映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年11月14日

『譜めくりの女』ドゥニ・デルクール

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La tourneuse de pages

こういう面白い映画は秋の夜長にひたって楽しみたいものですね。
ややごり押しな面もあるだろうが、ミステリーというのはそういう部分はありがちなわけで、そういう突飛な筋書きも含めて楽しめる作品だった。

冒頭から主人公メラニーの人格がきっちりと説明されていく。台詞だけではなく行動や表情からも様々なことが読み取れていくのが面白い。
クールで繊細な美しさを持ちながらその心にはふつふつと煮えている復讐の思いがある。
彼女の母がいう「この娘は自分がやろうと思ったことは必ずやるわ」という台詞がおかしい。その通り彼女はやり遂げたのだから。

ピアノの試験の為、懸命に練習するのもメラニーの熱心さが伝わってくる。几帳面で真面目な性格のメラニーはその通り自分の計画を几帳面に真面目に遂行したわけである。
両親が肉屋で「肉を切る」ことに慣れている、というのも後で関係してくる。

ミステリーとかサスペンスというのはどこに視点があるか、という問題があるがこの映画の中で視点はメラニーにある。観る者はメラニーに共感しながら物語を追っていく。だがメラニー自身の心情は観客には伝えられない。心情がわかるのはむしろ復讐される側のアリアーヌのほうである。つまり観る者はメラニー側に立って行動しながら、アリアーヌの衝撃を感じるということになる。

ピアノの試験中、メラニーは突然弾くのを止めてしまう。それは試験官の1人であったアリアーヌがたまたま試験場に入ってきた人物の依頼でサインに応じていたからだ。
神経質なメラニーは自分の試験中に試験官が他の人物に興味をそらしたことに苛立ってしまった。アリアーヌはメラニーの秩序だった時間を乱してしまったのだ。試験後、メラニーは感情もないかのようにピアノを片付けてしまう。
彼女の徹底した性格がわかるのだ。

やがて成長したメラニーはある弁護士事務所に実習生として勤務し、彼の家の子守としてバイトをすることになる。
メラニーを迎えたのはあの試験会場にいたアリアーヌだったのだ。
一体どうなっていくのかという緊張感と恐怖が少しずつ満ちてくる。だが映像はあくまでも静かで調和を保っているかのように見える。
ここでアリアーヌが数年前事故に会い、ピアニストとして精神的に弱くなってしまったことが夫の口から語られる。事故とは。まだ若いメラニーでは無理だろう。多分それは彼女の両親のどちらかが起こした事故なのでは、という疑念がわく。
美しく清楚な佇まいのメラニーは弁護士の夫、その息子、そしてアリアーヌ自身からも深く信用され愛されるようになっていく。
ピアニスト・アリアーヌは深い信頼関係がなければいけないという「譜めくり」の役目をメラニーに依頼するのだ。
ピアニストの精神に深く関与するという譜めくりの位置に立ったメラニーはアリアーヌの喉元に手をかけたも同然だった。

メラニーの性格そのものように静かにだが執拗に映像が物語を追っていく。
メラニーはアリアーヌの心を掴み、息子のピアニストとしての才能も握りつぶしていく。アリアーヌのピアニストとしての名声と夫の彼女への愛情も破壊してしまうのだ。

ミステリーの復讐譚というのは以前から無論あったものだろうが特に女性の復讐を「本来はいい人がやむなくやったもの」という描き方ではなくあくまでも「復讐心を持った執拗な復讐」というものを意識したのはルース・レンデルの『ロウフィールドの惨劇』だったろうか。
そこには単に可哀想な運命の女性というだけではない攻撃的な復讐というものがあって本作もまたそういう「悪意の女性」というカテゴリにはいるのだろうか。主人公が美しいせいもあってとんでもない「魔」を持った女性として妖しい魅力を感じてしまうのだ。

メラニーが色仕掛けを行うのが亭主のほうじゃなくアリアーヌ本人というのはさすがにフランスならでは、というところなのか。といってもメラニーのような綺麗な女性にキスされたらやはり動揺してしまいそうである。
誰かを殺すというような単純な復讐ではなく、少し違えば助かるが一歩間違えばほんとうに名声も家庭も子供の才能も破壊されてしまうのかもしれない、というニュアンスでの復讐劇というのも乙な味わいである。
ベルナール・ラップ『趣味の問題』もだったがこういうフランスの心理劇ミステリーは面白い。

監督・脚本:ドゥニ・デルクール 出演 : カトリーヌ・フロ 、 デボラ・フランソワ 、 パスカル・グレゴリー 、 アントワーヌ・マルティンシウ 、 クロティルド・モレ 、 グザヴィエ・ドゥ・ギルボン 、 ジャック・ボナフェ
2006年フランス






posted by フェイユイ at 22:59| Comment(3) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とてもこれ、面白かったです。「攻撃的な復讐」「妖しい魅力」正に!^^おフランスの人物やインテリア・生活感等とっても好みなので観てて堪らなかったです。よく考えたら(考える必要ナイですが)随分な「逆恨み」ですよね〜^^;フツウこういうことは考えない・・サスペンスをこういう形でも造れるのですね。心理的サスペンスは、楽しいです◎脳髄がすきっとするような。しかし反面で「あり得ね〜」と思いながらも(笑)。
ゆらめく室内プール水面の影、緑の庭園(どんだけお金持ち)素敵でした〜その一隅でそっと手を握り合う女ふたり・・フツウじゃないです!(笑)ワタクシこういう場面みるたび多分自分はヘテロだと思う。アリアーヌのような感情は理解できない・・^^;メラニーが、言い寄る男性を「ブスッ!」とコントラバスの支え棒?で刺すところコワかったな〜☆何もそこまでせんでも・・この男性可哀想過ぎます(笑)等等、スタイリッシュな映像のなか怖いお話が展開されていきます。メラニーの凄みある清廉な美しさ、尼僧のようでした。カトリーヌ・フロは『ある子供』(彼女のデビユー?これもまた素晴らしい作品)でも好演でした。独特の存在感を発するいい女優と思います。
Posted by フラン at 2008年11月15日 16:49
間違えました;「カトリーヌ・フロ〜いい女優」のくだり→「デボラ・フランソワ〜いい女優」の間違いです。私の中ではメラニーが主人公ですから。
Posted by フラン at 2008年11月15日 17:09
面白かったです〜。何も調べず観たのでまさかミステリーだとは思ってませんでした。
ピアニストになれなくて譜めくりになった女性を描いたお話なんだろうな〜というだけで(笑)
自分がヘテロかビアンかというのは卑怯な言い方ですが実生活ではまるでヘテロですが映画の中の美女を観てると「こういう気持ちになるかもしれないなあ」なんて思ってしまいます。でも即「あなたと出て行きます」って凄いなあ。
最近映画でも少しずつ『Lの世界』的な展開が認められつつあるのでしょうか。
アリアーヌは引っ張られた結果なのでしょうけどメラニーは元々ビアンなわけですよね。普通の話なら亭主を色仕掛けで落としてアリアーヌを不幸にするのにねー。ダンナさんがショックを受けてました(笑)
Posted by フェイユイ at 2008年11月16日 00:20
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