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2009年02月04日

『息子のまなざし』ジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ

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Le Fils

『ある子供』で非常な感銘を受けた同監督作品。こちらはそれ以上に面白い作品だった。

この映画を観てると他の映画っていかに説明的に台詞をやりとりしてるのだなあ、と思わされてしまう。
確かに日常会話って前後が不明で突然聞きだすとなにやらわからなかったりするものだろうが通常の映画ではやはり観客というものを意識して物語の設定進行を説明していくわけである。この映画ときたらてんで無口で説明らしい説明ではなくいかにも普通の会話を側で聞いているかのようなやり取りだし、カメラもなんだか自分が彼らの後からついて歩いてるかのような視点で撮られている。効果音だとかバックミュージックなんていう現実にない音もなし。すぐ近くで彼らを見聞きしているかのような感じなのである。
だもんで冒頭しばらくいったい中年男が一体なんなのか、何故少年を付回しているかわからずと言っても私はこういう作業みたいなのを見てるのが好きなのでついつい見入っていたらいきなり一度訪ねて来た元妻らしい女性のところへ行って「奴が来た」と言い出す。そしてその少年が彼らの息子を殺した過去があることが突然ここでわかるのだ。

なんというサスペンス。
少年院を出所したその少年は中年男が勤めている学校の木工クラスに編入してきたのである。
中年男は少年の履歴書を見てすぐ彼だと知るがそのことを伝えてはいない。そして何故か元妻にはそのことを知らせてしまう。
中年男はやるべき教育をし、時には少年に親切な対応すらしながら自分の息子を殺した少年をじっと観察し続けるのだ。
そしてその間の中年男の心理、これからどうしようと思っているのか、の説明は一切なされない。
観る者は男の目や息つぎ、行動などで何を彼が考えているのか感じているのかを察していくしかない。
何故男は学校にも少年にも過去の出来事を告げず、元妻には言ってしまったのか。男の迷いが表れている。彼はここでもう少年を許そうか、と思い黙ったままで、許したくなくて元妻に言ったのだ。
彼は少年を監視しいつか殺そうとも考えたに違いない。だが許したい、と言う気持ちもあって揺れ動いている。
妻に打ち明けたのは彼のもう一つの気持ちでもある「絶対に許せない」という怒りを妻に言わせるためでもあっただろう。わが子を殺した犯人を許すことができるだろうか。この作品への感想は実際に子供を持っている人、特に小さな子を持っている人とそうでない人では違ってくるはずだ。
先日観た『シークレットサンシャイン』ではわが子を殺された母の立場で物語られていた。彼女は本作の元妻と同じようであり、途中からこの中年男のようになり、だがやはり心の奥では許せていなかった、という物語になっていた。
この中年男は少年をどう思っているのか。それは『シークレットサンシャイン』のような説明がまったくないのでつまり観客がどう思うのか、観ている自分が許すのか許さないのか、ということになりそうだ。
それは先に観た『ある子供』でもそうだったのだが、最後に泣いて反省しているような男が立ち直ったと思うのか少女がまた男を愛していると思うのか。あれでは私は男はそのまんまだし少女はやっぱり男と別れるか別れたほうがいい、と思ったのだが、この映画は中年男の葛藤の凄まじさを感じてなんとも言えない気持ちになってしまう。
映画では男の吐息が随分聞こえるのだがその息遣いで彼の気持ちが伝わってくるのだ。
なぜ彼はすでに他の生徒は済んだ木材の見学に少年一人だけを連れていったのか。その時殺意はなかったのか。
少年が男に「後見人になって欲しい」と言った時、男の心に優しいものが溢れたのではないか。
だがその後、少年に少年院に入った原因を聞き、殺人を犯したことをどう思っているのかと聞き、「5年も入ってたら後悔するよ」という答えをどう受け止めたのか。この時男の心に殺意が動いたのではないか。
それでもまだ男は授業を続け少年に木材を見せていく。誰もいない材木置き場。たくさんの木材。。少年は何も知らず男を信頼している。男が殺そうと思えばいつでも殺せる状況だ。少年はまさにこの時死と隣り合わせにいたはずである。
そして突然少年が殺したのは自分の息子だと告げる。とっさに逃げ出す少年。男に木材を投げつける。怖がる必要はない、話したいだけだと男が言う。だが逃げ回る少年を捕まえた時、男は少年の首に手をかけていた。
が、男は少年の首から手を放し座り込んだ。激しく息をするだけで何も話せない。少年もまた逃げることもやめ男の横で座り込んでいる。
やがて男は木材を荷台に積み始めた。ふと気がつくと少年がこちらをじっと見ている。逃げ出しもせず男と共に材木を積み男は持って来た紐で木材を縛る。この紐は少年の首を絞める為に持って来たのではないのだろうか。その紐で男は少年と一緒に木材を積み込む。

男は少年を許したのだろうか。
そう単純に許せるわけはないと思う。自分がもしこの立場だったら。いい子になった。はい許します、とはいかない。それどころか余計に辛くなっていくはずだ。
この作品ではっきりと言葉での解答になってないのはそう簡単に答えがでる問題ではないからだろう。
男はこれからも苦しむだろう。だが少年に二人の関係を打ち明けたことで少年は変わっていくのではないか。
少年の罪を知っても彼と関わりあい、殺せる機会にも殺さなかった。少年が「5年間償ったんだ」と言った言葉がいつか別の言葉に変わることを信じたい。
男の苦悩が終わることはないと思うが少年を殺さないでよかったといつか思ってくれることを願うばかりである。

監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ 出演:オリヴィエ・グルメ モルガン・マリンヌ イザベラ・スパール ナッシム・ハッサイーニ クヴァン・ルロワ
2002年ベルギー


ラベル:犯罪 心理
posted by フェイユイ at 23:02| Comment(0) | TrackBack(1) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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息子のまなざし <2002/ベルギー> ★★★★★
Excerpt: Le Fils/ The Son/ 息子のまなざし 2002/103min/ベルギー=フランス 監督/脚本/制作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 出演: オリヴィエ・
Weblog: ★Movies that make me think★
Tracked: 2010-10-12 08:38
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