映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年11月27日

『マルタの鷹』ジョン・ヒューストン

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The Maltese Falcon

昔、少女時代に世の中に「ハードボイルド」と称される分野があると知り、感情を込めずに行動のみを描写していくスタイルだと聞いてかっこいいなと思った。その技法で書かれる小説は大概タフガイが主人公である。本作のダシール・ハメットが書いたサム・スペード。レイモンド・チャンドラーが書いたフィリップ・マーロウがその代表だろう。憧れの気持ちを持ってハードボイルドの世界に入ろうとしたがどうにも惹きこまれないのだ。どうして?あれほどたくさんの人が賛辞し真似たがる男の姿にどうして魅力を感じないのだろう。自分が子供だからだろうか。
そう思って年月が経ち、年齢だけは相応に年取ってもう判るかな、と鑑賞したのだが。

駄目だった。

とはいえ、もうすでに世の中の人々も昔のようにハードボイルドの男に憧れを持ってはいないようである。
大人になればハンフリー・ボガードの渋い男の魅力を味わえるかと思ったがむしろ腹立たしいばかりであった。
冷酷非情で強靭な妥協しない精神を持つタフガイがハードボイルドの男だという説明だけならそれもなかなかかっこいい男の一つかなと思うのだが、本作ジョン・ヒューストンが作り上げたハンフリー・ボガード=サム・スペードにはなんの魅力も感じない。
冷酷非情というより単に思いあがった傲慢な乱暴者にしか思えないし、やや精神異常かなと思える箇所もある。
女性に対しての不条理に見下げた態度を男らしいとはとても思えないし、こんな男を好きになるような女性しか出てこないというのも不思議である。
確かにこんな男がのさばっていけた時代もあったのだろうか。ジュリーが「あんたの時代はよかった。男がぴかぴかの気障でいられた」と歌ってからもう久しいがあの頃でさえこんな男では生きていけない世界になっていたんだろう。
まあ私が声を大にして罵らなくともすでにそう思う人が多いからハードボイルドをパロディにした作品がたくさん生まれたのだろうし、そちらのほうに共感する人も多いのだ。例えば『名探偵登場』でピーター・フォークが演じたハードボイルド男の乱暴な態度には大笑いして観ていたわけだから。

一体こういう男が主人公であり得た時代、それを真似しようとしていた時代というのはナンだろう。
むしろ、ほんとうに男らしい男というものがいなくなるのでは、と感じた時代の造形なのではないのか。
無論、アメリカではそれ以後も形を変えながらハードボイルド的タフガイという偶像を作り続けてはいるのだが、こうも身勝手に都合のいいナルシストの男ではないのではないか。
いつも表情を崩さず、相手を陥れた時だけにやりと笑い、びしっとスーツを着こんで煙草を吸う。乱暴なしゃべり方でしかも事務の女性をダーリンと呼んだり、最後に「男は相棒を殺されたら黙っちゃいない」とか言いながらその女性の鼻にキスをしたりするような男は気持ちが悪い。
現在で言うならこの前観た『ノーカントリー』の追いかける男シガー。追われるモスのほうではなくあの感情のない怖ろしい男の姿こそハードボイルド男の現在の姿なんだろう。あの男がハードボイルドというのなら私も賛成する。

監督:ジョン・ヒューストン 出演:ハンフリー・ボガート  メアリー・アスター グラディス・ジョージ
1941年アメリカ


posted by フェイユイ at 22:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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