映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年10月13日

『モンゴル』セルゲイ・ボドロフ

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MONGOL

米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、主人公チンギス・ハーンを日本人の浅野忠信が演じたこの作品をやっと観ることができた。
さて感想を書いていきたいが本作のみの感想を書くというのは自分にとっては難しい。どうしても以前観た澤井信一郎の『蒼き狼 地果て海尽きるまで』そしてサイフ/マイリースの『蒼き狼 チンギス・ハーン』と比較せずにはいられないからだ。
その辺は欲求に従っておいおい比較するとして一応本作の感想を言えば非常に美しい映像で撮られており長大な物語とその舞台を短い時間内で巧くまとめ見ごたえある娯楽作品になっている。
だが先にできた映画を観た後では物語がほぼ同じように主人公の幼少期からテムジンが大ハーンになる辺りまでを描いていて自分としては「やはりどうしてもこの部分を描いた作品になってしまうのだな」と思ってしまう。どうしたって物語というのは若き日の苦悩と冒険を描いたモノが一番華々しく面白いわけで先にそういう映画があるからといって渋い老年期を描きたくはないだろうが(続編で製作されるのかもしれないが)鑑賞した3つの作品がほぼ同じ道を辿っているということでは後でできた作品に新しい視点を求めてしまうのはしかたないかもしれない。

逆に言えばほぼ同じストーリーなので比較もしやすい。
ただし日本版の『蒼き狼』は比較するのも恥ずかしい。アレを観た人ならこの映画と見比べて欲しくないと願ってしまうだろう。
あれは角川春樹が自己満足をしたいが為だけの権力志向映画であってなんの中味もない醜悪な映画だった。
それに比べればこの映画は申し分ない出来栄えだ。寡黙なテムジンが一途に妻ボルテを愛し、友を慈しみ、子供を大事にし、少しずつであるが着々とハーンへの道を歩んでいく過程は男らしい。日本版のおしゃべりでなぜかしっかり他の女と浮気してやたら息子ジュチに疑いをかけるという男らしさのかけらもないテムジンとは大違いである。
内モンゴル出身の監督であるサイフ・マイリースの作品と比べるのも面白い。
彼らの作品はさすが本場のものなので作品自体の仕上がりは本作より劣るのかもしれないが疾走感や物語自体はすばらしいものだった。
チンギス・ハーンの話というのは歴史が物凄く古いせいもあるのだろうが、アレキサンダー大王より広大な征服をしたという以外にはあまりストーリー的な起伏がないのかもしれない。
父ハーンがメルキト族から略奪した女性から生まれたのがテムジンで父ハーンの死により迫害を受け、最愛の妻ボルテをメルキトにさらわれた時、彼女が妊娠し生まれた子供を息子とし、親友(アンダ)であるジャムカを敵として戦うことになるという筋書きはどれも一緒なのだが、現代の物語性としてはやや面白さに欠けるかもしれない。
特に女性の存在が希薄で妻ボルテは単なる略奪品としてあちこち移動されるだけなのは今の感覚としては認めがたいものがある。
サイフ/マイリースでは活躍するのがテムジンの母親であり飢えて泣くテムジン兄弟に母乳を与えて凌がせ、狼と立ち向かうという母親の愛情が強烈に描かれている。
本作では略奪されたテムジンを妻ボルテが商人にその身を(多分)売って助け出すという献身が描かれる。この部分は大きな創作ではないかと思うのだがどうしても女性が受身でしかないこの物語の中で能動的な描き方になっている。
またサイフ/マイリースでのテムジンは兄弟たちとの葛藤が描かれているのに対し、本作のテムジンは非常に孤独な幼少期を過ごしている。
常にたった一人で苦難と戦いその為にモンゴル人が怖れる雷をいつしか怖れなくなったのだという話に結びついていく。

不思議なのはテムジンが幾度落ちぶれてもいつしか彼に従う者が現れるという筋書きになっていることでこれは彼が元々ハーンとしての素質が備わっているのだということなのだろうか。

ところで浅野忠信がテムジンを演じているというのが大きな鑑賞目的になっているのだが彼の持ち味であるクールさが本作のテムジンが孤高の存在であまり把握しにくいものとして見えてしまう。
一方彼の親友アンダであるジャムカを演じた孫紅雷のほうが人間味豊かで魅力的に見えてしまう。自分的には「大好きな浅野忠信と同じく大好きな孫紅雷が親友という設定なんて!」ときゃぴついてしまうのだがジャムカ役の孫紅雷が本当にステキでテムジンよりかっこいいと観た人も多いのではないだろうか。
そして商人役の巴音も私的には「きゃー」という配役で非常に嬉しいキャスティングなのだった。

というわけで他の方より随分楽しんだ私なのではなかろうか。
先に書いたように新しい斬り込み方がもう少し欲しかった部分もあるがなかなか楽しませてもらった『モンゴル』であった。

監督:セルゲイ・ボドロフ 出演:浅野忠信 孫紅雷 巴音 アマデュ・ママダコフ クーラン・チュラン
2007年 / ドイツ/ロシア/カザフスタン/モンゴル




ラベル:歴史
posted by フェイユイ at 00:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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