
Veronica Guerin
これはもう何の文句もつけようのない優れた実話映画作品ではないだろうか。
アイルランドは麻薬がらみの映画が多いなと思ってはいたもののこういう状況だったとかこういう新聞記者がいたとかいう話はまったく知らなかった。
相変わらずケイト・ブランシェットはめちゃカッコいいがヴェロニカ本人の写真を見てもさほどイメージが違わないのが驚き。そしてケイトが演じたと同じように勇敢に突き進んでいく女性だったんだろう。
女性が活躍する作品だと女性映画というようなカテゴリに入れられてしまいがちだが彼女に関しては全くそういう次元の話ではないと思ってしまう。無論、彼女にも仕事と家庭の板ばさみの悩み「家族を大事に考えなければいけないのでは」というものはあるのだが、それはこの物語の主人公が夫であっても考えるだろう事柄である。女性の目からすればヴェロニカのダンナさんの包容力にまず感心してしまうし、仕事ばかりする妻に拗ねる夫に甘えてみせるヴェロニカにだからこそ夫の愛情と協力があるのだろうなと納得するのであった。
無論小さな坊やはまだお母さんに甘えたい年頃で可哀想だし、本当は母親を失うなどということと引き換えにできるわけはないのだがそれでもきっと母に誇りと尊敬と愛を持っていることは間違いないことだろう。
妖精の国アイルランド・ダブリンで麻薬に溺れ死んでいく子供たち、道路に散乱する注射器で遊ぶ幼児たち、子供たちを食い物にして金持ちになっていく悪い大人たち、そして他の大人はそれらを見て見ぬふりをしていると新聞記者ヴェロニカ・ゲリンは駈けずりまわるのである。
勇敢そのものに見える彼女も自分や子供を襲うと脅されれば震えあがってしまう。だが夫にすがりながら「絶対に私が怯えたと言わないで」と訴える彼女の強い意志と夫の「絶対に怯えたりしていない」と答える優しさと強さに打たれてしまう。
悲しいのは結局は彼女の死によってしか人々が動き出さなかったことだ。それまでも彼女は撃たれ殴られ脅されたが命を捧げなければ人々を動かすに到らなかった。なんという犠牲であることか。
彼女が死ぬ前に何故人々が動き法律が改正しなかったのか。命を投げ出さねば世の中というのは変わっていかないものなんだろうか。それでも自分の死によって国が変わったことを彼女が知ったら頷いてくれるだろうか。
最後に彼女以外にも多くの記者が仕事によって命を失っているのだという言葉がある。
人々に我々に物事を伝えるという仕事は命を犠牲にしてなされていくことなのだ。起きている事件を知ることはそれほど大切なことなのだ。
役者にも製作者にもこの作品を作り伝えようという情熱がこもっている訴えのような映画であった。
路上で窓越しにTVのサッカーを見てる酔っ払いみたいな青年役でコリン・ファレルが登場。ヴェロニカと他愛ない話をするだけの刺青男なんだけど。
監督:ジョエル・シュマッカー 出演:ケイト・ブランシェット ジェラルド・マクソーレイ シアラン・ハインズ ブレンダ・フリッカー ドン・ウィーチェリー バリー・バーンズ サイモン・オドリスコール
コリン・ファレル
2003年アメリカ