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2009年07月13日

『痴人の愛』増村保造

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増村保造は日本でよりフランスなどで人気がある、というようなことを聞いた気がするが、本作なんかまさにそういう感じである。1967年公開時にこの映画はどういう風に受け取られたのか想像がつかないし今観られても変態映画みたいにしか評価されないような気もするんだけどなんだか最後なんてしょうもない二人にじんわりきてしまったのだ。

谷崎潤一郎が原作ということで私は読んではいないがさもありなんという不思議な愛の情景である。
めちゃめちゃ冴えない中年男(といっても30代半ばといってたようだがとにかくカッコ悪い)譲治は酒もたばこもギャンブルもやらず真面目なだけの男だと勤めている工場では評判で上司は心配するほどだが実はまだ10代の女性ナオミを自宅に囲っているのであった。

という設定だけでも今ではちと問題であるし無論彼はすぐに手を出しはしなくともナオミの体を洗ったり裸の写真を撮ったりするのを楽しみにして代わりに彼女が求める派手な色の服を買ってあげたりしてそれを生きがいにしている男なのだ。この辺よくある女性監禁エロ映画みたいなもんで特に女性はとんでもなく気持ち悪い男だと観るのを拒否してしまいそうだが、とにかく増村監督は停止するのができないほどぽんぽんテンポよく進んでしまうのであれよと思う間にどんどん話は展開していく。
男は身勝手にも英語やピアノを仕込んで体を磨き上げ理想の女に仕上げてから結婚しよう、それまでは手も出すまい、などと考えている。
ところがナオミは怠け者で勉強はせず今すぐ結婚したいと譲治に無理やり肉体関係を持たせてしまう。
譲治も満更でもなく結婚を早めてしまった。
さてここらからナオミの本性が現れる。家事など何もせず譲治が要求する勉強もしない。次々と買い物ばかりするので譲治は工場から給料を前借するしかない。
叱りつけるとその場ではしおらしく謝るがすぐにすねたりじらしたりしてついには譲治を馬にしてまたがり部屋をぐるぐる回らせ彼の尻を思い切り叩くのだ。

みっともない中年男と我儘極まりないだらしない女の醜態とも痴態とも言える二人の愛戯(?)なのだが、譲治役の小沢昭一もナオミ役の大楠道代もよくぞここまで激しく演じきれたなと感心して観てしまう。
譲治が怒ってナオミを殴り突き飛ばす場面なんか本当にマジで痛そうで大楠さんを心配してしまった。まあ、その分大楠さんも小沢さんに馬乗りになってわき腹思い切り蹴飛ばしたり尻をたたいたり手綱を口にはめてぐいぐい引っ張って仕返ししてるとは思うが(これもかなり痛いと思うよ)体当たりというのはこれくらいしなきゃいかんだろう。

とにかく他に何のとりえも楽しみもないみすぼらしく堅物の譲治は次第に獣のように淫乱に奔放になっていくナオミに苛立ち怒りながらもずぶずぶとのめり込んでいく。
だが彼女が学生の男二人を自宅に泊め、一つのベッドでナオミと譲治を含む3人の男が寝ることになり、工場でナオミが学生を次々と食い物にしているという噂を聞くと嫉妬が燃え上がりしかもそのうちの一人と海岸で抱き合っているのを見てついに彼女を追い出してしまう。

噂でナオミは次々と男を代え歩いているらしい。譲治が死んだようになっているとナオミ帰ってきて服を取りに来たと言う。そして何度も来ては彼をじらすのだ。
譲治は気が狂いそうになり、再び来たナオミにしがみつく。そしてナオミが求めるままに馬になって彼女を乗せて歩きだす。「言うことを聞くか、金を出すか」ナオミが言いだす勝手な要求を一つ一つ承諾し譲治はやっと幸せになった。

裏切り続けたナオミが帰ってきて馬乗りになったところで「これでやっと夫婦になれた」と泣く譲治さん。あまりに哀れな奴隷状態で笑っていいのか蔑んだがいいのか。こういうのを不快に思う人もいるだろうがこれは無論増村監督の映像なので思えるのだがナオミも言うように他の人では満たされない彼らの愛の形であり、本当によかったなあと心から思うのである。譲治さんは元々お金持ちで遺産も入ったのだからナオミの我儘もかなりきいてあげられるだろうし、こんなに円満に解決できた映画にこちらもほっと胸を撫で下ろして安心した。

これも昨日の映画同様、設定だけ聞けば疑問を持ってしまうのだろうが二人の愛の形がこういうものであるならとやかく言う必要はない。
重くなったナオミの体重を背中にずっしり感じながら譲治さんは幸せをナオミは我儘を聞いてくれる奴隷を取り戻したのだ。

ナオミが最初から絶世の美女なんかじゃなく無口で陰気な女だったのを譲治が懸命にいい女にしていくというのが面白い。と言っても『マイフェアレディ』みたいなつまんない権力男の話にはならずどんなに頑張ってもナオミは頭はいつまでも空っぽでぐうたらで体だけが物凄い色っぽくなって譲治がその体に執着し溺れてしまう、というのがよいのだ。
譲治がいくら男性権威を振り回しても体は変わっても心はナオミなのである。
『マイフェアレディ』で帰って来た女にスリッパを求める男とこの物語で馬になってしまう男とどちらがいいかと聞かれればこちらがいいに決まってる。とはいえ譲治ほど幸せな男が他にいるだろうか。

譲治の人格を表現するのに臨終の床の母親に「母さんが悪い」と甘えるのがあっていかに彼が欠落した人格なのかがよく判る描写だった。谷崎の原作そのままなのだろうか、際立っている。

ところでチョイと前に『工場萌え』というのが流行ったが私も少しその気があって工場の景観に惹かれる。本作で譲治が勤める工場が何故か何度となくその素晴らしい機械美を見せてくれて一々見惚れてしまうのだがこれも意味があるのだろうか。つまらない工場と色気溢れるナオミとどちらがいいか、ということなのかな。そうなると私も含め『工場』に欲情する輩はさらに変態かもしれないが。

監督:増村保造 出演:楠道代 小沢昭一 田村正和
1967年日本

若かかりし田村正和氏がナオミにぞっこんになる学生の一人として登場。やはり美男子であった。


posted by フェイユイ at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 増村保造 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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