映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年09月10日

『ひかりのまち』マイケル・ウィンターボトム

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Wonderland

いつもDVDで映画を観ていてアクションだろうが大自然が舞台だろうがさほど映画館で観ねばとまでは思わないのだが、この映画は映画館で観てみたいと思ってしまったなあ。

きっと暗い部屋の中に座って画面も暗くて一つの世界のようでたくさんの光が街の灯や花火の光などに包まれてしまうようなそんな気持ちになれるんじゃないだろうか。

誰一人としてぱっとすることのない一家族の周辺での出来事が映し出されていく。誰もが経験するようなことばかり、イライラしたり悲しくて涙がこみ上げてきたりむかむかしたり怒りが抑えきれないほどかっとなったり、そんな情景である。
夫婦は皆(ダレンはまだ夫婦ではない、んだろう)すれ違いばかり。
老夫婦はだれ切ってしまってる。特に老父は動いてるだけの屍のようだ。その妻はそんな夫に嫌気がさし愚痴ばかり。さらに愚痴を聞いた夫は妻がいつも誰でも嫌っていると罵る。それを聞いた妻の顔は「何故そんなことが言えるの。誰が私をそういう風にしてしまったの」とでも言ってるかのようだ。
とんでもない駄目夫と離婚している長女は可愛い息子がいてどうやら週末に彼の父親が迎えにくるのだが何もかも気に入らない。そこで頑張ればいいようなものだが、駄目男はしっかり駄目男で息子と過ごすはずの週末の夜に飲みにでかけてしまう。金もなく息子を喜ばせる方法もない。息子が応援しているサッカーの試合に連れていくだけ。
次女は臨月のおなかを抱えているのに、その夫は妻に黙って仕事を辞めそれが言い出せずに悶々としている。妻が初産で苦しんでいる時にバイクで事故って同じ病院で治療中という最低に情けない状態になってしまう。
三女は独身でとにかく恋人募集中。次々と出会い系サイトみたいなのできっかけを作ろうとするがうまくいかない。
どの話もしょぼくて寂しいものばかりなんだけど、最後にドーンと花火があがるわけでもないんだけど、なんだか少しずついいこともあるような気もして人生なんてこんなもんだけどこのくらいの人生なら小さな幸せも感じられるかもしれない、というような。
赤ちゃんが生まれるのはこれはもう最高に幸せなことだろう。小さな可愛いアリス。ワンダーランドに飛び出してきたアリス。これから彼女はこの不思議の世界で様々な体験をしていくんだ。
(ここで邦題は詰まってしまわないか。原題は『Wonderland』だからこそ“アリス”という名前からこの感想が出てくるんだけど『ひかりのまち』ではアリスに結びつかないし。光が印象的だから気持ちは判るが。しかもひらがなだけっていうのも)

ボケてしまったような父親は(多分愛していたんだろうな)息子のダレンから留守録が入ってて少し元気が出たようだ。娘も訪ねてきてくれたのでますます。
三女は黒人青年とちょっといい仲に。引きこもりだった彼も少し外出する気になったかな。

世界は本当にワンダーランドで一体何が起きるかわからない。変てこで奇妙な人間たちで溢れている。
人生は辛いことや悲しいことばかり。愛し合うはずの家族がよけいに冷たかったり邪魔だったり、でもそんな中に幸せもきっとある。
そんな希望を感じさせてくれる映画だった。

監督:マイケル・ウィンターボトム 出演:ジーナ・マッキー シャーリー・ヘンダーソン モリー・パーカー イアン・ハート ジョン・シム スチュアート・タウンゼント シャーリー・ヘンダーソン
1999年 / イギリス


ラベル:家族
posted by フェイユイ at 22:54| Comment(2) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『フロスト×ニクソン』ロン・ハワード

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FROST/NIXON

一体どんな映画なんだろうとわくわくしながら観始めた。ニクソンはつい先日オリバー・ストーン監督作品を観ていたのでかなり役にたった。知っている人ならなんてこたないが私はそれまでニクソンのことなど「ウォーターゲート事件に関係した大統領」くらいの知識しかなかったもんで。とにかく悪名高き強面の大統領であるというイメージ。
キッシンジャーとお祈りしたエピソードなどはあの映画で登場するのでふむふむという感じ。未見の方なら是非これでの予習をお勧めする。
片やフロスト。こちらは全く聞いたこともないお方。その二人の対決とは何ぞや。興味津津。

