映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年09月14日

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』ラース・フォン・トリアー

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Dancer in the Dark

ほんとうは嫌なんだけど自分はセルマそのものじゃないか、と思いながら観てしまった。
この映画は多くの人に共感と反感を極端に与えているわけだが、私はこの映画を観て非常に涙を流し心を揺さぶられたものの反感を持つのは当たり前だと思う。というのは作り手側が共感と反感を持つように作っているに違いないからだ。
セルマの思いというのは信念というより頑固としかいいようがない。彼女が息子を救うのも自分自身を救うのも利口な人間だったら様々な方法があるのだろうが、頑ななセルマはすべてを拒絶して自分の考えだけど押し通してしまう。彼女の夢想の中では何度も「受け止めて」と歌っているがその実彼女は自分を誰かの腕の中に放り込むことはしないのだ。
彼女を好きになり彼女を救おうと手を差し伸べた人が何人もいたのに彼女はその腕の中に飛び込むことをしなかった。「受け止めて」と言いながら自分は落ちていかなったのだ。
彼女が盲目、という設定なのは単に肉体的なことだけではなく誰も見ようとしない頑なさにある。彼女は自分で自分の目を閉じ、ただ夢の世界で踊り続ける。
自分のことだけを見ている薄笑いや死んだ人との会話を話さないことが自分にとって不利になるにも拘らず「秘密なの」と事実を話そうとしない頑固さは彼女を愛している仲間たちにとっては苛立たしいことだ。セルマの姿はこうあってはいけないという表現なのではないか。「これは最後の歌ではない。私たちがそうさせない限り最後の歌にはならない」と言っているのだから。セルマを認めてはいけないのだ。

反面私たちはセルマに共感もしてしまう。自分の好きなものに恍惚と酔いしれ「どうしてこんなにも好きなのか」と歌ってしまうセルマ。
息子だけを愛し、愛の表現方法が間違っているとはしても
そのひたむきさにはやはり打たれてしまう。
やはりここでも「盲目的」な愛というものを感じてしまう。彼女の盲目度が少しずつ酷くなっていくというのも彼女の精神状態と同調しているようだ。
自分の信念を頑固に持ち続け、ひたすらに愛する人とものにその情熱を傾けてしまう愚かで不器用なセルマの生き方には共感と涙を抑えることはできない。

セルマの生き方は嫌悪感を感じるほど馬鹿馬鹿しく愚鈍だ。こんな生き方をする必要はなかった。彼女には羨むほどの優しい友達と彼女を愛する男性もいたのに。彼女の浅はかさが彼女の息子から大切な母親という存在すら奪ってしまった。
セルマの生き方はひたむきで切なく我が身と重ねてしまう。彼女がどんなに苦しい時でもミュージカルを愛し続けていることがそしてそのことが彼女の支えであったことがまた悲しく愛おしい。

セルマを愛するがセルマになってはいけないのだ。

馬鹿なセルマ。そう思いながら自分もまたセルマであると思ってしまう。

暗闇の中で踊り続けている。あなたを受け止める人は何人もいたのに。

それはセルマが「もう何もかも見たから目が見えなくなってもかまわない」と歌う場面からもわかる。でも彼女を愛する男性は歌い返す「まだ君は孫の手を見てはいない」セルマは見るべき、できなくとも感じるべきだったのだ。

この映画に反感・嫌悪感を持つのは当然だ。そう思わなければいけないのだから。
セルマは見ようとしなかった。誰の愛も。
親友のキャシーが「ジーンには母親が必要なのよ」という言葉を何故聞かなかったんだろう。その言葉は正しかったのに。
生きていればキャシーやジェフに受け止めてもらっていたらこれがセルマの最後の歌にならなかったのだ。

とにかくセルマが暗闇の中で踊ることしかできない人物にした設定がうまい。次第に盲目になっていく過程にあること、共産国出身の異思想の人間だとアメリカ人から思われること。無論言語も生まれながらのものではないから彼女の心をそのまま表現しにくいはずだ。小柄で美人とは言い難い容姿もミュージカルおたくであることも彼女が影の中にいることを物語る。
そして彼女の夢想の中だけで演じられるミュージカル、という表現方法が素晴らしい。このミュージカル場面にくるといつも泣いてしまった。いつも薄笑いをして自分を閉ざしているセルマがミュージカルシーンでは自分をさらけ出しているからだ。「私はもう見えなくていい」といいながら「私を受け止めて」と歌うセルマ。
彼女がジェフやキャシーに自分をさらけ出していたなら。
皮肉にも彼女が唯一自分を見せたのは邪な心のビルだけだったなんて。もしジェフやキャシーがセルマに自分の弱みを見せていたら同じようにセルマは二人にも秘密を話していたのだろうか。それが彼女の心を開ける鍵だったんだろうか。

監督:ラース・フォン・トリアー 出演:ビョーク カトリーヌ・ドヌーヴ デヴィッド・モース ピーター・ストーメア ジョエル・グレイ ジャン=マルク・バール ジョエル・グレ
2000年デンマーク


posted by フェイユイ at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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