映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年10月15日

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』ティム・バートン

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Sweeney Todd

思った以上にとても面白い作品で楽しめた。でもこの満足は昨日イギリス版正統派(?)『スウィーニー・トッド』を観ていたからかもしれない。
もし昨日の作品を観ていなかったら「スプラッタミュージカル」という日本では馴染みのないジャンルでいきなり歌いだす不気味なジョニデだとか、筋書きが説明少なくどんどん進行していくので内容が飲み込めなくて???のまま一体何がどうしてこうなるのか、という未消化のまま終わってしまいそうだ。
なにしろ「向こう」では有名な架空の連続殺人者の都市伝説ということなので観客は「あーあの話ね」という上でこのミュージカルの面白さだけを堪能できるのではないだろうか。(といってもそれはイギリスの都市伝説ということらしいのでアメリカでどう受け止められているのかはわからないが。アメリカでは以前にも映画化されていてミュージカル上演もされてはいるが)
まあ試しにつまらなかった人はイギリス版を観てから再観してみるといいのではないだろうか。

色んなバージョンがあるという話どおり昨日の作品と設定粗筋は似ていてもどこか微妙に違うし、なによりトッドとラベット夫人の関係が全く異なるものになっている。
イギリス版(という言い方は本当はちょっとおかしいのかもしれない。昨日観たものだけではないかもしれないし)の『トッド』は腕はいいが目立たない太っちょの男がふと見かけたラベット夫人に純粋な恋心を抱いて彼女を守っていくさまが(間違った方法とはいえ)胸を打つものがありスプラッタでありながら悲恋を描いたシリアスな物語だった。同じようにラベット夫人も他の大勢の男と性関係を持ちながらもトッドを愛していて最後同じようにトッドの手によって殺されるのだがトッドの気持ちはイギリス版が愛するがゆえの行動だったのにこちらは騙されたことへの復讐となっている。

とはいえ、どちらがより優れて面白いか、というとこれはなかなか甲乙つけがたいほどどちらも好みであり優れて面白い作品であった。
昨日のイギリス版はいかにもイギリス的に地味でリアルな演出で異常な愛情を描いていた秀作であったし、こちらはまさにティム・バートンの異常な嗜好世界を思い切り描き切っていたと思う。
バートンのトッドの悲しさは狂ったようにかつての妻の死を嘆き妻だけを愛し続けていたはずなのにいつしか彼女自身をそれと気づかないほど忘れてしまっていたことである。それは愛していると思っている娘に対してもであってトッドの心は妻子への愛と言うより判事への憎しみのほうが勝ってしまい何も見えず感じられない冷たいものに変わってしまっていたことがトッドの悲しさだった。

イギリス版『トッド』のように何故かわからない衝動で殺人を犯していくのではなくバートン『トッド』ははっきり復讐の為練習として殺人を犯していく。そのおまけとしてラベット夫人がその死体の肉でミートパイを作って繁盛していくのは同じ。
イギリス版『トッド』には同情してしまうがバートン『トッド』には同情できない。と言っても殺人者なのだから変に同情させたりせず復讐に狂った連続殺人者としてのトッドをおかしさも加えながら演出したバートン版はさすがに狂ったホラーの巨匠の技だと感嘆する。

暗く重い色調の映像もトッドの殺人現場となる天窓つきの部屋の様子も2階からすとんと地下へ死体を落とす装置もバートンの美意識と機械好きが楽しめる。

イギリス版と大きく違うもう一つはトッドの娘と彼女を愛する船乗りの登場であった。
これはバージョンとしてあるものだそうだが昨日のシンプルな愛情物語と比べると余計な話が付け足されたように感じられてしまう。しかしトッドがずっと思い続けた娘に会っても全く気づかないというくだりはリアルだし悲劇である。
昨日の話と比較するとこちらはトッドのラブストーリーが欠如しているので娘と青年の話で少し潤いをつけたのかもしれない。

ミュージカルの面白さというのがわかるほどではないのだが、物凄く怖ろしい会話を歌で表すとか殺そうとする者と殺されそうになっているものがハーモニーを聞かせる場面などとんでもないホラーなコメディでそのまま英語を理解できるのならもっとおかしかったのだろう。
ラベット夫人がトッドとの結婚生活を妄想する場面もおかしかった。

ジョニー・デップは昨日の太っちょトッドとは全然違うのだがさすが変な人間を演じる天才でまったく違和感も持たず見入ってしまった。同じくヘレナ・ボナム・カーターもいつもどおりの異常さである。
ふたり物凄く顔色悪く目つきが悪いのが窓の向こうで歌っているのもおかしい。この辺のおかしい怖さを描きたくて作った作品なのだ。昨日の作品と同じようには比較できない。同じ筋書きでこんなに面白く違う演出作品を楽しめるとはうれしいことである。

監督:ティム・バートン 出演:ジョニー・デップ ヘレナ・ボナム・カーター アラン・リックマン ティモシー・スポール サシャ・バロン・コーエン
2008年アメリカ


posted by フェイユイ at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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