映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年10月10日

『鬼畜』野村芳太郎

鬼畜.jpg

公開された当時衝撃作として話題になったのだが、今これが同じような衝撃を受けるかというとそうでもなくなってしまったというのがむしろ怖ろしいことなのかもしれない。
この作品の登場人物より鬼畜な映画は氾濫し、現実ではさらに怖ろしい事件が次々と起きているのだから。

久し振りにこの映画を観てみたらいいと思える面とそうでもない面があって一言で秀作とは言いがたい気がしたのは上に書いた猟奇的なことだけではなく作品としての作りにもある。
これは私がミステリー好きだから思うのかもしれないが松本清張原作なだけあってミステリーを描いた部分は非常に面白い。子供達が突然大好きな母親から捨てられ頼りない父親と彼らを憎みきっている父の妻の家へ行くことになる過程、最初から絶えず子供達の死を狙っている父の妻と次第に変化していく父親の心理。子供たちが死へと追い詰められていく恐怖。一番目の赤ん坊殺害時になっていたむき出しのオルゴールの音が再び聞こえた時の夫婦の狼狽という演出などは素晴らしい。
私としては善良な宗吉がもっと狂っていって鬼畜そのものとなっていく過程を描いていたらと思うのだが、ここで描かれているのは嫉妬深い妻に怯え卑怯にも子供を犠牲にする臆病な男である。その姿は鬼畜というより虫けらというのか矮小な惰弱な人格といったほうが合っている。『鬼畜』というのが誰を指すのかということにもなるが『鬼畜』の意味を見てみると性的な行為を含む残酷な行為とあり、それは妻と愛人の人格であるようだ。男と逃げたのではないか、と思われる愛人と夫の赤ん坊を殺した後夫に性を求める妻・梅に『鬼畜』という言葉はあてはまるのかもしれない。
この作品の主人公は宗吉なのだろうが『鬼畜』である二人の女に追い詰められる弱い精神の男を描いたもの、ということなのだろうか。

ただそういう弱い男を描く表現手法が今の感覚で観るとやや大仰で引いてしまう。緒形拳の心理がはっきりとわかる表情をアップで見せるより何を考えているのかわからない表現の方が却って怖ろしいのではないだろうか。
大げさな芥川也寸志の音楽を無くしたほうがあのオルゴールの音がより印象的になるのではないか。
宗吉が利一を落とすところなど音楽が邪魔をしている。
最後に警察が宗吉に怒る場面も説教じみている。

それにしてもやはり今の現実の方がこれよりもっと怖ろしい。この映画では実の母親が子供を捨てその父親の妻が嫉妬で残酷な仕打ちをしていくという物語になっているが、現実には実の母親が子供を殺したりさらに保険金をかけて儲けたりもするわけでこの映画の登場人物などは同情できる余地を含ませている分、鬼畜性を弱めている。宗吉が実の父親ではないかもしれないという台詞なども逃げている気がする。
今これをリメイクするならかなり残忍さを強めなければリアルですらなくなってしまう。

父親と息子の旅の過程は怖ろしい。死への旅である。『砂の器』で不幸な運命でありながら父子で支えあって旅をするあの美しい情景とは違いここでは父が子を殺そうと思いながらの旅なのだ。
殺害の直前にかかる音楽や「こんなのお父ちゃんじゃない」という台詞などがあまりにも説明的すぎてはいないだろうか。

また今の子役のうまさに慣れてしまったために本作のような昔の子役のぎこちなさは演技場面が多いと気になってしまう。
それにしても、宗吉が本当に強面で自分勝手だったらこうもむかむかとする物語にはならなかっただろう。妻と愛人両方に怯え、子供の存在にも怯えている。妻と愛人両方をぶん殴って「うるせえ、女は子供の面倒でも見てろ」というような勝手な男だったらこうはならなかったのにやっと手に入れた「女」というものをそんなに手放したくなかったのか。
岩下志麻と小川真由美は役にぴったりで申し分なかったが、この映画の緒形拳は代表作といわれるにはうまく当てはまってないのではないか。
頑丈そうな大きな男なのにどうしてこんなに女に怯えているのか。
緒形拳は荒っぽい男はとてもいいがこういう惨めに怯える男を演じていても時々ふっと強い男が出てしまっていてなりきっていない気がしたのだがどうなのだろうか。

監督:野村芳太郎  出演: 緒形拳 岩下志麻 小川真由美 岩瀬浩規 蟹江敬三
1978年日本

上のDVDの写真が怖い。『黒い家』みたいである。あの夫婦は本当に『鬼畜』だった。




ラベル:家族 虐待
posted by フェイユイ at 01:08| Comment(3) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
さすがのフェイユイさんの率直な(笑)評だと思います。他の皆さん口を揃えて誉めますけど・・私はこの作品だいぶ前にみたのですが、そうですやはりこの軟弱なオトコに「?」を感じたものです。「何故に意志がない?」というような。
覚えていることは岩下志麻の恐ろしさ(笑)だけ。あの、御飯を無理やり子供に食べさすシーン!^^;確か「徹子の部屋」で岩下さん本人が云っていたと思うのですがあの子役さんその後、岩下さんの姿が遠くにちょっとでも見えるとぴゅーッッと走って逃げていたから岩下さんは参ったそうな(笑)あのコのトラウマになってるでしょうね〜^^;
愛人役に到っては覚えていない始末。“子供を捨てて逃げてしまう母”って多分古来から多々あったと思うんで新鮮味はないし。よく解らないのはこの弱ッちい男のどこに愛人作る甲斐性や奥さん(女優が二人とも迫力美人)に迫られる魅力があるのかっていうところです。フェイユイさんの仰る通り緒形拳の個性には多分合っていないからその辺が納得できなかった。
Posted by フラン at 2008年10月10日 07:45
スイマセン途中で間違えて送信してしまいました。。とにかく、鬼畜といわれても余りパンチのある映画ではなかった、つまり配役にリアリティが伴わなかった感が致します。
緒形拳は映画では余りその魅力を出せなかった人であった気がします。むしろ大河ドラマ等のテレビドラマにおいて,劇場よりむしろお茶の間で馴染む役者だったのではないか・・つまり極めて日本人的な琴線に静かに深いところで触れている、そんな役者であったのではないか・・という気がするのです。
(こんな所で御免なさいなのですが「緒形拳逝く」へのコメントが反映されないようですが・・)
Posted by フラン at 2008年10月10日 07:55
時代のせいなのか監督の力量なのか緒形さんがうまくできなかったのか。

追悼の意味で観たのに記事は手酷くて緒形さんには申し訳ないです。
でも思った以上に「?」な出来だったので驚いたんですよねー。ほんとに緒形拳の代表作というとこれが必ず上げられますからね。

フランさんは緒形さんは映画よりTVドラマというイメージなんですね。
私はとにかく今村昌平『女衒』『復讐〜』そして五社英雄でも女衒っぽいぎらぎらした悪党のイメージであんまりTV的に観てなかったのですよ。梅安は別ですが。あれも悪な感じで。

とにかくこの映画で緒形さんも他にない演技をしたかったのでしょうか。今観るとあまり入り込んでいない気がしました。

コメントが時々うまくいかなくてすみません。今は大丈夫です。

Posted by フェイユイ at 2008年10月10日 15:22
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