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2008年11月06日

『卍(まんじ)』増村保造

卍(まんじ.jpg

あんまり面白くて食い入るように観てしまった。谷崎潤一郎を真面目に読んだことがないのだがやはりこれも読んでみなきゃいけないのだなあ。
女性の同性愛が題材なのだが、そうは言ってもこれは同性愛とは言い難いのかもしれない。存在する同性愛の喜びや苦しみを描いたものというよりは美しい女性同士と彼女達に関わる男性達も絡めた独特の美学と夢想を描いた作品と言うべきなのだろうから。とはいえこの作品が一種のファンタジーに過ぎないのだとしてもなぜか強く惹かれてしまうのは昨日観た『好色一代男』と同じように無我夢中で人を恋慕することそのことに憧れてしまうからなのだろうか。
映画としての魅力はみっちゃんと呼ばれる光子を演じた若尾文子のほんとうに愛らしい美貌にあるだろう。「姉ちゃん」と愛する女性に甘えた目で見上げる様子は小悪魔という形容がぴったりである。きりっとしたなかにも甘さのある表情でしかも今みても驚くようなみごとな体つきなのだ。
岸田今日子演じる「姉ちゃん」こと園子は人妻ながら美術学校に通っていて日本画を学んでいるのだがそこで観音様をイメージしたモデルを描く。ところがその絵はモデルよりも西洋画科にいる光子に生き写しで二人は同性愛じゃないかと噂を立てられるという導入部である。
それだけで同性愛だと噂されるというのも変な話だし、同じ美術学校の生徒に園子のような美女がいてあっという間に相思相愛になってしまうのもなんだかそういう場面を描写したいだけのポルノ的な展開のようにすら思えてしまうのだが、どうせそういう場面を描きたいのだから面倒くさい手順は省いてもいいやと言う感じではある。まさにやおいのお手本、古典というべきものだろうか。
園子の描いたみっちゃん似の観音様を園子の夫も絶賛したのを喜んで光子に見せると光子は「顔は似てるけど体が違うわ」と言い出す。ますますやおいである。つまりは園子はまだ光子のヌードを見てないのだから園子の家で自分の裸を見せるわと言うのだ。
二人の女性は家の中に閉じこもる。光子は隠れて裸になり園子ら夫婦のベッドのシーツだけを纏う。
色んな映画でヌードだの水着だのをゴマンと観てきたが、この場面ほどエロティックなものを他に知らない。
全部を見せてしまうわけでもなくいやいやと恥ずかしがるのを園子が剥ぎ取ってしまうのだが女性同士で裸を見るというだけのシーンなのに子の艶かしさというのは今ではもうあり得ないのかもしれない。
そして彼女達が話す関西の言葉が不思議なエロティシズムと自由奔放な意識をより感じさせているように思える。

人妻である園子と実は婚約者がいるのに騙していた光子はみるみる恋にはまり込んでいく。映像としての肉体的接触というのは僅かに軽いキスと抱きしめあうということしかないのだが肌着のような着物を着て布団の横で何かを食べていたような様子などが二人の女性の肉体関係を想像させる。
この二人に光子の婚約者(川津祐介)と園子の夫(船越英二)が関係してくる。光子の婚約者はEDであり園子の夫とはセックスレスのようなのだ。この婚約者と夫も普通の常識とは随分変わっているのだが4人ともそういう意識はないのである。傍から見ればけったいでも当事者はそのようなものなのだということかもしれない。
婚約者は光子と園子の同性愛関係を容認しながら自分と光子の結婚を認めさせようと画策する。夫は妻が同性愛に溺れていくのを心配しながらいつしか光子の体に溺れてしまい、やがて夫婦ともども光子を崇拝するようになってしまうという奇妙極まりない方向へ向かってしまうのだ。
「僕たちは光子観音の脇仏や」という台詞には参ってしまった。
とうとう仏教世界へ入ってしまうとは。昨日も思ったがこういう考え方だと幸せなのかもしれない。

物語は園子1人が小説家と思しき男性に自分の体験を語っていくという方式で進行していく。とても好きな形式だ。
岸田今日子の語り口はすばらしいし、魅惑的な二人の女性ととんでもなく変な二人の男性の奇妙に艶かしい物語だった。

監督:増村保造 出演:若尾文子 岸田今日子 船越英二 川津祐介
1964年日本
 
卍というのはやはり二人の女性が絡んでいるということなんだろうなあ。言葉の響きも。


ラベル:増村保造 同性愛
posted by フェイユイ at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 増村保造 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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