映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年09月08日

『イン・ディス・ワールド』マイケル・ウィンターボトム

inthisworld.jpg
IN THIS WORLD

ドキュメンタリーを思わせるような映像なので本当にこの少年の亡命の旅を観ているような緊迫感を感じさせる。

パキスタンの難民キャンプで生まれ育った少年ジャマールは従兄がロンドンに亡命するという話を聞き言葉の通じない彼の安否を気遣う。
従兄よりはるかに年若のジャマール(13歳くらいだろうか)だが彼ほど心強い相棒もいないだろう。英語も話せるし、大人との会話にまったく物おじすることがない。人を見る目があって取引したほうがいいと思えば従兄のウォークマンを贈り物だと言って差し出す。そのことで文句を言いだす大人の従兄のほうはてんで状況を飲み込めていない。緊張している従兄の気持ちをほぐそうとして冗談を思いついては笑わせる。
だが、こんなしたたかな精神の持ち主でも時には無口になってみたり人を信じていいか動揺してしまう、こんな過酷なロードムービーはないだろう。

恐ろしい亡命のニュースを聞くことはある。密閉されたコンテナに詰め込まれた亡命者たちが死んでいた、荒れ狂う海を小さな船でさまよい続ける、密入国を取り締まる兵士たちから発砲される中を逃げ惑う、平和な国(少なくとも平和な国だろう)に生まれ住むことができる人間には想像するだけでぞっとするしかない状況だ。
実際に難民キャンプにいたという少年がパキスタンからロンドンまでの道のりを行くジャマールを演じている。が、演じているとは思えないほどの生々しさがある。
亡命の仲介人からの指示に従って陸路を旅するジャマールと従兄。先々に紹介者がいるとは言え、素性も知れない人間を頼っての旅は常に恐ろしい緊張感が強いられる。そして雪深い山を軽装で越え、見知らぬ家族と共に突然コンテナに閉じ込められて海を渡る。
数十時間の密閉状態で従兄は命を落とす。道連れとなった家族は赤ん坊だけが生き延び父母は死んでしまったようだ。あの赤ん坊はどうなってしまうのだろう。
一人ぼっちになってしまったジャマールだがようやく辿り着いたヨーロッパ・イタリアからなんとか小銭を稼ぎながら時にはかっぱらいをしてさらにフランスそしてイギリスへと向かうのだ。

フィクションであるとはいえ、この作品は監督たちが実際に足を運んで亡命の旅を体験して、そこから生み出した物語だという。
だからこそこんな現実味があるのだろうが、なんという危険な映画製作だろうか。
これを観てスリルを楽しんでしまった批評家としては賛辞を送らないわけにはいかないだろう。ベルリン金熊賞は当然かもしれない。

親の保護下にいるべきの幼い少年が自分の知恵と勇気で生き延びていくこの物語は作り物ではないような面白さでもある。
とはいえ、難民キャンプで毎日を過ごすことだけの人々、子供たちを見ると、当たり前のことしか言えないが何故こんな状況にこの人たちを追いやってしまう戦争や政治があるのかとげっそりしてしまう。
莫大な金額の兵器が使用され、衣食住に配給される金額はごくわずかでしかない。この馬鹿馬鹿しい問題は消えてなくなることはないのだろうか。
ジャマールの頭の良さとたくましさに感動しても願わくばその才能は平常時での勉学やスポーツに使われて欲しい。
至極平均的なことしか言えないが、それが当たり前だと思う。

監督:マイケル・ウィンターボトム 出演:ジャマール・ウディン・トラビ エナヤトゥーラ・ジュマディン
2002年イギリス

それにしても彼らの旅路の風景はイギリス人である製作者たちにとってたまらなく異国的情緒あふれるものだろうが、それは私にとっても同じだ。
家と大地が全く同じ色合いの風景、どこまでも続く見果てぬ荒涼とした大地、パキスタンやイランやトルコのエキゾチックな街並みなど思わず見入ってしまう。


posted by フェイユイ at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。