
QUARTET
人気音楽家の久石譲氏の初監督映画ということだが、非常に判りやすく素直にまとめられた作品に仕上がっている。
逆に言えば、とことん「よくある」タイプの設定・演出・構成になっているので最初からエンディングが予想できてしまうのだがどれ一つ予想の裏切りがないのでいいと言えばいいのだがまあ、芸術的ではないと言う感じ。
といっても嫌味な感じがないのでさらりと全部見通すことが出来る。多分、久石譲の音楽と同じように口当たりのいい作品ということなのかな。
凄くかっこいい袴田吉彦をリーダーとして綺麗な桜井幸子さん、と凄く弾き方がさまになってる!と思ったら一人本物の音楽家の久木田薫さん。弾いている時の腕がとても綺麗で見惚れてしまう。
そして今回、人がよくて教えるのはうまいけど技術がいまいちのヴィオラ奏者役の大森南朋さん。職を失ったのに奥さんはもうすぐ子供が生まれるという苦しい立場の役。
といっても他の3人もそれぞれ職を失ったり、家が破産したりという逆境に直面しているところなのだ。
こういった4人が仕方なしに日本各地を転々として演奏活動と聞こえがいいが、場所はうるさい子供達が駆け回る体育館みたいなとこや花火会場で牛舎で練習したりホテルとは名ばかりの海の家だったりと散々なツアーをこなしていく。
この展開って凄く面白くてちょっといいなあ、と思うんだが、さすがに映画監督じゃないからなのか久石氏がそういう人なのか、淡々と経過が描かれていくだけで、まあそれはそれでさらっとしていいんだけど映画としての深みがまったくないのは不思議。
やっぱり音楽家の人だからだろうか。
私の好み的にはこの流浪の音楽の旅の部分をもっとぐーっと掘り下げて欲しかったんだけどなあ。あの軽トラで走ってるとこだけが音楽的だった。
昔の話で戦後、食うや食わずで日本各地を演奏してまわった演奏家たちの話を聞いたことがあってすごくいいなあと思ったものだ。勿論彼ら自身はご飯もろくに食べれなくて必死だったんだけどね。その辺がちょっと重なって面白いなと期待したのだがそれほどここが濃密にならなくて全体が同じトーンで進んでいくのだ。
音楽としてはそういう展開ってありえないのにやはり違う表現方法だと簡単になってしまうのかもしれない。
ラストもきっちりスタンダードを持ってきたね。
おひょいさんはじめ他のキャラクターも時折いれる笑いもいかにもという演出だったし。
大森南朋はきちんと自分の役を演じていたし、ここでもまた魅力的だったので申し分なし。
昨日の『アイデン&ティティ』よりは出番多かったな。役的には昨日はベース奏者今日はヴィオラ奏者と主役を引き立てる役どころ。
出産前後の奥さん思いの優しい男性で素敵だった。
どうしても袴田さんと桜井さんのアップが多いのだが自分はナオさんのとこだけ繰り返し観た。
ところでこれはどうでもいいんだけど「シントウキョウ楽団」というのを「新東京楽団」(だよね多分)ではなくずっと「神道教楽団」だと思い込んで観てた。凄い宗教的楽団だと思って、あんまり洋楽的じゃないなとか。ほんとにどうでもいいことだ。
久石譲ファンにとっては気にならないごく当たり前のストーリーの中に彼の音楽がちりばめられていることがより久石音楽を堪能できる、ということでいいのかもしれないのだが。
監督:久石譲 出演:袴田吉彦 桜井幸子 大森南朋 久木田薫 藤村俊二 三浦友和 草村礼子
2000年日本