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2009年07月12日

『ミリオンダラー・ベイビー』クリント・イーストウッド

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Million Dollar Baby

これもずっと気になっていたのだが、イーストウッド監督だということと女性ボクサーというのが何やらいかにも感動的な気がして却って観るのに踏み切れないままになっていた。
観てみればやはり非常に判り易く心に伝わってくる作品であった。と同時にやはりどうしてもイーストウッド監督作品と言うのは私には心から愛せない何かがあるのだ。
だがだからと言って多くの人が反感を持ったこの物語の尊厳死に対してはこの作品としては自分は反対できないのだった。

と言うのは変な言い方だろうが、障害を持つことになったマギーが生きる希望をなくし死を選ぶ、ということ、彼女をさせ続けたトレーナー・フランキーがその願いを聞き届けることにどうしても違和感を持ってしまう人たちもいるのだろう。それは様々なケースがあり様々の当事者がいるわけで「生きよう」と考える場合もあり、彼らの場合はマギーが死を選び、フランキーが叶えてあげたのだ、とだけ私は受け止める。そうした状況で選ぶ道は幾つかあるだろうが彼らはそうだった、のだ。
だから彼女はこういう風だったからこうなった、というような説明はいらないだろう。全く同じような人生を送った人でも違う道、例えばフランキーが言っていたように車椅子で学校に通い始める、という人生を切り開いていく人もいるだろう。彼女はこうしたのだ。彼女の置かれた状況を思えば彼女がそのどちらの道を歩むのも頷ける。彼女がフランキーに殺人を依頼することに反発することもあるだろうが、二人のこれまでの繋がりを見てきてマギーはフランキーの「処置をしてくれる能力」に絶対の信頼を覚えてきたわけで彼女が最後の処置を頼みたくなった気持ちも判るのだ。それまで一人で生きてきた彼女が動けないことが死を意味することだとフランキーには理解できた。2度も舌を噛んで自殺しようとし薬で朦朧とした彼女はもうマギーではない、他人がどう思おうとすべて自分が背負っていこうと思ったフランキーに私は反対しない。
というのはこの作品ではそう思ってしまうように様々に巧妙な設定が敷かれているからだ。この作品に限ってはフランキーとマギーの気持ちは共感できるし、そう思えるように作られている。
それでも尚且つ「死を選ぶこと」に反感を持ってしまう人が多くいる、ということはいいことなのだろう。
誰もかれもが簡単に死を選んでいては困ったことになる。

そして私はやはりクリント・イーストウッド映画が「こういう大きな問題提議をすることに意義を見いだされている」ことがどういうものか好きになれないのだ。
私としてはこの作品が彼女が31歳で下手くそなりにボクシングを始めていくところ辺りまでが特に好きだったし、ちょっと勝ち続けたくらいで何かもっと違う事件が、死んでしまうようなんじゃない小さな事件が起きて世界選手権は狙えなくなったが、それからも彼女はボクシングを楽しみながら暮らした、っていうような地味な話でよかったのに、こういう大きな話になってやはり映画賞なんかを取ってしまわないといけないのかな、とかも思ってはしまうのだ。
アイリッシュを熱く応援させた女子ボクサーがいたね、くらいの物語では満足できないんだな。
とても感動はしたのだが反面強烈な問題提議というのがどうしても必要な監督なのだとも思う。それがまったくいけないわけでもないんだが。

どうもあやふやな感想になってしまったが、つまりこの映画が表現している行為には反対しないが、どうしてもこういう問題を扱ってしまうイーストウッド作品をみると退いてしまう自分がいる。いるだろうけど不快過ぎる敵やいかにも悪い家族の描写も少々興ざめでもある。
それにしてもヒラリー・スワンクのボクサーはかっこよかったし(マット・デイモンにそっくりな笑顔も魅力的だ)モーガン・フリーマンは文句なく素敵な存在でどうしたってこの二人には見惚れてしまうのだけどね。 
設定もうますぎるくらい決まってる。何か過去に酷く重い罪の意識を負った老トレイナーは娘がいるが疎縁であり、友人のような掃除人のスクラップ(なんて名前だ)も過去に大きなタイトルをつかみ損ねたボクサーであり、二人の前に現れるマギーはすでに31歳(すぐに32歳になってしまう)のウェイトレスで才能があるようにも思えない。家族には見捨てられたような存在という3人とも家族や他人との縁が薄い人間たちなのだ。だからこそマギーとフランキーが死を選ぶことにもためらいがないのだ。
物語がスクラップの語りで進行していくというのも実にうまい。文句なしの映画なのではある。だからといってイコール好きとはいかないのが難しい。

監督:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド ヒラリー・スワンク モーガン・フリーマン アンソニー・マッキー ジェイ・バルチェル
2004年アメリカ


ラベル:愛情 人生
posted by フェイユイ at 23:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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