映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年11月09日

『ルシアンの青春』ルイ・マル

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Lacombe Lucien

言い表しがたい衝撃を受けてしまった。戦争中、敵国の手先となってしまうという物語が他にないわけではないがそれでもこの主人公に対して今までに感じたことがないような怒りと悲しみを覚えてしまったのだ。
何と言ってもこの表現が素晴らしいのだ。時折静かに聞こえる音楽以外は極端に効果音を少なくし、淡々と出来事だけを写し取っていっただけのような映像である。非常にクールでまるで感情がないような撮り方なのにその奥に激しく訴えるものがあるのだ。

第二次世界大戦末期、まだ少年という年齢のルシアンは真面目に病院で働いてはいるがその仕事に不満を感じておりレジスタンスに入りたいと思っている。だがその思いというのは思想的なものではないのが伺える。地味な下働きに対する鬱憤と少年の心に潜む攻撃的な衝動も感じられる。
冒頭にルシアンが懸命に病院の清掃をする間に窓から見える小鳥をパチンコで打ち落とすという場面があり、彼の生真面目さと同時に残酷な一面も感じさせるのだ。
ルシアンは村の教師がレジスタンスの手引きをしていることを知って彼に志望している意思を伝えるが若すぎると断られてしまう。だがそれは教師がルシアンの性格にどこか異常なものと思想のなさを感じたせいなのかもしれない。
ルシアンはその後、ふとした好奇心からドイツ警察の手先となっているフランス人組織に入り込むことになりレジスタンスの一員である教師のことも話してしまうのだ。

ルシアンと言う少年の描写がとても微妙なのだ。彼の残酷さが少年期にありがちなそれで長じれば穏やかになっていったのだろうか。
たとえ戦争時でなくても何か別のきっかけで悪どい稼業に魅力を感じ手を染めていく人間なのかもしれない。
だがそれでも戦争という異常な世界がルシアンの精神を大きく歪ませたことは確かだろう。
少年でありながらドイツ警察の手先だという権限を見せびらかし人々を抑圧していくことに快感を感じている。そこに入らなければ同国人であるユダヤ人を迫害し、敬うべき年長者に向かって横柄な態度をとる。
ルシアンが美しいユダヤ人の少女と恋仲になったのは運命の悪戯ということなのか。
少女の名前がフランスというのも意図的なことではないか。彼女はほんとうに恋していたのか。彼女の父親が感じたようにルシアンという狂気から陵辱されただけではないか。
ユダヤ一家を逃そうというルシアンの意志に反抗するように少女の父は自らゲシュタポに捕まってしまう。彼が「男同士で話そう」と言った言葉をルシアンは無視する。結局ルシアンは少女とその父親に好意を持っているかのようで全く人間として見てはいないのだ。それを感じた父親はゲシュタポに捕まるという怖ろしい反抗をしてみせるのだ。
仕方なく少女と祖母だけを逃そうとするルシアン。人気のない村に逃れ暫く牧歌的な暮らしをする場面が映し出される。
昼寝をするルシアンの側で石を持って立っていた少女は何を思っていたのか。彼女はやはりルシアンを憎んでいるのだ。殺したいほど。
水浴びをするフランスの側でルシアンは空を見上げている。
ルシアンは何も考えていない。彼は思想で行動したわけではない。少年らしいほんの出来心と虚栄心。決して悪い子ではないし、ほんとうの不良ではない。少しだけ強く持っていた攻撃的な性格と当たり前の好奇心と誰にでもあるかもしれない「酔っ払ってつい話してしまった」ことが彼をとんでもない方向へと進ませてしまった。後戻りする勇気もなく突然与えられた権力が面白かった。
普通なら憧れるだけかもしれない美少女も権威の前で積極的に振舞えた。
ルシアンの無口さ、無表情さが彼の意志の乏しさを感じさせる。ルシアンはまだ何も判っていない子供でしかないのだ。ルシアンはフランスたちを救ったかのようだがその原因を作ったのは彼なのだ。
フランスの射るような美しい眼差しはそんなルシアンに激しく訴えているのではないか。どうしてあなたは私たちを不幸にしたの、と。

何度言っても足りないが、乾いた映像と最小限の音楽が印象的だ。
この突き放した捉え方がルシアンの精神も表しているようだ。

上のイラストのポスターが当時話題になったのではないだろうか。確かに印象的である。ナチスの旗を持っているというのは衝撃的なことだろう。
ルシアンが捕まえた鳩をフランスが愛おしむように手で包んでいる。自分の姿と重ねているのか。
死んだ馬をルシアンが優しく撫ぜている場面と抱いたフランスを優しく撫ぜている場面がこうして並べると不気味である。
一つ一つの挿話、場面が深い意味を持っているのだ。

