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2009年03月08日

『でんきくらげ』増村保造

でんきくらげ.jpg

久し振りの増村作品。この『でんきくらげ』という不思議なタイトル、昔うっすらとなにやらエロテッィクな映画だということで話題になっていたような(さすがに自分の記憶は公開当時ではないと思うが)うっすらとした記憶だけがある。DVDの表紙もちょっとためらわれるきわどさである。

とはいえ無論そこは増村保造作品。いつもどおりの物凄いハイスピード展開の乾ききった映像でたちまち引き込まれて観終わってしまった。
映画の中で起きていく出来事は正直神経が逆撫でされるような嫌なことばかりなのだが日本的情緒の欠落したような(つまりめそめそする余地がまったくない)突き放した語り口なので意外にあっさり観てしまえるのだ。ま、逆に言えばどろどろ感を求めたい向きには不満かもしれないが。
それは主演の渥美マリの持ち味なのかもしれないが、まるきり棒読みの台詞回しがまるで感情のない人間のようにも思えるし、とんでもない事が起きてもすべてさらけ出してしまい隠し事をするということがない。それでこちらはイライラすることなしにどんどん物語が進んでしまうのである。

なにしろこの物語というのが中年ホステスが仕事の間に自分のヒモである男に大事な娘をレイプされ怒ったところ「お前みたいな婆には飽きた」などと言われたあげく娘を連れて行かれそうになったのでかっとなって刺し殺してしまう、という怖ろしく滅入る話から始まる。
真面目だった娘は仕方なく母親が働いていた店のホステスになりやくざから手篭めにされそうになったり嫌な中年社長たちと関係を持ったりしながらとんとん拍子に出世していく、というまあある意味よくある話なのだがテンポがよくてちょっとおかしいのであっという間に乗せられてしまうのだ。

主演の渥美マリという女優は名前は聞いたことがあるがどういう人なのかまったく知らないしこれもうっすらとセクシー女優であった、と言われていたような記憶があるだけだ。出演作品のタイトルを見てもいかにもそれらしいし「軟体動物シリーズ」などというこれまたいかにもな企画名で人気になったらしい。本作はその3作目で監督は入れ替わりで撮影されていて増村監督は6作目の『しびれくらげ』で再監督となっている。またきわどいタイトルだ。
で、多分本作が渥美マリ初見だと思うが、なるほどエロチックで作品中でも言われているように「男好きのする女性」なのだろう。そういう女性が増村監督によって実にあっけらかんとした素直で自由な言動をして男達を魅了していくのだから観ていても凄く楽しい。
結末の彼女の決心にも驚くがそういえばマット・デイモン主演の『レインメーカー』のラストが気に入らなかったのを思い出した。夫から暴力を受け続けている女性を弁護士のデイモンが助け出し弁護士が辞めて彼女と結ばれる、というようなエンディングである。まあ、弁護士デイモンはそれでいいのだろうが、夫の暴力から助けてくれた弁護士と結婚するその女性というのはまた男の支配下に置かれるわけで結婚後その男がまたDVをやらかすかもしれない。なんでこう男に頼らないと生きていけない女なのかとうんざりしたのだ。
渥美マリ演じる由美はそうしたうじうじをぶっちぎってくれた。堕胎というのはさすがに怖気づく決断だったが。

今、松山ケンイチ主演『銭ゲバ』を観てて今のところどうも迫力がないのだがこの由美の生き方こそ『銭ゲバ』の称号を与えてもよさそうだ。
松ケン演じる風太郎よりよほど徹底したゲバっぷりではないか。

監督:増村保造 出演:渥美マリ 川津祐介 西村晃
1970年日本


posted by フェイユイ at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 増村保造 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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