一体どれほどの年月とどれほどの芸術家たちがこの為に費やされたのか。
凄まじいゴビ砂漠の荒涼たる景色の中に現れる莫高窟。夥しい数の仏の姿は単なる絵ではなく時には金の冠が盛り上がるように施され時には浮き彫りの仏像としても作られ、絢爛豪華な色彩、時代の移り変わりと共に変化し洗練されていく。
中にはまるでフォービズムを思わせるような力強いタッチで描かれたものもあるのだが実はこれが時間を経た為の顔料の化学変化によるものだというのが却って面白かった。
有名な交差された脚の釈迦像であるとか、なんとも艶めかしい仏の姿も見える。
宗教画というのはその地によって変化していく。キリスト像がいつの間にか白人の顔に変わってしまうように釈迦の顔も極東に行けばその地の人間の顔になる。西の文化に近ければ釈迦像の御顔も彫が深い。
また胡旋舞という華やかな踊りの絵も残されている。
数多くの飛天の姿も時が移るにつれ洗練されていく。
当時の遊女たちが資金を出して作らせたと思われる質素な壁画もあり、人々の様々な思いが込められているようだ。
第16窟という小さな部屋がありそこから多数の経典が発見されたのだが何故そこに大切なものが保管されていたのかという謎がある。そこには高僧の像が安置されお付きの者の絵が描かれているのだ。『敦煌』の著者井上靖氏はすべての謎は彼らだけが知っている、と笑う。
今回の番組は、井上靖氏の「敦煌はシルクロードの始まりであり、中心であり終着である」と言う言葉で締めくくられた。