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2009年04月13日

『裸のランチ』デビッド・クローネンバーグ

裸のランチ.jpg
NAKED LUNCH

なんとなくこの映画を観てしまったのだが、実を言うと観るまでいまいち気が乗らなくてこれにしなければよかった、などと頭の中でぼやいていたのだった。
ところが観始めてしばらく面白さに入り込んでしまった。
バロウズ、及び麻薬を扱った小説の類に若い時は非常に興味があって読み漁ったりしたものだが、自分自身では体験してもないし、する機会も(幸運なことに)なかったし、よくあることだろうが年齢を重ねる内にすっかりそういう世界を覗き込むことから離れてしまった。
だもんだから、この映画ももうすでに過去の興味にしか過ぎないようでまた現実逃避の男の物語かとヒース・レジャーの『キャンディ』で味わった『麻薬撲滅運動』的な内容を予感してしまったのだった。
とんでもなかった。まだ私はクローネンバーグがどういう創作者なのかよく判ってないようである。
1940〜50年代の雰囲気がある種、不思議な異次元感覚を出すものなのだとも感じられた。主人公ウィリアム・リー=バロウズ役のピーター・ウェラーの尖った顔と青い目と痩躯も文句なしに素晴らしい。
害虫駆除の仕事をする主人公が配給される駆除剤の減りが早いので疑問に思っていると彼の妻が麻薬代わりにそれを注射していた、というのにまず驚き、「フッ素」だの「除虫菊」だのが麻薬代わりになるのだという説明が信じ難くも面白い。
ジャンキーの妻と違い主人公ビルはまっとうなように見えていたのに彼が警察署でゴキブリのお化けを見せられた時、すでに彼の脳が侵されていることを知るのである。
このゴキブリのお化けは次に彼の愛用のタイプライターにも姿を変えるがその背中に(人間の)尻の穴があり、それがぺちゃくちゃとおしゃべりをするといういかにもゲイらしい妄想でありグロテスクながらユーモラスでもある。
後はもうビル=バロウズの薬による彼の内的世界=インターゾーンの面白さをたっぷり味わうことになる。
透き通った青い目のウェラーが神経症的に生真面目であるほど世界の歪みの奇抜さが際立って見えてくる。
唐突に登場する奇妙な生物の醜悪さ。普通の生活をしながらそういう異次元の物体が存在し彼の思考を混乱させる話をする。
私がすぐ連想したのは吾妻ひでおの世界でタイプライターが奇怪な虫であるとか気持ちの悪い異世界人の口の中でタイプを打つとかその頭から得体の知れない液体が滴り落ちているだとか吾妻っぽい。ただし吾妻ひでおには可愛い女の子がエロスとして登場するがバロウズ世界ではゲイの表現になるわけで可愛い女の子よりはゲイの表現、話をする尻の穴、美青年を背後から犯す怪獣、ビルと関わる女性が妻のイメージだけ、もう一人の老女はベンウェイの女装だった、ということで強固なヘテロ人間にはロリータよりも気色の悪いことは確かだろう。そういう意味でこの映画に拒否反応を示す場合もあるだろうし。
妻の頭を撃ち抜くことで「作家として認める」という結末も反感を買いそうだが、すべてがブラックジョークなのだと楽しめばいいのである。
(そう思えるか、思えないかが好みを分けるわけで、この作品は私にはジョークとして愉快だが、別の作家だと嫌だったりするのだからね)
そしてまたここでもインターゾーンがモロッコ風だったりするのだが1900年半ばまでのアフリカ北部が欧米人にとっての逃避場であることが(『情愛と友情(ブライヅヘッドふたたび)』でもそうだったように)わかるのだ。

クローネンバーグの描くバロウズ世界が映像で許される範囲内で上手く表現されている。
ビルがドラッグを使用している映像はなく、映像そのものがすでに薬漬けになっている。ビルがあからさまに同性愛行為を行う場面はなくてもビルの言動でそれを拒絶したり否定することはない。
架空の麻薬による幻覚が彼の生活と精神を蝕んでいく。そこには恐怖と嫌悪感と共におかしさも含まれている。人間の脳が作り出す奇妙な異世界を覗き見る興味を自分はまだ失ってはいないようだ。

監督:デビッド・クローネンバーグ 出演:ピーター・ウェラー ジュディ・デイビス イアン・ホルム ジュリアン・サンズ ロイ・シャイダー
1991年 / イギリス/カナダ


ラベル:異世界 麻薬
posted by フェイユイ at 23:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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