映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年11月22日

『清作の妻』増村保造

清作の妻.jpg清作の妻2.jpg

いやもう凄い。増村保造映画というのは。
どの作品も90分ほどの現代の感覚では短いものなのだが、きりっとしまった密度の濃い作品なので単にダラダラした映画よりはるかに多くのことが描かれているようだ。それはもう私などにはわからない脚本のうまさ、構成、撮り方などのすべてがきちっと計算されたもので成り立っているからなのだろう。
物語もシンプルではっきりと登場人物の考え方が伝わるように描かれているのでとても判り易い。
ただラストシーンでおかねが懸命に畑を耕しているそばで清作が黙ったまま難しい顔をしていてそれを見るおかねもなにかしら心細いように見えたのはなぜだろう。限りないように見える畑で耕しつづけるおかねとその向こうで黙って座っている清作というラストの構図は二人がこれから立ち向かう未来は果てしない困難に満ちていることを示しているのだろうか。

幼い時、両親と共に村から追い出されてしまい、17歳で老人の愛人となったおかねが老人の死後、大金を与えられて母親の要望でかつて住んでいた村に戻る。
おかねは全く愛のなかった老人との生活に精神が参っており村に戻っても妾だった女として嘲られ続ける。
ささくれ立ったおかねの前に村一番の模範青年と呼ばれる清が立派な軍人となって帰ってくる。
村中からあばずれと呼ばれるおかねに清作は次第に魅かれていくのだった。

何と言っても怖ろしいのは村の人々である。清作を模範軍人だ英雄だと誉めそやし宴会を開いては飲み食いするが清作がおかねのせいで目が見えなくなってしまうと「戦争から逃げる為に計画した。売国奴だ」と罵る。おかねに対してもおかねが村人に何か悪事を働いたわけでもないのに金持ち老人の妾だったというだけであばずれだと蔑む。清作が再び戦場へ赴くことになり、うろたえたおかねが「酷い怪我をすれば清作も戦場へ戻らずにすんだ」という言葉のためか彼の目を突き視力を奪ってしまうのだ。
村人はそんなおかねを殴りつけ蹴りつけ警察へ突き出す。
清作が最初はおかねに激しい怒りを持つがおかねの家で2年の刑期を待つという。
戻ってきたおかねに清作は目が見えなくなって村人から蔑まれお前の孤独がどんなものかやっとわかった。目が見えなくならなければ俺はいつまでも馬鹿な模範生のままだった、と言っておかねを抱きしめるのだ。

模範生の清作は村人の規範となるよう鐘を下げて毎朝それを打ち鳴らす。怠け者の村人が早く起きて働くように。
鐘は清作が模範生である象徴だった。村人から卑怯者と蔑まれ清作は鐘を谷底へ落とす。

愛のない生活を送り、金だけを与えられ、村人からは嫌われ続けるおかねを若尾文子が演じている。小作りな、なんともいえない色っぽさがある。『卍』の時は衣服もおしゃれだったのもあるがここでは粗末な格好しかしていないのにどきりとするほど美しい。
それは確かに男だったらほっとけないだろう妖しいエロティシズムもあって真面目な模範青年の清作がのめりこんでしまうのもうなづけるのだ。
おかねも清作も普通より外れた場所に立っている二人なのかもしれない。互いがいなければ生きていけないと言って抱き合う姿は普通の人から見れば怖ろしい外道の愛なのかもしれない。

清作を演じた田村高廣も好青年ぶりがまさにぴたりであった。二人が狂おしいほど抱きしめあう場面は現代でもこんなにもエロテッィクなものはない様に思える。増村保造作品の感想にはエロティシズムという言葉が必要なもののようだ。

監督:増村保造 出演:若尾文子 田村高廣 千葉信男 紺野ユカ 成田三樹夫 殿山泰司
1965年日本


posted by フェイユイ at 22:52| Comment(2) | TrackBack(0) | 増村保造 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フェイユイ様
この作品ご覧になったのですね!!
なかなかの作品でしたよね〜〜。

私がこの作品をたくさんの増村作品からチョイスしたのはすこしまえに本棚を物色しておりましたらば6年くらい前の雑誌[CUT]を見つけました。
それで偶然、作家の阿部和重氏がこの「清作の妻」を紹介してたんです。
「おお!!こんなところに増村の事が!!なになに??」
(雑誌を買った当時バカな私はその記事をすっ飛ばしていたようです)

阿部氏曰く増村作品を結構見ている様子。
当時の増村が「俺は10年早かった・・」と言ったとか。
その阿部氏の記事、フェイユイ様にも読んでもらいたいくらいでした。




Posted by フキン at 2008年11月27日 12:54
増村監督作品、物凄くたくさんあってしかも観たものどれも面白い映画ばかりです。
欲張ると息切れしそうなので少しずつ観ようとは思っているのですが観るごとにうなってしまいます。
ところで私だけ無知なのかもしれませんが、増村監督ってあまり案外有名ではないのではないでしょうか?あまり騒がれないというのか(黒澤とか小津とか市川崑とかに比べると)私なんか今頃になってやっと観てますし。
この作品数と内容なのでもっと名前を言われてもよさそうな気がします。
確かに「10年早かった」のかもしれません。
そういえば私も増村監督の記事などを見逃していただけかもしれませんね^^;
Posted by フェイユイ at 2008年11月27日 13:42
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