
CATCH A FIRE
南アフリカ共和国のアパルトヘイト(人種隔離政策)で過酷な苦しみを負う黒人たち。
家族とサッカーを愛するパトリックは温厚な性格の人物だったが、職場である工場が爆破されたことでテロリストの嫌疑をかけられる。彼は妻までもが拷問をうけたことに怒り、ついにANC(アフリカ民族会議)の一員となってさらなる工場爆破計画を実行する。
無論アパルトヘイトで黒人たちがどんな恐ろしい目にあったかは予想のつくことであったから観るのもためらわれた。やはりというか映像になると予想など消し飛んでしまうほど恐ろしくどうしようもない怒りと焦燥感だけがこみ上げる。
それでもなんとか癒されたのは歴史的にはアパルトヘイトは廃止され、その後黒人たちは白人への復讐をすることもなく「許した」のだ、という言葉があったからだろう。それはあのマンデラ氏の教えによるものだとパトリックは言う。
この物語は実話によるもので実際のパトリックが最後に登場する。過酷拷問と長年の重労役を体験した彼はなんともさっぱりした印象の男性でなんだかほっとさせてくれた。現在の彼が再婚後、80人の孤児と共に暮らしているという説明にも驚かされてしまったが。
ティム・ロビンスはここでパトリックたち黒人を徹底的に痛めつける怪物と呼ばれるテロ対策捜査官を演じている。自分は家族や仲間を守っているのだ、という使命に徹している姿は自分を正義と信じて疑わないのだろうというやり切れない苛立ちを感じさせる。ここでも彼はギターと歌を披露しているが、何らかの使命感を持った時歌を歌うのだろうか。
とても効果的に思えるし。
とはいえボブ・ロバーツの時とは違い、ここでは正義に凝り固まったシリアスな表情を崩さない。彼が信奉していた政策が崩れた後のぼんやりとした様子は彼の無力感と落胆によるものだと信じたい。
実話に沿った物語なので却ってエピソードがぎくしゃくしているようにも思えるが南アフリカ共和国のアパルトヘイトとそこに生きた黒人と白人の姿を垣間見せてくれる。
パトリックが少年サッカーのコーチというのが2010年南ア共和国で行われるワールドカップを連想させるのだが、そこではかの国のどんな様子が観れることになるのだろうか。期待と不安が入り乱れるのである。
監督:フィリップ・ノイス 出演:ティム・ロビンス デレク・ルーク ボニー・ヘナ ムンセディシ・シャバング テリー・フェト
2006年 / フランス/イギリス/南アフリカ/アメリカ