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2008年10月26日

『戦争と人間 第三部 完結篇』後半 山本薩夫

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いやあ、さすがに最後は面白かったなあ。こうして観ると最後は幼馴染みだった耕平・俊介の二人が締めを飾っているということになっているのがいい。特にこの作品は伍代俊介の成長物語になっているのである。耕平は最初から出来上がった人格だったが、俊介の成長による変化は見応えがある。
作品自体、本来まだ続きがあるはずの構想だったのだろうから、厳密に言うとあちこちの話が尻切れトンボになっているのだが、却ってこのノモンハンの戦地で終わったことがよかったのではないのだろうか。何となく後は後始末的な展開になりそうなので。

伍代家のお荷物的な存在でやや優柔不断に見えたお坊ちゃまの俊介が最後に狙撃の腕を見込まれ狙撃兵として活躍する。何不自由なく暮らし、望めば兵役につく事も回避できた俊介は単なる一狙撃兵としてノモンハンの壮絶な死闘に向かうことになるのだ。
この最後のノモンハン戦場の場面は物凄い。比類ないスケールとリアリティがあるのではないだろうか。かつてのソ連の援助もあったようで(不思議な話だよなあ)このような壮大な平原での戦闘シーンが撮影できたのだろう。
ところで驚いたのがソ連軍が攻めて来る時、怒涛のような戦車のバックで「ヴォルガの舟歌」が大音量で流れてくるのだ。(有名な「エイコーラ」というロシア民謡ですな)これはまさしくフランシス・コッポラ『地獄の黙示録』で戦闘機のバックにワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れるあのシーンを彷彿とさせるではないか。製作年はこちらが先だが。これは監督の演出なのか事実なのか判らないがソ連軍が日本軍を混乱させる為に平原にスピーカーを置いてロシア民謡を大音量で流しているという場面は出てくる。その上、ぶよや蚊に悩まされ何より全く水がない地域なのが兵士たちの苦しみだったようだ。
苛烈な戦いで次々と仲間が倒れ、生き残った兵士が俊介に「これからどうなる」と問いかける。俊介は「天皇に聞けよ」と答える。どきりとしてしまう。
その仲間も失い、1人逃げる俊介は途中、尊敬する画家の灰山さんに出会う。灰山さんは絵を描く右腕を失って倒れていた。俊介は水を欲しがる灰山さんを励ましながら背負って歩き続ける。だがそこへオートバイのサイドカーに乗り込んだ将校が彼らを呼び止める。そして「全滅したとはなんだ。最後の一兵まで戦わんか。元の戦場へ戻れ」と喚くのだ。
俊介は静かに灰山さんを降ろして銃を構え「では自分の所属する部隊がどこにいるか教えてください」(自分のというのは俊介のほうね)と睨みつけた。将校は俊介の鬼気迫る表情に怯え去っていった。
バイクの操縦士である兵士が思いやって置いていった水筒の水を灰山さんに与え、自分も飲みながら「絶対にこのくだらない戦争で死にはしない」と誓う俊介。
かつての弱々しい少年の面影はもうなかった。

話は前後するのだが、この話の前に語られていた耕平の戦い。自分の主義を曲げ罪なき中国人を殺した耕平は自責の念に駆られていた。
またも日本軍が小さな村を襲った時、上官に怒鳴られ殴られても耕平はもう村人を殺せなかった。
味方からも取り残された耕平は戦死したという手紙が妻・順子の元へ届けられる。
だが憲兵が戦死したはずの耕平の手紙を捜索したのを見て順子は耕平がまだ生きていることを察する。
憲兵は耕平が軍から逃亡し中国側についたことを知らせ、非国民がと罵るのだった。
この物語が最も驚いたことだったので後に書いたのだ。
どうしても殺せないので中国側に入ってしまうなんて。考えてもみない展開だった。こういう人が事実いたのだろうか。しかし先ほどまで鬼子と呼んだ日本人を殺さずに味方にするなんて中国人てやっぱ日本人と違う。(事実かどうかはわからないが)
憲兵に殴られ罵られた順子だが耕平が生きていたことだけが彼女の幸せだった。
この作品中で唯一幸せで希望の見える恋人達であった。彼らはきっといつか再会できると信じるのだが。

前半で俊介と肉体関係だけ持つことになった苫が後半でも登場。言葉通り売春婦となっていた。俊介がノモンハンから逃げ延びた時、街中で傷ついた兵士たちに水を配っており、おやもしかしたらと思ったが、俊介は水を受け取って飲み干すと何も言わず去ってしまった。
ありゃ、俊介って本気で苫のことは女性として受け付けないのかもなあ。何しろ好みは温子(佐久間良子)さんみたいなしっとりした美人だからなあ。粗雑な苫には色気を感じなかったのだろうねえ。思えば気の毒な苫である。

耕平に一途な恋を全うし続ける順子と違い、由紀子は結婚相手にも幻滅して「伍代家に戻りたい」なんて言い出してる。
うーん、気丈なお嬢様と思ったのだが、やたら「何でもいいから何かに命懸けで打ち込みたいのです。男性でも仕事でも」と騒ぐばかりで結局何にも打ち込むものがないお嬢様だったのね。
まだ若いからこれからがあるのかもしれないがこういう夢ばかり追っていてプライドは高いが何もしない人っているもんだ。
口ばっかりじゃなくて本当に何かに打ち込むのなら黙ってそうすればいいのだよ。このまま老婆になるのだろう。「打ち込む、打ち込む」って言いながら。

瑣末な部分に流れてしまったが、作品の最期の虚無感は心に迫ってくるものがある。
多数の巨大な薪のやぐらで戦死者が焼かれていく。
しかも戦争は終わったのではない。ここから第二次世界大戦が始まっていくのだ。

監督:山本薩夫 出演:芦田伸介 滝沢修 高橋悦史 浅丘ルリ子 高橋英樹 三國連太郎 高橋幸治 石原裕次郎 田村高廣 加藤剛 吉永小百合 山本圭 北大路欣也 夏純子 藤原釜足 鈴木瑞穂
1973年日本


ラベル:戦争 歴史 満州
posted by フェイユイ at 23:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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