映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年12月17日

『レベッカ』アルフレッド・ヒッチコック

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REBECCA

昔、この原作デュ・モーリアの小説『レベッカ』を一体何度読み返しただろう。今も時々読み返しているし。
何のとりえもなく見た目も冴えない娘があっという間に大富豪のハンサムな男性に結婚を申し込まれてしまう物語である。
南仏のホテルで娘は金持ち夫人のコンパニオンをしていていつもいびられている。そこへ立派な容姿の男性が現れ、金持ち夫人も一目置く存在であるらしい。彼はマキシム・デ・ウィンターという名前で、皆が憧れるようなマンダレーの屋敷に住んでおり一年前まで誰からも慕われる美しい女性レベッカを妻としていた。
そのレベッカが事故で亡くなってしまい、彼は一人ぼっちだった。

夢中になって読んだ小説がヒッチコックによって映画化されていたのは知っていたし、観る機会もあったのだが、冒頭で観る気が失せてしまった。というのは主人公役(一人称で名前がない)のぱっとしないはずの娘役がジョーン・フォンティンという素晴らしく美しい女優でまっすぐなはずの髪の毛は(『不思議の国のアリス』をやれと言われてすねてしまうような真直ぐな髪)ウェーブがかかっていてそれだけでも小説のイメージがそのまま再現されてはいないだろうと思われたからだ。
とうとう観ずじまいで今まで来てしまったが、そういうところは無視するとしてどういう映像になっているのか、やはり観てみたくなったのだった。

で、どうだったかというと、やはり原作に耽溺していた人間としてはまったくイメージが異なっただけであった。いくらヒッチコックといえ、小説の深いイメージをそのまま或いはそれを超えるような表現は願ってもかなわないものなのだろう。
とはいえ、幾つもの賞を取ったと言うこの作品はとても美しく面白い作品に仕上がっているとは思う。ジョーン・フォンティンの透明な美しさはイメージを別にすれば見惚れてしまうものだし、マキシム役のローレンス・オリヴィエのハンサムさはさすがに素晴らしい。同時代で観ていたら彼の美貌を観るだけでも満足できるものだっただろうなあ、と思ってしまう。
では何がいけないのか、というと映画ではレベッカが見えてこないのだ。

死んでしまったレベッカが見えないのは当たり前、なのだが、これが小説だとヒロインよりなによりレベッカの姿が浮かび上がってくる。
出合った人は皆彼女を愛してしまう、彼女を崇拝してしまう、という美しいレベッカ。すらりと背が高く威厳があるのに同時に愛らしく少女のように見えるというレベッカ。真っ黒な長い髪がほっそりとした体を包んでいるというレベッカ。知性と勇気が備わり、誰でも魅了するような会話ができ荒馬を乗りこなし、無造作に海岸を歩く姿も美しいレベッカ。小説を読んでいると自分もレベッカという女性に憧れてしまうのだった。そして彼女を愛し、仕える家政婦のデンバース(映画ではダンバースになっていたが私はどうしてもデンバースと覚えてしまったので)彼女が新しくデ・ウィンター夫人となったおどおどとして美しくもない小娘を憎む気持ちもわかる。デンバースがヒロインに「あなたはデ・ウィンター夫人にはふさわしくない。さあ、ここから落ちなさい。すぐにすみますよ」と屋敷の窓で囁くシーンはぞくぞくとする。映画でもその場面はあったのだが、自分の頭の中で描いていたシーンとは全然違い、目の前がくらくらとするような恐ろしさは感じられなかった。私のイマジネーションの如何でなく、小説を読めば映画を観るよりもくっきりとその映像が頭に浮かんでくるのである。
小説ではレベッカという女性が他の誰よりも明確な姿で現れるのだった。
ところが映画は現実に起きていることだけを映像化していてレベッカの思い出場面などというものがない。これは却ってとても上手い考えだとは思う。イメージの中のレベッカを現実の女性が演じても失望してしまうだけかもしれない。
死んでしまったレベッカというもうそこにはいないものが生きている人々を怖れさせ動かしている。
それは映画のようにイメージとして登場しないほうがより感じられるのかもしれないが、この映画ではその表現をあまり強く出していないのが勿体無く思えたのだが。
デンバースを始め殆どすべての人がレベッカに陶酔していたのだが彼女を怖れていたのが夫のマキシムと頭の弱いベンだったというのが面白いところである。

小説が映像的すぎると映画になりにくいのかもしれない。小説の最後、ヒロインとマキシムがマンダレーに向かって車を走らせる場面、夜なのにマンダレーの方角が朝が来たかのように明るい。それはマンダレーが燃えていたのだ、というこれも強烈なイメージが映画では当たり前の火事の映像になっていた。残念だ。

ヒッチコックの映画としてはかなりスタンダードな作りになっているのだが、それが却って評価されるということもあるのかもしれない。落ち着いた豪奢な印象である。
ということは逆にヒッチコック独特の面白さは少ない作品に思えてしまうのではないだろうか。

監督:アルフレッド・ヒッチコック 製作: デヴィッド・O・セルズニック  原作: ダフネ・デュ・モーリア  出演:ローレンス・オリヴィエ、ジョーン・フォンテイン ジョージ・サンダース ジュディス・アンダーソン グラディス・クーパー
1940年アメリカ


posted by フェイユイ at 00:43| Comment(2) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私も最近観たところです。興味深く読ませていただきました。(^-^)
Posted by yukkiee at 2008年12月18日 20:11
おお、そうでしたか!
面白かったですか?
Posted by フェイユイ at 2008年12月18日 23:59
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