映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年09月16日

『ドッグヴィル』ラース・フォン・トリアー

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DOGVILLE

昨日観た『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でもう判ってはいたが本作も滅茶苦茶に面白い。
まあ多分「むかつくような悲惨な話」なんだろうけど非常にドライな描き方で表現の為の演出だよと言わんばかりの舞台劇の如き作品なのでうまいなあと突き放して観れるのだ。
とにかく狭いうちっぱなしのような平らな場所に白い線を引いただけで家の在りかを示した小さな村が舞台となっていて最小限の小道具しかないというつつましい背景に最初驚きながらあっという間にこの『ドッグヴィル』の中に引き込まれてしまった。

美しい女性グレースが小さな村に逃げ込んでくる。ギャングに追われているとこの女性を青年トムは助ける為、村人達を説得する。
その返礼としてグレースは村人達に懸命な奉仕を続けることになるのだ。善良なはずの村人達のグレースに対する冷酷な仕打ちは人間の醜さを露呈していてグロテスクである。
グレースを演じているニコール・キッドマンが愛らしいほど美しくて村人に気に入られようとする懸命さが痛々しく、最後に彼女がギャングのボスの娘だとわかり無力だと思い込んでいた彼女がとんでもなく大きな力を持っていたのだと知らされる。そして情け深かったグレースはここで世の中のためにこの村を破壊すべきだと考え命じるのだ。

一体この話はナンなのだろう。美しいグレースは何者なのだろう。
グレースと言う名前は神の恵みを思わせる名前である。
ここで思いつくのは「ソドムとゴモラ」の物語だ。アブラハムが神に「堕落した町ソドムに50人の正しいものがいたら許してくださいますか」と問い「では40人なら30人なら」と人数を少なくしていく。神はついに「ソドムに10人の正しい者がいるならその10人のために町を滅ぼさない」と言ったのにソドムにはたった10人の正しい人もいなかった為に火で焼き尽くされる、というものである
神のように情け深いグレースは他のすべての村人が彼女に不正をしてもそれを甘んじ、ただ1人トムの愛を信じていたのに彼の行為は単に本を書くための実験に過ぎなかった。彼女は純粋だと信じていた田舎の人すべてに裏切られてしまったのだ。
トムだけでも彼女を愛し続けたならグレースは村人を許したはずなのに。ただ1人も正しい人はドッグヴィルにいなかった。神を示すグレースは村を焼き滅ぼしたのだ。
ドッグという名前がゴッドの逆さまだというのも暗示している。まあ神がギャングだというのは許される例えなのかわからないが。怖ろしい破壊力を持っているという象徴なのだろう(いいのか?)

もう一つ思い出されるのは『カムイ外伝』で盲目になった抜け忍カムイがある村人に救われ、そこで村人たちの労働力になる、という話である。村人達は役にたつカムイを引っ張り合ってこき使うが美青年のために女達からはちやほやされる、という話があり逃げないように鎖でつながれているところ、最後に悪党達が村にやってきたためにカムイが持ち前の武力を行使して村人たちが慌てる、という筋書きまで似ている。
しかもカムイという名前も「神」を意味しているのだから不思議だ。
無論ここでは村を焼き滅ぼすという演出はなく「普通の人間として生活することが許されないカムイの悲劇」が描かれているわけだから主題はまったく違うのだが。鎖につながれたカムイがなんともエロティックであり何度も読み返した。カムイに出てくる子供達は随分可愛らしかったがカムイという追われる者の弱みにつけこむ村人達のエゴイズムとエロティシズムは奇妙に重なっているのだ。

本作は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』後に製作されたものだが筋は違っても描かれていることが多く似通っていて作者のパラノイアな性質を思わせる。盲目だと思われたくないという人物、強姦したのに誘惑されたと言い張る男、それを信じる妻、「お願いだから僕をぶって」(あっちでは「お願いだから撃って」)と頼む男。頑固な主人公。優しいがちっとも主人公を助けきれない男。といった具合である。
あまりにも似ている設定が多いのでおかしいほどだが話の面白さでそれもすべてどうでもよくなってしまう。

人間の弱さ、醜さを2作品ともに違った手法でこうも面白く描けるものかと見せ付けられた。

グレースが逃げ出すトラックの中で林檎を食べるのも「知る」と言う意味が含まれているようだ。

監督:ラース・フォン・トリアー 出演:ニコール・キッドマン ポール・ベタニー クロエ・セヴィニー ローレン・バコール パトリシア クラークソン
2003年デンマーク


posted by フェイユイ at 01:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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