映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年01月18日

『近松物語』溝口健二

近松物語2.jpg近松物語.jpg

不義密通は引き回しの上磔という時代にその罰を受けても愛し合った二人の物語。

物語は現在の意識ですればとんでもない不条理を感じてしまうものだが、その不条理さがあるからこそ、不義の上での愛に真実を感じてしまうものなのだろうか。
映像がシンプルでありながら計算された極め付きの美しさであり、悲恋の儚さが際立って感じられる。
茂兵衛が崖を下っていくのをおさんが追いかける場面は先日観た『山椒大夫』で厨子王が逃げ延びるために崖を下る構図カメラワークとほぼ同じものでどちらも登場人物の心も表現しているような迫力のあるものになっている。
特に本作では追いかけるおさんと逃げようとする茂兵衛の気持ちが伝わってくるものだった。

一体この作品で一番悪いのは誰なのか、などというのは仕方のないことかもしれないが出来が悪く妹に何度も金の無心をしておきながら本人は脳天気な兄、大金を儲けていながら妻の苦悩を和らげてやることもしない吝嗇な夫、商人を利用しておきながら最後には権力で押しつぶしてしまう侍か。それら権力の上に立つものと、それらに従うしかない奉公人、女性など虐げられる存在の人間たち。
茂兵衛もおさんもどこかでどうにかなるのではないか、と上の者を信じて頼ってしまった甘さがあって観ている者は歯噛みするしかない。
茂兵衛もおさんも何の下心もなく不義を行ったわけでもないのにとんでもない邪推から負われる身の上となってしまい、「こんな辱めを受けるくらいなら」と泣くおさんの為に茂兵衛は心中を覚悟する。
ところが死を目の前にして茂兵衛はおさんにずっと慕い続けていたことを告白する。身分違いの立場ではあるものの。
それを聞いたおさんは「生きていたい」と思う。もとより年の離れた夫とは実家の為の愛なき結婚であり、おさん自身も茂兵衛に思いを寄せていたのだろう。
その茂兵衛から愛されていることを知り、おさんは初めて愛される喜びを感じたのではないだろうか。
死を決意した水の上の舟の中でおさんは茂兵衛にすがりつき、生きたい、と願うのだ。
支えあいながら山へ逃げる二人だがか弱い奥方のおさんには険しい山道は過酷である。
まして追っ手がいることを懸念して茂兵衛は一人崖を下ろうとする。それを追いかけるおさん。この場面が美しい。
足を痛めたおさんが倒れてしまったのを見かねて茂兵衛は飛び出し、おさんの白い脚の傷を口で吸う。
そしてもう離れないと誓うのだった。

二人の道に外れた愛はおさんの嫁ぎ先である富豪の商家・大経師を取り潰しにしてしまう。茂兵衛の父親も村人にも何らかの沙汰があったのかもしれない。番頭(とんでもなく悪党の番頭だったが)にも罰が下る、というとんでもない状況を引き起こしてしまい、二人はその罪の罰として「引き回し磔」となる。
だが町中を引き回されるという辱めを受けながら、二人の顔は喜びに輝いていた。

引き回しにされる時、二人は一頭の馬に背中合わせに乗り縊られているのだが、その手はしっかりと握り合わされている。
厳しい規則の中の道ならぬ恋というのは何よりも激しいものなのだ。
おさんを演じた香川京子の「お家様」と呼ばれるお内儀がしとやかな中にも色香があって美しい。
茂兵衛には長谷川一夫。私はずっと長谷川一夫さん、という方はとても美しい演技者だとイメージしていたのだが、この前観た『雪之丞変化』でもそうだったが、どうしても一人異質な感じがしてしまうのだ。
稀代の美形役者と認められていた男性にそういう感覚を持ってしまうのは時代が変わったからなのか。まして田舎出の奉公人という顔に思えなくて彼の存在だけはやや不思議に思えてしまう。
先日の『山椒大夫』でも主役男性のみが不満だったので一体どういうものか、と言う気もするがあの人と比べればさすがに長谷川一夫のほうが見せてくれる。

そうした主演男優がいまいち腑に落ちないものだとはいえ、溝口映画の素晴らしさは確かに納得できる。
お内儀のヘアスタイルや服装も現在よくある時代物に出てくるものとはまったく違ってかっこいい。お歯黒もしているのに美しく見えるのである。男性の髷も違うものだ。
そうしたファッションや家財道具などを見ているのも楽しいものでこういうものでさえ現代ではなかなか表現できないものになっているのだろうか。

監督:溝口健二 出演:長谷川一夫 香川京子 南田洋子 進藤英太郎 小沢栄太郎 菅井一郎 田中春男 浪花千栄子 十朱久雄
1954年日本


posted by フェイユイ at 22:56| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
溝口監督作は恥ずかしながら初めて観た次第です。BS深夜でしたので途中記憶が怪しかったりとにかく音声が・・昔の日本映画の音声の悪さはいかんともし難いものがありますよね。^^;で、ほとんど台詞聞き取れなくボーとみていたのですが。香川京子さん浮世絵のように綺麗でした。南風さんはただひとりはきはきした発声で聞き取りやすく、現代的可愛らしさが私は好ましかったです。映像は日本的情緒に溢れ「アアにっぽん・・☆」と云うしかありません。好きか嫌いかは別にして、ゆるぎない溝口作品世界、という感じです。
今BSでは黒澤明監督作品ベストテンをやっています。溝口とは全く異質な魅力の世界。しかしこちらも間違いなく日本人の映画。この頃の監督達の技量の高さに改めて驚愕を禁じえない。レベルが、違うんだよなぁ・・^^;と。
そういえば市川昆監督『炎上』も、完全には観られなかったのですが少し観ただけで非常に惹きつけられました。市川雷蔵氏物凄く良かったです。私は彼の時代物とか興味なかったのですがこの役での演技は本当に素晴らしかったです(激賞!)。^^
Posted by フラン at 2009年02月04日 20:40
溝口監督作品、観なきゃ観なきゃと思いつつ私もやっと今になって観ました^^;
思った以上に面白い作品だったので驚きでした。音声はDVDのほうがいいのでしょうか?まったく気にならなかったのですが。
黒澤はもう私には別格の方なのであの面白さは物凄いものです。ベストテンですかー。『七人の侍』じゃないのでしょうか?『羅生門』もいいですねー。
『炎上』ああっ!これも観なきゃと思いつつ未見で。レンタル予定には入ってるんですが(笑)絶対観ます。
Posted by フェイユイ at 2009年02月05日 00:53
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