映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年01月15日

『ある子供』ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ

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L'Enfant

この作品を観たら、大人になりきれていないのに子供を産んでしまう若者を憂いたり、社会のあり方を考えたり、親子の愛、男女の愛とはなにかなどを見つめたりするべきなのかもしれないが、単純に小心男の惨め話の描写の上手さを非常に楽しんだ自分だった。

やはり先日観たユアン・マクレガー『猟人日記』をちょいと思い出してしまう。だらしないのだがデカイ悪事は犯せない、心優しいところもあるがどこか精神が欠落しているといった男であるのが共通している。善人でもなければ悪人でもないが普通の人というには腐りきってしまっているのだ。
物語としてはあちらの方がやや詩的に見せようという装飾性が感じられるのに対し、こちらはもっと悲しいほどリアルに惨めで情けない。

この主人公ブリュノは「いまどきの若者は」というような人格ではないだろう。昔からよくいるタイプの人間で日本の今日のニュースにだってもう少し酷いがだらしなく悪いことをしている奴が報道されている。若い年寄りなんかも関係ないしこういう輩はいつでもいるし、若くても年取ってても同じなのだ。
ちょっとひっかかるのは物語として対比したかった為かもしれないが恋人同士なのに男がみっともなさすぎるのに、女の子のほうは信じられないくらい可愛くてしっかりしている、ということ。出産という出来事で女は大人になるが男は子供のまま、ということを表現したかったのだろうし、同じ若者でも前進していくものと停滞したままのものがいる対比なのでもあるだろう。
現実には出産した女でとんでもなくだらしなくそれこそ自分が産んだ赤ん坊を見殺しにするのもいるわけなのでここら辺の描き方というのはどうなんだろう。まあ、「現実はこうだ」とか「男女の描き方がどうの」ばかり言ってたらどれを映画にしていいかわからなくなってしまうだろうが、「能無し亭主としっかり母さん」という定番の図式のようでそこは男兄弟の監督なのでママに理想を求めてしまうのだろうか。男はだらしないけどよ、ということで。

というわけで可愛いヤンママの表現は自分的にはちょっとマイナスポイントなのだが(作品としてと言う意味ではなく自分の好みとしては、ということ)駄目亭主の描き方は本当に見事にだらしなくて楽しめた。
一体この男、結局何も悪いことをしていない。つーかやり遂げていない。
赤ん坊を売ろうとして情にほだされ、取り返し「違約金を払え」と脅され、恋人からは見捨てられる。
少年と組んで引ったくりをしようとして真冬の川に逃げ込み、動けなくなった少年が逮捕されるのを見て盗んだ金を警察に渡し刑務所入り。
冷酷に子供を売ることも、泣く女を殴ることもできない。子供ともまるで同じ年頃の仲間のように手を組んで金を払い、川で溺れる少年を沈めてしまう非情さもない。見捨ててたら逃げられたかもしれないのに。

最後、面会に来た恋人から差し出されたコーヒーを飲もうとして泣きじゃくる。恋人と額をあわせ、二人とも泣く。
この涙は反省の涙なんかじゃなくて「ああ、俺って(あなたって)駄目な男だな」って言う涙。情けなくて泣いただけ。
外へ出たらまた同じ。
絶対に変わらない。
悲しいけど絶対に変わらないのだ。

だからこれは今の若者を描いた映画なくていつもいる人間を描いた作品だ。
これを観て「これよりは少しましかな」とか「そういう自分も同じくらい情けないかも」なんて思ったり、ちょっと安心したり。
そうだねえ、この人より少しだけしっかりしてたら「あー自分はここまで酷くはないか」と嬉しくなれる映画かもしれない。

女の子は可愛すぎるけど。
映画だから仕方ない。

あと、赤ちゃんの可愛さ。帽子が萌えだった。にゃふー。

主人公が成長していくビルドゥングスロマンというジャンルがあるが不成長物語というか未成長物語というか絶対成長しない駄目駄目人間ロマンというのもあるようだ。
それを観て「あ、まだ大丈夫」って安心させてもらうっていうジャンルなのかもしれない。

監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ 出演:ジェレミー・レニエ デボラ・フランソワ ジェレミー・スガール ファブリツィオ・ロンジョーネ
2005年フランス/ベルギー


ラベル:人間
posted by フェイユイ at 22:40| Comment(2) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おぉ!観て貰ったのですね、嬉しいです。・・☆手厳しいですね〜。私は、甘いのかな〜ラストに“希望”は感じたのです。悪になりきれないブリュノだからこそ。でも願望的希望かも。映画構成的に、最後の最後に“いくらなんでもここまで来たら反省しなさい”て事を云いたいが為の、ブリュノの情けない生活行為の数々を語った形かなと受け留めたので・・。
淡々と進む描写自体が好きです。ジェレミー・レニエも美形なのに情けなくてね。確かにデボラ・フランソワも綺麗過ぎですね。でもここでリアルに汚い子が非情な行為連発していくという展開になると、本当に救いのない、ルイス・ブニュエルの『忘れられた人々』みたくなっちゃう。^^;甘く描く事で観る者への救いになっているのかもしれませんね。それが限界といいますか。。
Posted by フラン at 2009年01月16日 16:28
あはは、そうですねー。厳しいというか、こういう人っていつまでも絶対このままだよねー、と感じただけなのですが。
批判する、ということではなく成長しきれない人の滑稽さと悲哀が入り混じった姿と思えて、それは多分多くの人もそうだと思うんですけどね(自分なんて成長しきれてない!)
重い、とか言う人もいるみたいですが、私はコメディとまでは言わなくてもおかしな物語って感じで楽しく観てました。
別にブリュノ以外はそんなに悲惨な目に会ってませんしね。ブリュノだけが可哀想です(笑)
でもやっぱり教育的な映画なのでしょうか?
フランスだけにモーパッサンのようなおかしさがあったような(わー知ったかぶりです。すみません、よく知らないのに^^;)
とにかくすっごく面白かったです。フランさん、ありがとうございます。
Posted by フェイユイ at 2009年01月17日 00:44
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