映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年09月26日

『盲獣』増村保造

盲獣.jpg

先日も江戸川乱歩原作のオムニバス映画『乱歩地獄』を観たわけだがそれより遥かに昔勝るとも劣らない迫力ある作品である。
江戸川乱歩の映画化というのはまず興味はそそるが原作を知る者ほどがっかりしてしまうことがある。この作品はそういう類ではないのは確かだ。
というのは原作『盲獣』のイメージだけを取り上げて複雑な内容を思い切りシンプルにまとめてしまったせいもあるのだろう。
舞台は展示場とアパートと隠れ家の3箇所のみで登場人物も美しい女性と彼女を誘拐する盲人の男とその母親の3人だけである。
ヌードモデルをしている女性アキの魅惑的で奔放なヌードが写真展示場で示される。当時の革新的なヌード写真のイメージがよくわかる。単なるヌードではなく革命的な女性という意味を持つものらしい。
まだ人の出入りもない頃に彼女のヌードを元に彫刻家が作った裸体像を撫で回している男がいた。それが盲目の男・道夫で彼はアキの裸体像の美しさに惹かれ彼女を誘拐する。
と、ここまではよくある(?)異常者の話なのだが盲目の道夫の共犯者が彼の母親なのだ。
彼女は母親の持つ異常な情熱で持って息子の犯罪に手を貸し、逃げ出そうとするアキを取り押さえ息子が特技である彫刻がうまくはかどる様手助けするのだ。
盲目の道夫のアトリエの異常な造形が凄まじい。道夫が目が見えない為に灯りのない部屋で懐中電灯で照らすことで浮かび上がらせより恐怖感や異常性を印象付けている。巨大な女性のオブジェの上でもつれ合うアキと道夫の姿はなんとも言えずグロテスクである。
そしてさらに物語はおかしな方向へ向かっていく。監禁された無力の女性であるアキが道夫を取り込み始め母親にたてつくよう仕向けていくのだ。女性を知らない道夫に心を開いて愛しているかのように見せかける。今まで寄り添って生きてきた盲目の道夫と母親がいがみ合う様子を見つめるアキの目は嘲笑っているかのようで立場が逆転してしまったかのようだ。
息子のために誘拐してきた女性が途端に煩わしくなった母親はそれまでいつも従っていた息子に背いて彼女を逃がそうとする。
アキに夢中になっていた道夫はついに母親を殺害してしまう。
そして二人はさらに異常な性愛へと溺れていってしまうのだ。
盲人を卑下していく描写や監禁された女性が男を愛してしまうという筋書き、さらに互いの体を切り刻んでいくという惨たらしい結末のどれをとっても今では映画になどできそうにもない。教訓めいたこともなくまるで人間は誰でも何かのきっかけで異常な性愛に目覚めてしまうのだ、といわんばかりであり、その先には死しかないということが彼らの愛の行き止まりを確認させるだけである。

道夫を演じた船越英二が鬼気迫るねちねちとした嫌らしさであり、どうにも気色悪いが無論それでいいのである。
アキ役の緑魔子のもしかしたら彼女の方が盲獣なのかもしれない。監禁され触感の喜びを知るようになってから彼女自身も目が見えなくなり触覚だけが研ぎ澄まされていく。そして体が受ける感覚だけが快感になり次第に痛みを求めていくようになるのだ。
閉ざされた部屋のオブジェの上での二人の絡みは映画というより舞台劇のようでもあり暗闇の中で互いの体を弄ぶことだけが快楽となった男女の性愛が描かれる。
「痛み」を扱った映画をこれまでも観てきたがここまで直接ではっきりと表現したものもあまりないだろう。
江戸川乱歩の原作でありながら古き時代のエロティシズムなどという逃げ方ではなくこれもはっきりとした変態性愛としかいえない形で表している。道夫の盲人である悲しさと滑稽さと恐ろしさも隠すことなく暴かれてしまっているのである。

監督:増村保造 出演:緑魔子 船越英二 千石規子
1969年日本


posted by フェイユイ at 22:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 増村保造 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。初めまして。
フェイユイ様の映画の感想楽しく拝読しておるものです。
ジェイ・チュウの検索からここへ辿り着き映画好きの私はフェイユイ様のカテゴリーの問わない豊富な作品の選別に「おおお!!」感嘆致しております。
そして強烈に私の触覚を刺激した「盲獣」のこのレビュー。さっそく参考にさせていただきました。

増村保造氏の存在すら知らなかった自分が損をしていた気分です。
DVD屋さんに一連の増村作品が揃えてあったのですがどれから借りようか迷っております。
もし、増村作品の他のものもご存知ならご指南していただきとうございまする。

「盲獣」は原作とかなり違うのでしょうか?
脚本は私的にかなり面白かったです。
緑魔子産の若かりし姿、印象的。
ファッションも今に通ずる気がしましたしね。
いや〜、楽しめました。

Posted by フキン at 2008年10月07日 14:22
はじめまして、フキンさん!ようこそ!!
ジェイつながりで来てくださったとのことうれしいことです!!

増村保造監督のことをそれほど観てきてないので^^;紹介する自信はないのですが『兵隊やくざ』『陸軍中野学校』はとても面白い作品でした。私ももっと増村監督作品観ていきたいなあ、と改めて思っているところです。作品タイトルを見てるだけでもよさそうなのがいっぱいありますね。確かにもっと観てればよかったと思っています。

『盲獣』は原作を大きく改変していてそこが凄いと思います。

どうぞこれからもよろしくお願いします!!
Posted by フェイユイ at 2008年10月07日 17:39
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。