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2010年04月15日

『変身』ワレーリイ・フォーキン

Prevrachenie_Metamorphosis_2002_DVDrip_Xvid-OCBKA.jpgKafka's Metamorphosis - Gregor Samsa.jpg
PREVRASHCHENIYE/METAMORPHOSIS

カフカの『変身』というとあまりにも有名な小説で、読んだことはなくともその題名とおおよその設定内容は聞いたことがあるのではないだろうか。私も読んではいないが、の一人である。
有名でしかもその不条理さは設定を聞いただけでなんだかもう不思議な気持ちになってしまうのだが、だからと言ってそれについて深く考えたりしたことはない。
この映画を観ようとしたのも特に何か思い入れがあったわけではないが、観始めて非常に面白かったのは監督と出演者の優れた技量のおかげだろう。ほぼ原作に忠実であるらしい。確かに不条理不可解な内容だが今観ると「これって単にひきこもり、っていう表現?」とすぐに考えてしまいそうである。

親の抱えた借金を返し可愛い妹を音楽学校に入れてあげたいという強い願いのもとにグレゴールは上手くいかない営業の仕事を懸命に頑張っている。本人はとても真面目で家族を愛している。家族もまたグレゴールを深く愛している。はずだった。
辛い仕事を終え、暖かな家族の家に帰り彼らの為にまた頑張るはずだったグレゴールはある朝、目覚めた時一匹の虫に変身してしまっていたのだ。

映画ではこの描写を俳優エヴゲーニイ・ミローノフの演技のみで表現している。CGや被りモノ、メイキャップはなく本人が自前の手足をばたばた動かし次第に口がきけなくなっていくのである。手足が自由にならない為部屋の鍵も掛けたまま、時折窓から様子をうかがっている。几帳面だった彼はみるみる薄汚くなっていく。食べ物も残飯のようなものしか口にせず彼の部屋もどんどん汚くなってしまうのだ。
彼の動きを観ていると身体障害者を表しているようにも見えるが現在の風潮と重ねて考えれば「引きこもり」を連想してしまう。
彼には酷く強いストレスがある。家族の幸せが彼一人にかかっている。そのことが彼自身もそうと気づかぬまま気持ちの悪い「虫」のような存在に変身させてしまったのかもしれない。
昨日まで彼を愛していたはずの家族の態度は一変する。誰にも見られたくないおぞましい厄介者として扱うのだ。
変な声で泣くしかできず部屋の中をはいずり回るしかない彼は滑稽でしかない。
愛していた妹からは「本当のグレゴールなら家族の為にいなくなるはずよ」と罵られる。
グレゴールは死んでしまう。
両親は残った娘を見ながら「美しく成長した。結婚相手を探さねばならない」と幸せそうに考えている。

グレゴールの存在は一体なんだったのか。いてもいなくてもよかったのか。
滑稽でありながら恐ろしい物語だ。

と書いたら何だか昨日の『戦場のピアニスト』でも書いたな、と思いだした。
で、「カフカ 変身」と見てたらなんとロマン・ポランスキーも舞台でグレゴールを演じているのではないか。なんという偶然。まさかそのつもりで続けて観たのではないよ。まったくの偶然。
『戦場のピアニスト』がグレゴールだった、ということはなかろうが確かにピアニストだった彼がある日からまったくピアノを弾くことができなくなり薄汚い格好になって這いずりまわって逃げる様はそうだと思えなくもない。
そう思えばやはりこの物語はただ一つの暗喩ではなく様々な形を想像連想できる物語なのだろう。
勝手な想像だがポランスキーの中にこのグレゴールの『変身』が常にあり、彼の作品は一人の人間がまったく違うモノになるということの恐ろしさや滑稽さが度々描かれているように思える。

なんだか不思議なつながりでポランスキーまで登場させてしまった。自分にとって思いもしない関連が見つかったこともあって非常に面白く楽しい映画だった。

監督:ワレーリイ・フォーキン 出演:エヴゲーニイ・ミローノフ イーゴリ・クワシャ タチヤナ・ラヴロワ ナターリヤ・シヴェツ
2002年 / ロシア


ラベル:不条理
posted by フェイユイ at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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