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2009年07月11日

『さよなら子供たち』ルイ・マル

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Au Revoir Les Enfants

いつも始めに「何も知らず観たが」と書いてしまう私だが、この映画の設定は判っていたし、二人の少年の顔が大きく写っているジャケット写真は数えきれないほど眺めたものだ。有名な作品でもあるから観たいと思いながら機会がなく今になってしまった。期待する長い時間の間にルイ・マル監督の他の作品を幾つも観たせいでこういう映画だろうか、という想像もしていたものだ。
果たして観た感想は。不思議にも初めて観たはずなのにもう観たことがあるような気さえするのだった。

というとまるで駄目なものだったように思えるがそれは全く違う。
長い間少年たちの顔を眺めてすっかり覚えていたし、もしかしたらこの映画の影響を受けた作品を観てきたのかもしれないし、いくつもルイ・マルの映画を観てきてそのニュアンスを覚えてしまったのかもしれない。
だがそれは私の思い込みであり、私が想像したものではなく、こういう映画であって欲しいと思う映画そのものだったからかもしれない。

ルイ・マル監督自身であるらしいジュリアンはとても頭のいい少年だが少し繊細な部分がある。
ナチス占領下にあるフランス。パリから離れた寄宿学校で生活する12歳のジュリアンたちのクラスに突然ジャン・ボネという少年が編入してきた。
ジュリアンに負けないほど頭がいい上にピアノも上手だが無口で仲間に溶け込めないジャンに対しジュリアンは何かと意地悪なことをしてしまう。
だがそれはどこかで彼に惹かれているせいなのかもしれない。何故かとても謎めいた転校生の秘密をジュリアンは探ろうとする。
彼は変名を使ったユダヤ人だったのだ。

物語の多くは思春期の少年たちの生活を淡々と描くことで費やされる。憧れや妬みや互いの探り合い。ジュリアンはまだ甘えたい年頃でママと離れるのが辛いのだが、ジャンはママの行方さえ判らないということを知る。
思春期に少年たちが必ずすること。けんかや欲しいものを手に入れるための取引、綺麗な少女への憧れ、自分より才能を持つ者への嫉妬。そういう毎日の中でジュリアンは次第にジャンに惹かれていくことを認める。
そうして彼らがじゃれ合ったりふざけたりしているのを観ていてもナチスの脅威を知っている観る者はどこか不安を覚えずにはいられない。
森の中で学校の仲間と宝探しをしているうちにはぐれてしまうジュリアンとジャン。怖い猪にも怯えてしまう二人の姿はそのままこの映画の彼らの状況を表しているようなものだ。
そこへ現れたドイツ兵士を観た時はこんなにも早く別れが来たのかと思ってしまったが彼らはただ二人を学校へ送り届けてくれただけだった。

レストランにジュリアンと彼のママと兄さん、そしてジャンを連れて行った時、ユダヤ人を探す兵士たちが入り込んでくる。
ジャンとは別のユダヤ人の紳士が兵士たちに目をつけられてしまった時、レストラン中のフランス人が口々に叫ぶ。それは兵士たちへの反発、ユダヤ紳士への助言など。そこへどうしたわけかナチス将校が兵士たちを追い出してしまい、その場は収まる。フランス人たちがただおとなしくしているだけの性格でないことが見える。
そしてジュリアンのママの「私たちはユダヤ人ではないけどユダヤ人は嫌いじゃないわ」という言葉でジャンが嬉しそうにほほ笑むのが痛々しい。彼は何一つ話さないのである。

映画はジュリアンの目から見た物語になっているのでユダヤ人であるジャンの心は語られることがない。
空襲のさなかにこっそりとピアノの連弾をして楽しむ二人。大声で笑う二人。戦争さえなければ、ユダヤ人狩りさえなければ二人はそうやっていつも楽しんでいられたはずなのに。
いやジュリアンはジャンに出会うことはなかったのかもしれない。
戦争という恐ろしい出来事が二人を引き合わせ、そしてあっという間にその繋がりを断ち切ってしまった。
ナチスがユダヤ人を探しに学校へ来た時、ジュリアンはついジャンを見てしまう。
何故、ルイ・マル監督はこの場面を入れたんだろう。それは恐ろしい瞬間だった。ジャンは「いつかは捕まってしまったんだ」とジュリアンにつぶやく。
この場面を入れることはルイ・マル監督にとって非常に過酷なことだったんではないだろうか。彼の一瞥で運命が決まってしまった。
あの場面をいれないこともできただろうが、はっきりとそのことでジャンが気づかれたことを表現している。
これはルイ・マルの告解であったんだろうか。

最後、ユダヤ人とアーリア人ではない少年たち、そして彼らをかくまった神父が連行されていく。生徒たちが口々に「さよなら神父様」と叫び神父が答える「さよなら子供たち」
ジュリアンはジャンと別れ、そして自らの子供時代にも別れを告げた。

ジャンの寂しげな表情。いつも自分を隠していなければならない。無口で他の子供たちと隔たりがある。子供にとってなんという重い枷なのだろう。ジュリアンと彼が別の時に生まれ出会っていれば彼らは好きな本を読みピアノを弾き、頭のいい友人同士らしい生意気な論議を戦わせただろう。彼らが普通の少年たちでごく子供らしい学校生活を送っている中に突如として入り込む戦争という得体のしれない恐ろしいものが美しい時間も思い出もすべてを破壊してしまった。

それまでは普通の人間だった学校の料理人の若者がゲシュタポに密告してしまうのも神父の厳格さが引き起こした結果だというのも皮肉な運命である。戦争は何もかもを狂わせてしまうのだ。悲しい。

監督:ルイ・マル 出演:ガスパール・マネッス ラファエル・フェジト
1988年フランス/ドイツ



ラベル:ルイ・マル 戦争
posted by フェイユイ at 23:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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