監督:ルイ・マル 出演:ピエール・ブレーズ オーロール・クレマン オルガー・ローウェンアドラー
1973年フランス



ラベル:ルイ・マル 戦争
posted by フェイユイ at 00:36| Comment(4) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私にとり生涯のベストテンに入るかも知れない作品です。何よりここまで魅かれる理由の一つは、このルシアンを演じたピエール・ブレーズはなんとこの二年後に自動車事故で亡くなってしまったということ。。彼は所謂本当の野生児であったらしく、映画を見にいったこともなければフランスがドイツに占領されていた歴史も知らなかったそうです。しかしルイ・マル監督は撮影したフィルムのなかの彼に“得体の知れないものを感じた”といいます。「見事にその生を映画の中で演じた」とあるブログで彼(ピエール)を評する言葉がありましたが、正にその通りであったと。。(涙)だって野生児だから車に慣れず事故に・・(涙)ですから作品中、小鳥を撃ったり兎を撃ったり(すごく上手い!)。一番感銘受けたのは鶏を殺すシーン。本当に殺している。天晴れなほどためらいなく。でもそれは農家では日常の仕事。まさに彼の生活だったのですよね。
冒頭のジャズギターの音色が哀切感を盛り上げる。朴訥な少年の変節。彼はただただ自然の中で暮らしているべきだった青年と思う。しかし運命がそれを許さなかった。彼をして「人間の中にある悪」を描いたルイ・マル。きっと誰の中にも在り得る悪。
とても全てをうまく言い表せないです。果てしなく哀しい、陰鬱なんだが甘酸っぱい、残酷であり純粋であり、恐ろしいのだが優しい。。。特にフランスとの情事のシーンは官能的であり大好きであると同時にそんなシーンを好んでしまうおのれの潜在的願望が恐ろしくもあり・・。
あの母も酷い!と思うのですがやっぱりここでもまた息子は母に優しい。始まりはこの母にあると私は感じている。。
観て下さって嬉しいです。フェイユイさんの評、さすがです。「石を持って立つ少女・・彼女は少年を憎んでいるのだ・・殺したいほど。」・・そうなのか、そういう風には感じなかったけれどでもそうかもしれない。ピエール・ブレーズが無骨なほど演技らしくないので、実際の人間をみているよう。何を考えているのかわからない男の子を・・。
Posted by フラン at 2008年11月09日 21:40
フランさんの言葉がなかったら観なかったか観るのがずっと先になったかもしれない。ほんとうに感動しました。ぞっとしました、と言ってもいいんですが。
こんな映画があったんですねえ。しかもピエール・ブレーズがそんな生き様だったとは。

この映画言葉の説明があまりないので一見ドイツ側に立つフランス少年とユダヤ少女の恋物語みたいですが最後の逃避行の場面が二人の関係を説明していますね。
いつ落ちるか判らない穴の開いた2階で笑いながら抱き合う二人。罠にかかった兎を焼いて食べる場面のグロテスクな感じや捕らえられた鳩が少女の立場をイメージさせます。そして石を持って立っていた少女を見てあっこの子は少年を憎んでいるんだと感じました。まるで穢された体を清めるかのように小川で体を洗い少年をじっと見つめる少女。
ぼんやりと空を見上げるピエール・ブレーズの表情。
他にこんなにクールでしかも激しい映画を思いつきません。
 
ルイ・マル。ぞっこんになってしまいましたが、悲しいことにレンタルはされてないのですよねー。他の作品を観れるのはいつか。
観たいものほど観れない気がします。
Posted by フェイユイ at 2008年11月11日 00:33
うちの近所のツタヤにはルイ・マル『さよなら子供たち』ありましたよ〜。『死刑台のエレベーター』『恋人たち』『地下鉄のザジ』等はあちこちでみかけます。私も今回ルイ・マル凄い、と改めて感心したのでこれら以外の近作にもこれから注目してみたいと思います。
説明(台詞や音楽等)が多すぎる作品よりも、それらが排除された状態だからこそ観た人が何かを“感じる”“じっくり考える”ことが出来る作品が、いい映画の一要素であると私は信じます。。
Posted by フラン at 2008年11月11日 08:50
そ、そうでしたか。DISCASさんにばかり頼りすぎでした。なかなか外出できないのですが頑張って探してみます!

いい映画監督を知るとすごくうれしくなりますね。やる気が出るというのか(笑)
Posted by フェイユイ at 2008年11月11日 13:10
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