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2010年03月08日

『この道は母へとつづく』アンドレイ・クラフチューク

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ITALIANETZ

この映画には非常に不満な部分と物凄く惹かれる部分があって困ってしまった。

不満な部分と言うのは最初からちらちらと感じはするのだが、次第に強くなり最後が決め手となってしまうという最悪な状態かもしれない。作品と言うのはどうしても始まりより最後がどうなるかどう感じるかで印象づけられてしまうものだろう。しかしそれがあっても自分には惹かれるものがある。

この作品は6歳の孤児ワーニャが皆の羨望を受ける「優しそうなイタリア人夫婦の養子」として選ばれたにもかかわらず突然「本当のママに会えるかもしれない」と思い立ち何の保証もないままにママの消息が判るかもしれない前にいた孤児院を訊ねる、という行動に出るのである。
会ったこともないママへのワーニャくんの一途な思いが切なく涙を誘うのがこの作品でしかも「実話である」という保証書つきなので「こんな上手くいくはずがない」という否定は打ち消されてしまうことになる。
だがロシアや世界各地の貧しく身寄りのない子供達を襲う(この作品中でも話題に出る)臓器の為の人身売買そして(この作品中では出なかった)性的な嗜好による人身売買などの横行を考えるとこの物語の奇跡的な結果を「あーよかった」で済ませるだけでいいのか。ワーニャの代わりにイタリアへ行った男の子、その前に別の養父母に行った子供は幸せになれたのか、そしてワーニャも手紙では嬉しそうだが、その後その幸せが続いたのかどうかは想像するしかない。
しかも映像では姿を見せないワーニャのママなる人物がとても優しげな声だったのがわざとらしく思えてしまい、ではそんな優しくて看護師として真面目に働いている「ママ」が何故ワーニャを孤児院に捨ててしまったのか、探そうともしてなかったのか、単純によかったね、とは言えない気持ちになってしまう。もしかしたらその後また母親に売られる可能性だって無きにしも非ず、ではないか。

ではどこに惹かれるのか、と言えば物語の前半部分である。この作品はワーニャくんの「母をたずねて」が題材なのになかなか出発しないので結構じれったく思う人もいるようだ。
だが自分はそこの部分が好きなのである。
小さな古びた孤児院、子供を売っては酒びたりになる院長と時々やって来るブローカーのマダム、養子に行くことが決まったワーニャを「イタリア人」と呼んでからかう子供達。そんな子供達は本当はワーニャが羨ましくて仕方ないのだが、悲しい気持ちをこらえてワーニャをからかっているのだ。
こんなことを言うと「浅はかな」と誹りを受けそうだが昔から自分はどこかで孤児に憧れている。
この作品を観てると監督も同じ気持ちを持っているのではないか、と思うほど子供達が生き生きと可愛らしく描かれている。
特に大きくなった子供達の生活の様子が何とも魅力的でどこか拗ねている彼らがとても素敵なのだ。
子供達にかっこいいと言われてるバイクに乗った少年たち、孤児たちの面倒をみてる少女、そしてどうやら売春をして彼らの資金源になっている少女、無論彼らに明るい未来が見えるわけではないが、頼るものもなく身を寄せ合って生きているような彼らが小さな部屋に集まって何か食べたり話したりしている様子がここだけ院長も大目に見ているのか、自由気ままな雰囲気で見惚れてしまうのだ。
特にバイクの少年と売春の少女はできるものならこっちの物語を観てみたい気になってしまった。
売春少女はイールカと言う名でママ探しに一所懸命なワーニャの手助けをする。ワーニャが書類を読めるよう字を教えたり貯めた金を盗んで(と言っても殆ど彼女の売春の金だろうけど)ワーニャを孤児院から連れ出してしまうのがかっこよくてどきどきしてしまう。

この映画が「実話による感動もの」みたいなのではなくてそうした孤児たちの友情物語であったらもっと好きになっていたかもしれない。せめてママがみつからないか、もっと悪い人だと判ったら。
それにしても本当のママに会いたい、という気持からではなく「臓器売買や性的玩具として養子になる」ことに恐怖を抱いての逃走劇だったら、本作の持つ童話的な味わいはなくなってしまうのだろうな。

アンドレイ・クラフチューク監督が後に作った『提督の戦艦』を先に観たが、本作の方が断然よくできている。あれも実在の人物の映画化だが規模が大きいので難しかったのか。こうしたこじんまりした物語の方が合っているのかもしれないし、こちらの方でもっと充実していってくれればいいと思ってしまうのだが。

ぁ、肝心のワーニャくんについて書いてない。このいじらしさにはやはり魅せられる。何だか犬が何の疑いも持たずひたすら主人の居場所を探して帰ってきた、みたいな切ない感じ。絶対泣ける。

監督:アンドレイ・クラフチューク 出演:コーリャ・スピリドノフ マリヤ・クズネツォーワ ダーリヤ・レスニコーワ ユーリイ・イツコーフ ニコライ・レウトフ
2005年ロシア


ラベル:愛情 家族
posted by フェイユイ at 21:52| Comment(2) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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