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2010年02月03日

『張込み』野村芳太郎

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自分は今は福岡在住なのだがもともと佐賀の産である。なのにこの映画、というか松本清張の小説としてもその設定を目にしたことがあるかどうか定かでもなかった。
まずは陰影のくっきりとしたモノクロ映像が美しく、また昔の佐賀の風景はさすがに自分にも記憶のあるものではないので初めて見る町の様子として新鮮に見てしまった。旧佐賀駅の光景などもこんな風だったのだなあ、という具合である。

東京で起きた強盗殺人事件で警視庁では主犯の石井は故郷の山口県か元恋人が今は結婚して住んでいる佐賀市内のどちらかへ逃亡しているはずだと考える。
若い柚木刑事とベテランの下岡刑事は組んで佐賀へと汽車で向かうんだった。
「酷く暑い」と言う言葉が何度も繰り返される。エアコンなどはまだない世界。汽車の中は小さな扇風機があるのみで人々は絶えずハンカチで汗を拭う。
犯人が会いに行くのではないか、と推測される女はこじんまりとした一軒家で前妻の子供のいる銀行家の夫と暮らしている。殺人犯の男の恋人だった女とは思えない地味で平凡な主婦にしか見えない。しかもケチで亭主関白な夫に日々必要な金だけを与えられ、家事と前妻の子の世話だけに日々を忙殺されている。まったく生気のない女なのだ。

家の中の情景は殆どが木材のしつらえで窓を思い切り開け放しているので今と感じがまったく違う。暑くてたまらないはずなのだが、なんだかのびのびとして心地よさげに見えるのは観ている今が冬だからかな。実際はたまらないのかもしれん。
暑くてたまらないから刑事の張り込み中とはいえ、ほぼ裸か下着姿。しょっちゅうお茶を飲んだり氷をかじったりスイカのでっかいのを食べたりしてる。
見張っている女の日常風景もごく当たり前のことしかしてないのだが、今見れば木造の家の様子や洗濯物の干し棹からミシン買い物の風景まで何を見ても感心して観てしまう。何しろ亭主が風呂に入る時は外で炭をくべているのだ。ただでさえ暑いのにご苦労なことだ。なのにガミガミ夫は風呂の水は朝から入れておけ、とか怒鳴っている。何だこいつ。
少々これは上手くいきすぎとは思うがちょうど女の住む家の前にお誂え向きの宿屋があって二人の刑事はここから女を張りこむのだ。
しかし女の毎日は計ったように同じことの繰り返しで一週間二人は見ているだけの時間を過ごす。
恐ろしく単調で退屈なはずなのにこの1時間強のこの部分も飽きないで観てしまうのは脚本のうまさと映像の美しさのせいだろうか。田舎町を映すのにちょっと洒落た風のジャズもなかなか合っている。

タイムリミットの一週間が過ぎ、ベテラン刑事が佐賀警察に報告の為外出している間に女の家に奇妙な傘売りの男が訪ね、その後女が外出をした。はっとした若い柚木刑事は単独で女の跡を追う。
女はバスで多久へと向かったらしい。
男と会うのだ。
まるで死んでいるかのように感情のない女がこの外出時に日傘をくるくる回す。それだけで何の台詞もないのだが初めて女の気持ちが動いたのが判るのだ。この女性は今幸せな気持ちになっている。
柚木刑事は殺人犯が女と出会った際の行動に緊張する。が、女は昔の恋人に笑いかけ拗ねてみたり甘えたりとまるで今までの彼女と違うのだ。
柚木刑事はその姿を見て動揺する。だが彼の仕事は女の生きがいになるはずだったその男を逮捕することだった。

柚木刑事は家庭の事情があって彼との結婚を迷っている恋人に電報を打つ。どんな事情があっても愛する人と結ばれなければあの女のように死んだ日々を送ることになるのだ、という決意を持って。

絡み合った会話は殆どないのだがそれぞれの人生を簡潔に描いていく手法がなんとも職人的にうまい。
町の情景も懐かしい、というより見慣れないほどの昔のもので舗装されてない道路やバスや車の形も家並みもまるで知らない違う世界である。人々の心情もまた。昔の人はやはり真面目なのである。
あの奥さんはあの後、どうしたんだろう。柚木刑事が想像したように今迄通りの死んだ生活に戻ったんだろうか。
違う、と思いたいのは今の考えなのかなあ。

監督:野村芳太郎  出演:大木実 宮口精二 高峰秀子 田村高広 菅井きん 浦辺粂子
1958年日本


posted by フェイユイ at 23:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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