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2008年06月14日

『ゲルマニウムの夜』大森立嗣

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花村萬月の『ゲルマニウムの夜』を初めて読んだ時から朧の魅力の虜になってしまった。何度も何度も読み返しこれが映像化されることは不可能だろうなあと思い込んでいた。
そのくらい感情を込めてしまった小説というのが映画になった時、失望してしまうことが多いのではないだろうか。だがこれに限ってはまったくそういう気持ちにならなかった。
画面に登場した新井浩文は私にとって朧そのものだった。

再観して気持ちが変わるのだろうか。いや、前以上に映画の中の世界をゆっくりと堪能することができたし、彼の作品を観続けた後再会した新井浩文の朧はやはり朧だった。
北の国の冷たい空気と降り積もる雪はそのまま朧の精神のようだ。人を殺したために修道院へ戻り辛い仕事を担っていく。同性愛者ではないのにただ言いつけどおり黙々と小宮院長のモノをしごく日常を送る朧。聖女であるシスターとアスピラントの少女との肉体的つながりを持ちながら冷め切っている。仲間の気に入らない行動にかっとなり残虐性を見せる。慕っている老神父の心をも傷つけていく朧。
朧の精神は残虐だ。弱いと見ればつけこみ惨たらしい攻撃を行う。同時に強い者の前では従順となる。シスターを孕ませたことは彼の計算でしかない。美しいアスピラントに対しても性交渉を持つがそれが愛情なのかは定かではない。
朧を慕ってきた美しい少年トオルには優しい接し方をする朧である。だがトオルが朧に対して男色行為を求めても朧にはその嗜好を持たない為にトオルの一方的な愛情になってしまう。
朧は22歳の青年だがまだ大人になりきれていない未成熟な存在なのだ。朧はさまざまな人を傷つけていく怖ろしく危うい子供でしかない。心の中でいつも何かを問いかけ足掻き続けている。彼が受信するのは手作りに小さなゲルマニウムラジオだけ。細い線を伝わってやっと彼の耳に入ってくる小さな音だけなのだ。彼はその小さな音を聞くことで何かの答えを聞くことができるのだろうか。

朧は小さな子供のように残酷だ。そして小さな子供のように純粋でもある。そして偽善への激しい憤りを抑えきれない。それらは人間が大人になるために矯正されなくてはならないものなのだが。
神父は言う「朧が一番宗教に近い」
彼の生き方に人は目を背ける。だがまた彼に酷く惹きつけられる。
それが何故なのか、考えなければならない。答えはたやすく見つかるわけではないが彼と同じように足掻き続けなければいけないのだ。

朧が存在する場所は凍てつく場所であり、鶏小屋や豚小屋のような家畜を世話する仕事場である。
そこには生きているものの強烈な臭いが充満し、生産と共に死が常に隣り合わせにある。それは人間も同じでシスターは懐妊し、神父は死を迎える。人と動物は同じように血を流し、ゲロを吐き、交尾する。
朧は人間でありながらまた家畜でもある。彼は修道院の中で家畜の世話をし、家畜のように従順でなければならない。
朧は苦悩するアスピラントの少女と雪の墓場を通りぬけていく。その向こうにはキリストが十字架にかかっている。闇の中をふたりは通り抜けていくことができるのだろうか。そしてどこへたどり着くのだろう。
朧は泥濘の中を歩いていく。腐った残飯の重みでのめりながら。




幾つかの作品で新井浩文を観た後では何故彼がこんな危険な映画の主演をやったのか、と却って驚いてしまう。内容から酷い偏見を持たれてしまいそうだからだ。
ところがインタビューで新井浩文は「朧はじぶんそのものだった」とあっけらかんと答えていたのでそういう心配をするような人じゃないんだと改めて好きになってしまった。
他人に対する意味もない(と思われてしまう)残虐性と露骨な同性愛描写がいくつもの場面で登場する。日本の(普通の)映画でここまで表現されているのはないのではないか。
小宮院長、三浦隊長との絡みはえげつないものだと言われてしまいそうだし、美少年からフェラチオをされ快感を覚える場面もすばらしい、もとい危険な想像をさせられてしまう。

それにしても『青い春』『ゲルマニウムの夜』と観て好きだったのに新井浩文さんの他の作品も同じようにまさか同性愛的な意味の強い作品ばかりだとははっきり思ってもいなかったのだ。全部ではないが主演に近いほどその傾向が強いというのが凄い。『ゆれる』のように端役だと同性愛的な部分がなくなってしまい残念だった。
新井さんご自身がどうなのかという詮索はこの際やめようと思うが彼のように魅力的な役者がこういう映画にたくさん出ていることだけで嬉しくてしょうがない。
随分遠回りしてしまった自分が歯がゆいばかりだが、『松ヶ根乱射事件』を観てほんとによかった。

監督:大森立嗣 出演:新井浩文 広田レオナ 大森南朋  早良めぐみ 木村啓太 佐藤慶 麿赤兒 大楽源太
2005年日本

寺門孝之氏のポスターがすばらしい。
「シアターパーク」


posted by フェイユイ at 22:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 新井浩文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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