映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年08月23日

『リプリーズ・ゲーム』リリアーナ・カヴァーニ

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RIPLEY'S GAME/IL GIOCO DI RIPLEY

ベン・ウィショーがパトリシア・ハイスミスが好きだというのでこの映画を思い出そうとしたのだが、困ったことに記憶がない、んでもう一度観ることにした。
ほんの少し前に観たものなのに、忘れてるくらいなので実をいうとあまりよく理解しておらずつまりそれほど面白さが判ってなかったんだろう。以前の記事でどう書いたのか覚えてもないし見返してはいないのだが違いない。

で、今回観なおして、これは面白い!と感嘆しましたねえ。

ハイスミスの小説もそうだけどなかなかすんなり飲み込めない独特の味わいがあるんだけど、これもそう。
以前観た時はマルコビッチが演じたトム・リプリーがいまいちよく判らなかった。マルコビッチは大好きなんだけど、何せトム・リプリーというとアラン・ドロンかマット・デイモンが演じた彼のイメージしかないのに全く違う大人の男なのである。
マットが演じたおどおどとしたリプリーの姿はなく何が起きても誰が来ても微塵も動じないクールに徹した男。
すでに結婚し郊外の豪奢な邸宅に住んでいる。妻は美しいハープシコード奏者で彼自身も巧みに弾きこなす。料理も上手く妻を愛し尽くしている。メイドのおばさまにも好かれ何をやってもそつがない。
しかし彼には隠された一面があり、画商にスケッチを高額で売り込み反抗されれば顔色一つ変えず殺害してしまう。
ヨーロッパに住むアメリカ人で優雅な紳士でありながら冷酷な殺人者であり犯罪を犯すことに何のためらいもない。
そんなトム・リプリーのあるエピソードをリリアナ・カヴァーニ監督とマルコビッチが静かな冷たい空気の中でひっそりと行われる犯罪を描きだした、という作品なのである。
そしてこれに一人の純朴な一般人が巻き込まれてしまうのだ。
それというのもドイツの美しい邸宅に移り住んだトムがアメリカ人なのを低俗だと馬鹿にしたからなのだが。
この作品の中でトムが何故ここまでジョナサンを追い詰めるのか明言されてはいないのだが、私としてはトムが同性愛者であることが作用しているのでは、と感じてしまう。
というのはトムは会った時からジョナサンが気に入ってしまって、だからこそパーティにも顔を出したのに「低俗だ」と陰口を言われているのを聞いてしまった。プライドの高いトムとしては二重に屈辱だったのだ。好きだと思ったからこそ。なので何の汚点もない純朴なジョナサンを自分と同じ犯罪者へと突き落とし、おろおろと慌てふためく姿をみて溜飲を下げたのだろう。ただ好意を持っていたからこそ彼があまりに打ちのめされてしまうのを見て助けに入る。
ジョナサン自身は多分トムの悪口のこともあまり意識せずに言ってしまっていたのかもしれない(イギリス人の性格だ、という説明がある)
トムのせいでジョナサンは体験しなくてもいい残酷な経験をしていくのだが自分を助けに来てくれたトムに対し今度は自ら危険を承知で助けにいく。そして敵に撃たれそうになるトムをかばって死んでしまうのだ。
この行動はジョナサンがトムに奇妙な友情というかもう離れられないつながりを持ってしまったことも意味しているし、余命もしれない自分の病気と妻に犯罪を見られたことでもう生きていく気持ちが薄れてしまったことなどが絡み合っているのではないだろうか。
リプリーもまた自分をかばって逝ってしまった奇妙な関係の友人を記憶に留めることになるのだ。

大げさに目立つ犯行ではなくまるでひっそりと日常の中で誰も知らず誰からも予測されないような人間の恐ろしい犯罪と凶行。
そんな血塗られた犯行を綱渡りのように鋭い緊張感と静けさの中で行ったトムは直後にコンサートを開催する妻へ牡丹の花を5ケース贈ることを忘れない。
コンサートホールで妻が奏でるハープシコードの美しい調べを聞きながらトムは束の間の友人の姿を思い出すのだった。

2回目観てやっとこの味が判ったのだった。
それにしても
マルコビッチのトム・リプリーのかっこよさといったら。
外見は確かに原作の美貌のトムとは違うのだろうが、そんなことは全く関係ない。
妻に対する扱いが昔風の保護者的な男性のそれなのだが、それもまた大人びて素敵なのである。
リリアナ・カヴァーニとマルコビッチでリプリーシリーズもっとやって欲しいのだが、さすがにもう無理かな。

マルコビッチって本当に不思議な魅力の人であの目が物凄く怖い。ほんとに変な人に思える。
初めて認識した時(『太陽の帝国』)から髪が薄いのだが、彼の場合それがまた不気味に魅力になってしまうのだ。

監督:リリアーナ・カヴァーニ 出演:ジョン・マルコビッチ ダグレイ スコット レイ・ウィンストン レナ・ヘディ キアラ・カゼッリ
2002年 / アメリカ/イギリス/イタリア


ラベル:犯罪
posted by フェイユイ at 23:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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