が他人と共有できない自分だけの感覚を持つ、という経験は誰でも少しは味わうことはあるはずだし、いつも他人と違う感想を持つっていう人もいるだろう。本作の「共感者」の説明のように物体が他人と違うように見える「水が四角」だとかスプーンがタンポポだとか、だと本当に生活に支障がないのかよく判らない。
ミッキーマウスがちっとも可愛くない、なんていうのはよくあることでさほど驚くことはない(私もあの世界に共感できない一人だ)数字に色を感じる人は結構いると聞く。計算すると様々な色が交錯するとか、これは面白い。絶対音感なんていうのも凡人にはわからない特殊な感覚だし私自身は子供の頃、面白い本を読むと独特の甘い匂いがして恍惚となったりした。大人になったらこの感覚がなくなってしまった。なんてことだ。誰でも少しずつ他人と違う感覚を持っているんじゃないかと思うし、そういう意味でもこの映画は凄く興味がある題材なのだ。なのにこの顛末というのはなんだろう。
色んな点が不満だ。貴史の存在があやふや過ぎる。何故彼なのか。麻里が新介と関係を持つために彼を邪魔だと感じる、のなら彼ら二人の関係がもっと深いものである描写が必要だ。普通なら新介の子供を妊娠している彼女の方を攻撃するはずだ。この女もなんだかめそめそ泣いてて鬱陶しい。
妙に貴史の台詞が新介との関係を怪しく感じさせるがそれならそれで二人が強く結びついていた方がいい。
麻里が兄に性的暴行を加えられていた、というのもよくあるものだが、それが上手く物語に作用していない。むしろ麻里も同意している関係だったほうがいいのではないか。
狂言回しの女性刑事の存在が一番無意味。あのオジサン刑事だけでよかったんじゃないか。
奇妙なやくざ、こんちゃん(鳥肌実)は面白いが肝腎の主役・江口洋介は嫌いじゃないがこの役には合わないんじゃないか。大体この才能を持つ人間ってイメージ的にはこんなごっつい人じゃ嫌だ。むしろ安藤政信と役を交換すればよかったと思う。
宮崎あおいは申し分ないけどね。
そして松田龍平が出てくる時だけ、映画になる。彼は声が凄くいい。台詞も彼が話していると惹き込まれるのだ。あのちょっと変な感じのする顔もこういう役にはぴったり合うし。出番が少ないのも美味しいのだ。
観て損する映画じゃないけどのめりこんでしまうものがない。勿体無い作品である。
監督:松浦徹