観始めてすぐますますとんでもないことになったと感じる。
フロストというTV番組司会者が辞任したニクソン元大統領との対談番組を思いつく、というのは判るが、そのフロスト氏、政治関係に強いニュースキャスターだのアンカーだのという肩書ではなく、他愛のない軽い娯楽番組の司会者でしかもイギリス人でありしかも当時オーストラリアでニクソンの退陣を知る、という全く思い違いも甚だしいというべき人物でTV視聴率だけを見込んで60万ドルという破格の出演料をニクソンに提示する。プラス200万ドルの経費を彼は自費と借金で賄うのである。
悪役の印象を拭い去り再び政界に戻りたいと望むニクソン陣営はこの間抜けな(失礼)お調子者の外国人を踏み台にしてやろうという意気込み。笑顔と人柄だけが売り物(且つプレイボーイらしい)のフロスト氏は完全に舐められているのである。
フロストの相棒であるプロデューサージョン・バードは彼の才能を認めながらも企画の大きさに戸惑いがち、計画が進むにつれ、撮影が進むにつれますますぶつかった相手のでかさと自分たちの卑小さに恐れをなしていく。
またフロスト陣営に加担した二人の参謀はニクソンに対し怒りを抱きながらも歯の立つ相手ではないと自覚し始める。
猫の首に鈴をつけに立ち向かったネズミたちが相手が猫ではなく虎だったと間際で知ったかのごとくだ。
大統領なんて出会ったこともないから判らんがニクソンに会う前に「あんな奴と握手なんかするか」と言っていたレストンが会ってしまうとつい握手してしまうようにやはりそういう人物というのは例え悪人だと言っても他人にはない威圧感、独特のオーラというものがあるものなのだろう。
ケヴィン・ベイコン演じるジャックのニクソンを見つめる目が心からの尊敬と憧れを持っている、という演じ方だったのがちょっとおやっと思ってしまったのだ。こういう悪人の政治家を描く時って味方からも反感を持たれているように表現することが多いと思うが本作ではニクソンの周りの人間たちは(すでに失脚しているにもかかわらず)彼を慕っているように描かれている。フランク・ランジェラ演じるニクソン自身もむしろ好感が持てるような風格で単なる観客としてはにやけ笑いのフロスト氏より確かに頭脳も器も優れているように見えてしまうではないか。
ジャックの献身的な態度がより彼の威厳を増すようで固い絆で結ばれたニクソン側とまるきり頼りなくケンカばかりのフロスト側との対決は日を見るより明らかというところ。本当にフロストの逆転はあるのか、と信じられなくなってくる。
そしてこの結末は。
もしかしたらこの最後ってそれまでの緊迫感の答えにしてはあっけない幕切れだと感じられてしまいそうな気もする。確かにフロストが追い込まれ崖っぷちに立たされたところで折れてしまわず作戦を練り直していった根性は褒める値打ちのあるものだが結局ニクソンの負けはニクソン自身が生み出してしまった結果と側近ジャックに語るように「告白しないままでいることは辛い」ことだったのかもしれない。一見頑健に見えたニクソンが最後に疲れ切った表情になってしまうのはフロストの攻撃というよりニクソン自身が自分を崩壊してしまったように見えてしまう。とはいえ誰もやれなかったことに挑戦したフロストはそのこと自体が凄いことだったわけで、作品中語られるように製作された番組のほとんどは顧みられなくても最後のニクソンの表情を捕まえたことこそが彼の功績となるのだろう。
それにしてもこの作品の面白さは大統領だった男にインタビューそれも彼の悪行を暴くというインタビューをすることがどんな恐ろしいことか、というのを想像できるか否かで全く価値が違ってくるだろう。しかもニクソンという何100万という人間を死に導いたそれこそブギーマンのボスみたいな男で彼の背後には怨霊がどれだけ取り付いているやらという存在の人間に対して娯楽番組の司会者であるフロストが立ち向かうことがどんなに無謀なことか。何故彼がニクソンに勝ち得たのかこれを観てもよく判らないが、最後の最後まであきらめてはいけないという真面目な作品でもあった。ブザービーターの面白さというのだろうか。

しかし私は確かに彼らの人生を賭けた戦いにも惹きこまれたが、何といってもぞわっとしたのはケヴィン・ベイコン演じるジャックのニクソンへの熱い視線なのだったりする。彼のニクソンへの献身的な愛。ニクソンの危機を感じた彼があっという間に会談を休止させてしまう。彼の行動が打算的なものではなくニクソンへの心からの思慕だという描き方になんだか打たれてしまうのである。
(ジョン・バードのフロストへの信頼にもちょっと打たれたが)

オリバー・ストーンの『ニクソン』でのアンソニー・ホプキンスはもっと醜悪な姿を演じていたが本作のニクソンはやや好意的に描かれているような気がする。それはやはり時間が経ったということもあるのだろうか。

監督:ロン・ハワード 出演:マイケル・シーン フランク・ランジェラ ケビン・ベーコン トビー・ジョーンズ オリバー・プラット サム・ロックウェル
2008年アメリカ
ラベル:政治 歴史
posted by フェイユイ at 00:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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