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2010年04月14日

『戦場のピアニスト』ロマン・ポランスキー

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THE PIANIST

このブログをずっと読んで下さってる方なら判ると思うのだけど、自分はこのポランスキー監督を食べず嫌いというのか昔観ててよく判らずそのままの価値観でいたのだが、ここ最近ずっと作品を観なおしてきてその映画作りの巧さに観る度ごとに驚嘆し続けているという状態なんである。
この映画も以前ちらりと観て残酷な描写だけを観て逃げてしまったクチなのだがそれはやはり間違いだったと今回気付かされた。
というのか現在もまた勘違いしているのかもしれないが、ポランスキー監督作品というのはいつもサスペンスとユーモアが交錯している。恐怖と笑いが作品の味わいなのである。
本作は監督自身がポーランド人でありユダヤ人の血を持つということでナチスドイツに対する怒りや嘆きの表現とも受け止められるのだが、それでもやはり作品にはポランスキーの持つサスペンスとユーモアによって彩られている。
何しろ特に昨日観たドイツ人監督作品しかもナチスが題材だったものがあまりに稚拙だったので今日のポランスキーの技量がいかに並はずれて優れているのかが(いやもう比較したくもないのだが)よく判る。
この一筋縄ではいかない困難な物語の表現をどうしてこんなに巧みに映し出していけるものか。そしてそれらが退屈することもなく淀みなくサスペンスに満ちている。不埒な表現をしてしまうがナチスに追われるユダヤ人の恐怖ほどサスペンスに満ちたものはないのかもしれない。情け容赦のない恐怖のナチス、という誰もが知っているブランドがありさらに映像によって彼らがどれほどユダヤ人を何の人格もないと言わんばかりにあっさりと殺していくかを繰り返し見せつけられる。
単なるピアニストでしかないシュピルマンは家族とも切り離されなんとかツテを頼って逃げ隠れするしかない。いつどこでナチスに捕まるか判らないと言う恐怖。そして餓えと孤独。
彼に用意された隠れ家は街中でナチスの本拠地の目の前というとんでもない場所でそこから彼は様々な戦いの光景を観ることになる。こういう隠れた位置からのカメラ目線という描写が息をひそめているようで実にうまいではないか。靴音やドアを叩く音がする度にはらはらさせる。
サスペンスは満ちているがさすがにユーモアは少ないかもしれない。が、こんな物語でもおかしさを感じさせる箇所がある。特におかしいのはラスト近くシュピルマンが餓えの中でやっとみつけた大きな缶詰を何とか開けようとしてナチス将校に見つかってしまう。こんな状況で缶詰と格闘しているのもおかしいし将校の前で暖炉の火かき棒を両手に構えてる髭面の男という絵面が笑える。しかも缶詰は開け切れず中から汁が流れ出す。そこにナチス将校の靴から映す、という定番のカメラアングルもちょいとおかしい。
ところがこのナチス将校は毛色が違っててユダヤ人のシュピルマンにピアノを弾かせる。またこの大変な時にシュピルマンは大事に缶詰を抱えてピアノの前に行く。彼にとっては缶詰が何より大切なのだ。
ところがピアノを弾きだしたた途端彼はピアニストとして素晴らしい演奏を聴かせる。感動した将校はシュピルマンにこっそり食料を運んでやる。シュピルマンは彼に向って言う「あなたになんと感謝したらいいのだろう」そんなこと言ったってそのナチスから迫害されてこうなったんでしょう。とんでもない感謝である。監督の皮肉が込められていると思うのである。
その後、戦争は終わりシュピルマンはナチス将校のコートを着込んでいた為にもう少しでソ連兵に射殺されそうになる。早く脱げよと慌ててしまったではないか。ソ連兵から「何故ナチスのコートを着ているのだ?」と聞かれ「寒かったから」(笑)
戦後彼はピアニストに復帰し友人からナチス将校がソ連兵に捕まって彼の助けを求めていたと聞かされる。名前も知ることができずシュピルマンにはどうしようもない。
この部分、実際のシュピルマンはナチス将校に助けられたと言えず探すことができなかった、ということらしいが、映画の描写は違うものを感じさせる。
彼を助けかっこよかったナチス将校が助けを求める、というのが悲しいし、シュピルマンはあまり将校を助けようと頑張った様子には見えないのだ。
この部分は同じようにナチスによって家族を失ったポランスキー監督の感情も入っているように思えてしまう。

美しいピアノの調べを聞きながら戦争の狂気によってどれほどの人が敵も味方も迫害され惨たらしく殺されていったのか、を考える。
何故あんな恐怖を感じ逃げ惑わねばならなかったのか。
戦争にはどうしようもない狂気の滑稽と恐怖しかない。

監督:ロマン・ポランスキー 出演:エイドリアン・ブロディ トーマス・クレッチマン エミリア・フォックス ミハウ・ジェブロフスキー エド・ストッパード フランク・フィンレイ
2002年 / フランス/ドイツ/ポーランド/イギリス

この映画を観たのはポランスキー監督作品だったのもあるけど実のところはナチス将校のトーマス・クレッチマンを観たかったからなのだった。
シュピルマンのピアノに魅了され彼を助けたナチス将校。もうかっこよすぎて一体何の為に観てんだい。って気にもなるがひたすらもうかっこいい。
実際の彼は他にもユダヤ人を助けた、という方であったらしいがそういう人もソ連の収容所で亡くなったわけだ。なんて悲しいんだろう。戦争なんて本当に虚しい。


ラベル:戦争 歴史
posted by フェイユイ at 23:32| Comment(0) | TrackBack(1) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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