映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年01月16日

『山椒大夫』溝口健二

山椒大夫.jpg

狙ったわけではないのだが、昨日の子売りの話に引き続き人身売買の話である。
『山椒大夫』といえば昔アニメで観たせいなのか、お伽話のようなイメージを持っていたが、本作はその題材がリアリティを持って表現されている。どこか現在の派遣社員の話題とも重なるような(というのは言い過ぎなのか、その通りなのか)思いさえしてしまうのであった。

世間の風潮に流されていれば何不自由ない暮らしを送れたはずの貴族の親子がある日を境に地位を失ってしまう。
「人は平等であるべき。自分を戒めても他には情けをかけなければいけない」という信念を持った父親が上に逆らって年貢の取立てや徴兵を行わなかった為に左遷されてしまったのだ。
母と兄妹・安寿と厨子王は母の実家へと向かうがそこでも邪険にされ居た溜まれず、召使を一人連れただけでなんとか父君の元へと彷徨い歩くこととなる。
(昔観たのでは姉弟だったがここでは兄妹になっている)
母子は悪党どもに騙されて2艘の船で別々の場所へ売り飛ばされる。安寿と厨子王が売られた先が山椒大夫の屋敷だった。
とここまでは大体イメージどおりだが山椒大夫の屋敷にいる奴たちと安寿と厨子王の過酷な労働ぶりがなんともリアルな描写なのである。
そして父親から「絶対守るように」と言われた言葉を厨子王は蔑ろにして他の奴たちに酷い仕打ちをするようになっていく。
だが安寿は真直ぐな心を忘れず、兄を逃がす為に自殺する。
逃げ延びた兄は都で関白からその身分を認められて丹後の守となり、山椒大夫を追い出し、虐げられた奴たちを救う。そして妹の死を知る。
厨子王は守の地位を投げ出し、佐渡にいるという母を捜し訪ねる。
砂浜でぼんやりと座る年老いた女性が母であった。
父の意志を守り、富と名誉を捨てた厨子王は母に謝る。
だが母は父君の言うことを守ったからこそ会えたのだと言い、二人は抱きしめあうのだった。

幻想的な童話ではなく、リアルな描写で観る『山椒大夫』はなんとも怖ろしい物語だった。
裕福になって母を迎えるのではなく、何もかも失った厨子王が老いた母と再会を喜びあう場面はそれまでの二人の人生を思うと涙をこらえることができない。
様々なものを失ってしまっても互いをいたわる姿に感動してしまうのだ。

美しい映像と共に大変素晴らしく見応えある作品だったが、なんとも惜しいのは厨子王役の花柳喜章が酷く見劣りしてしまうことだ。
何故この人なのか、とさえ思ってしまうのだが、甲高い声も動作も貴族の御曹司とは思えない品格のなさである。母役田中絹代と安寿の香川京子は申し分ないのだが。
やはり厨子王が主役として、本当は貴族なのに、という気品ある魅力を持っていて欲しい。
関白に訴えようとする場面などどうもいただけない。

とにかく今の世相にも重なるようなこの物語。
今頃になってやっと観た溝口なのだが、さすがに迫力ある作品だった。

山椒大夫の長男が何故かいい人で残忍な父親を嫌って家を出て行く。後で厨子王たちと絡むのかと思ったら何もなかった(と思うが)
彼はいったいどうなったんだろうか。

監督:溝口健二 出演:田中絹代 花柳喜章 香川京子 進藤英太郎 菅井一郎 河野秋武
1954年日本


ラベル:世相 家族
posted by フェイユイ at 23:21| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
山椒大夫の長男は、坊さんになり、厨子王を庇う寺の場面に出てきます。厨子王が関白に訴え出ると坊さんに話す場面がありますけど、その坊さんが長男なのです。昔の俳優さんになじみが無いので、彼が坊主頭で出てきたので気が付かなかったのでしょう。
Posted by kan at 2010年12月01日 08:44
ありがとうございます!

数年間映画三昧だった私がすっかり映画から(DVDとはいえ)離れて数ヶ月です。

そうでしたか。言われなければ、絶対気づかないことですねえ。当時のかたならすぐ「あっ」となったのでしょうね。

またこういう素晴らしい映画を楽しめる状態になりたいと思っております。
Posted by フェイユイ at 2010年12月05日 10:00
逝ってよし(ノ゚Д゚)ノシ★ http://e29.mobi/
Posted by 俺だ at 2012年02月11日 07:05
  山椒大夫の善良な長男役を演じたのは、河野秋武という名バイプレイヤーです。
 黒澤 明監督の「我が青春に悔いなし」にも、藤田 進に敵対する、糸川検事の役を好演していますよ。
Posted by 橋本 英一 at 2012年08月28日 23:57
 山椒大夫で善良な長男(太郎)を演じたのは、名バオプレーヤーの河野秋武です。彼は黒澤 明監督の「我が青春に悔いなし」で、藤田 進に敵対する、糸川検事役で好演していますよ。
Posted by 火の車 at 2012年08月29日 00:09
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。